認知症には中核症状とBPSD(周辺症状、または行動・心理症状)があり、その人の性格や生まれ育った環境、発症した症型によって現れる症状は変わります。
ここでは、中核症状とBPSD(周辺症状)の説明と、四大認知症と呼ばれるアルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症について、それぞれの特徴、該当する症状、対応方法を解説します。
※四大認知症をさらに分類すると、脳の神経細胞そのものが変化して起こる変性性認知症(アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症)と、脳梗塞などの疾患や脳挫傷といった外的要因で起こる認知症(脳血管性認知症)に分かれる。
認知症の症状を知る
認知症の本質(脳細胞の障害)に起因する中核症状と、その中核症状を取り巻く行動・心理症状とも言われている周辺症状(BPSD)の2つがあります。
中核症状とは?
記憶障害や失見当(見当識)など、脳の認知機能が低下した人であれば誰にでも起こる症状です。主に、以下7つが挙げられます。
記憶障害(もの忘れ)
記憶障害は、もっとも基本的で代表的な中核症状です。とくにアルツハイマー型認知症の初期症状で強く現れます。脳内で記憶をつかさどる海馬が萎縮することにより、まず短期記憶が損なわれます。そのため、何十年も昔の古い記憶は覚えているのに、直近の新しい出来事はすぐに忘れてしまう、といった現象がみられます。さらに記憶障害には、記名力の障害、エピソード記憶の喪失、記憶の逆行性喪失といった3つの特徴があります。
見当識障害(失見当)
「見当識(けんとうしき)障害」とは、「時間」「場所」「人物」を認識することが難しくなる症状です。今日は何月何日なのか、今どこにいるのか、目の前にいる相手が誰なのかが、進行に伴い順番に分からなくなります。「いま何歳ですか?」という質問に答えられなかったり、慣れ親しんだ場所でも道に迷ったり、親しい友人が誰なのか分からなくなるといった症状がみられます。自分が置かれている状況を把握する力が低下するため、しばしば状況に合わない行動がみられます。
高次脳機能障害(失語・失認・失行)
高次脳機能障害とは、脳の損傷によって、機能に問題が生じた状態です。交通事故や脳卒中が原因で起こることが多いですが、認知症で脳が変性した場合にも認められます。次の失認、失行、失語もその一種です。
失認
目や耳など、物事を見たり聞いたりする機能自体に問題がないのに、ものごとを正しく認識できなくなることです。五感(視覚、嗅覚、聴覚、触覚、味覚)から脳へ伝達していく過程で、情報が正常に処理されなくなってしまうため、ものとの位置関係がつかめないなど、状況を間違って認識してしまいます。
【例】文字を眺めても何が書いてあるのか読めない、目の前にある朝食を食べるものだと認識できない
ただし、介護者の適切な声がけやサポートで対象のものごとを正しく認識することが可能です。
失行
手足の麻痺などがないにもかかわらず、脳の障害のために簡単な日常的な動作ができなくなる症状です。脳のどの部分にダメージを受けているかで、いくつかのタイプに分類されます。
【例】衣服を脱ぎ着できない(着衣失行)、簡単な図形が描けなくなる(構成失効)、ボタンをはめるなど指先の細かい動きができない(肢節運動失効)、「歯を磨いて」など言われたとおりの行為ができない(観念運動性失行)
周囲の人ができる工夫としては、動作