前頭側頭型認知症(ピック病)の基礎知識

前頭側頭型認知症は、脳の前頭葉や側頭葉の機能が委縮しておこる「前頭側頭葉変性症」のひとつで、40~60代の若いうちから発症しやすい若年性認知症のひとつでもあります。アルツハイマー型認知症をはじめとした代表的な認知症として挙げられますが、現在まで発症数が少なく、あまりよく知られていないのが現状です。特に初期は、もの忘れが目立たないことから、認知症と理解されにくい傾向があります。ここでは、前頭側頭型認知症の特徴について解説します。

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前頭側頭葉変性症の分類

前頭葉と側頭葉の萎縮が原因の前頭側頭変性症は、大別すると下記3パターンに分類されます。

  

種別 前頭側頭型認知症 進行性非流暢性失語 意味性認知症
症状 前頭側頭型認知症万引きをしてしまう 失語言葉に詰まる 意味性聞き返すことが多くなる
特徴 社会のルールが
分からない
徐々に喋れなく
なっていく
言葉の意味が
分からない

言語機能に障害がでる「失語」グループと、記憶力や判断力に障害がでる「認知症」グループに2分されます。「失語」グループには、言葉の意味が分からなくなる意味性認知症と、言葉の意味は分かるものの流暢に話せない進行性非流暢性失語症があります。前頭側頭型認知症は、従来ピック病と呼ばれるものに相当します(※)。ピック病は、脳の大脳皮質にピック球とよばれる変性組織が発生しておこる疾患です。

ここでは、代表的な前頭側頭型認知症の1つ、ピック病について解説します。

※厳密には、筋力低下が伴う「運動ニューロン疾患型」「前頭葉変性症」も含まれます。

前頭側頭型認知症(ピック病)の症状

私たちが生活する上で、前頭葉は衝動的な反応を抑え、理性的なふるまいを保つ役割を担います。また、意欲や計画性をつかさどる場所でもあります。この前頭葉の機能が低下することで、さまざまなBPSDが起こります。中核症状である記憶障害・見当識障害はなくても、性格や行動に異変を感じたら要注意です。下記は、起こりやすい症状の一例です。

脱抑制:社会のルールが分からなくなる
  • 穏やかだったのが粗暴になる
  • 周囲の人に気配りができなくなる
  • 万引き、痴漢、放尿等、本能や気分の赴くままふるまう
  • 過ちを指摘されても、悪気なく同じ行為を繰り返す
自発性の低下:物事に無関心、おっくうになる
  • 家事、仕事をしなくなる
  • 表情の変化に乏しくなる
  • 一日中何もせずゴロゴロとしている
  • 散髪や掃除、入浴を嫌がる
常同行動:同じ動作を徹底して繰り返す
  • 徘徊ではなく同じコースをひたすら歩く「周徊」
  • 紙に同じ文字を書き続ける
  • 絶えず手で膝をこすり続ける
  • 決まった時間に散歩等、決まった行動をする(時刻表的行動)
易刺激性:周囲の言動に刺激を受けやすい
  • 質問されるとよく考えずに即答する
  • テレビの音や街行く人の声等、外の刺激に敏感になる
  • 相手の言葉や動作を真似する
  • 目に入ったものをいちいち読み上げる
食行動の異常:特定の食べ物に固執
  • チョコレートや飴等、甘いものを食べ続ける
  • 窒息しそうなほど食べ物を口いっぱいに詰め込む
  • 噛まずに丸呑みする等、幼い衝動的な食行動が目立つ
  • 紙やタオル等、食べ物ではないものを口にする
記憶や見当識は保たれている
  • 最近の出来事はよく覚えている
  • 日にちや時間、人の名前も間違えない
  • 道や部屋などの場所は覚えている

他の病気と混同しやすいため誤診に注意!

症状が多岐に渡ることから、誤診されてしまうことも少なくありません。また、特に初期の頃は、記憶障害や見当識障害が目立たちにくく、脳萎縮も少ないことから、正しい診断を下すのが難しいと言われています。よくある誤診のケースは、下記の通りです。

統合失調症と誤診される
理性をコントロールすることがなできない脱抑制や、社会のルールを無視した行動が見られ点が、統合失調症や人格障害と似ていることから誤診されるケースです。
うつ病と誤診される
自発性が低下して、物事に無関心になったり、自分から動こうとしないことから、うつ病と診断される場合もあります。記憶障害や見当識障害が目立ちにくいので、周囲も医師も疑わないケースです。
正常と診断される
ピック病が原因で軽犯罪を起こしたとしても、知能検査の点数がよく脳萎縮も少ない場合、診断がつかないことがあります。中年から老年の分別盛りの時に万引きをした人の何割かは、ピック病の可能性があると言われています。

本人に病気の自覚がないことも、ピック病の特徴です。家族や周囲の人が、よく症状を観察して把握し、医師に伝えましょう。

本来の優しさやユーモアは最期まで残る!

症状の一覧だけを見ると、人間としての人格を失ってしまったように変貌すると思われるかもしれません。しかし、もともと人間として持っていた優しさやユーモアは、完全に消えてしまうわけではありません。粗暴な態度が目立ちながらも、時折冗談を言ったり、愛嬌のある表情をしたり、感謝の気持ちをポロリと言葉にしてくれることもあります。

そうした本来の優しさやユーモアは、病気が相当進んだ時期になっても、持続することが少なくないといいます。優しさが保たれる医学的な根拠やメカニズムは不明ですが、前頭葉や扁桃体の機能に起因すると考える説もあるようです。介護者は、日々の生活の中で、本来の優しさを「発見」し、温かく見守れるよう工夫をしていけると良いですね。

接し方のポイント

接する上での注意したい点は下記の通りです。

反社会的行動は病気の症状のひとつと捉える
ピック病が引き起こす、様々な困った行動を目にして「この人はもともと盗癖のある人なんだ」「低俗な人格な持ち主なんだ」と考えてしまう介護者は少なくありません。しかし、これらはあくまでも脳機能の障害です。運動麻痺や言語障害となんら変わらないことを理解して、本人を犯罪者のレッテルから守りましょう。
本人の行動パターンを先取りする
多くの場合、本人の行動がワンパターン化されます。万引きや無銭飲食など、言葉や力づくでやめさせようと注意するのは逆効果。本人に悪気がないので繰り返してしまいます。まずは、本人がよく行くお店や場所を把握しましょう。事前に先方に事情を話して、先にお金を渡しておく、あとでまとめて払う等の対応が必要です。集団行動が困難になる「立ち去り行動」がでたら、普段から興味のあるものを用意しておいて関心を引くことで落ち着くこともあります。
危険を伴う行動は毅然とした態度でやめさせる
歩道に飛び出す、暴力をふるう等、身の危険に関わる行動が続くようなら、毅然とした態度で臨むことも大切です。この時、中途半端な態度は禁物です。あいまいに笑ってごまかしたりすると、かえってエスカレートすることもあります。「それはだめです」「やめてください」と言葉でいさめると同時に、態度や表情でも介護者の意志をきちんと伝えましょう。たとえ言葉を理解できなくても、表情などを含む雰囲気の全体から意思が通じることもあります。
常同行動を上手に利用する
病気が進行すると、一度決めた同じ行為を時刻表のようにきちんと繰り返す「常同行動」が目立つようになります。外からは退屈なように見えますが、本人にとっては精神の安定を保つ上で大切な行為です。これらを逆手にとって、規則正しい生活サイクルをまわすのに活かすこともできます。例えば、一日のスケジュールを紙に書いて壁などに貼っておき、散歩や食事などの時間ごとに声掛けをする、などです。しかし、一度決めたルールを急変更すると興奮させてしまうので注意しましょう。
なじみの人間関係をつくる
特に初期は、記憶力が比較的に保たれているので、デイサービスなどの介護施設でも職員やほかの利用者とのなじみの関係をつくりやすい時期です。出来るだけ同じ場所で、相性のいい同じ職員に対応してもらうことで、ご本人の安心につながります。ピック病は、周囲の環境変化に刺激されやすいので、安らげる人間関係や環境を早期につくっておくことが大切です。
過ごしやすい「いつもの空間」をキープする
騒がしい話し声や、見慣れないもの、広すぎる部屋、強い光、匂いなど、外からの刺激に敏感になりやすく、不快に感じると騒いだり、その場を立ち去ろうとすることが多くなります。できるだけ静かで刺激の少ない、落ち着いて過ごせる“いつもの”環境を用意しましょう。
食べ物を管理しておく
甘いものばかりを食べる、際限なく食べ続ける等の症状が出てきたら、肥満や糖尿病といった生活習慣病をおこさないよう、注意が必要です。言葉で注意しても繰り返してしまいますので、目のつく場所に必要以上の食べ物を置かない、むせたり窒息しないように食事時は見守る、等の工夫をしましょう。

前頭側頭型認知症の治療

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残念ながら、現時点では有効な治療薬は存在しません。原因は、前頭葉・側頭葉の機能低下が原因であるとする説の他に、アルツハイマー型認知症をひきおこすタウたんぱくが原因とする説が浮上しており、はっきりしていないのです。そのため、他の病型と比べても、治療が難しいといわれています。

しかし、BPSDを落ち着かせる対処療法として、精神安定薬やうつ薬が効果的である場合があります。また、症状が相当進行するまで、記憶機能や見当識が保たれていることが多いことから、行動上の危険性がない範囲でその行動をそのまま受け入れることで対処することもできます。(例えば、家を出て行ったとしても、迷子や事故に遭う心配が少なければそっとしておく、等)

 

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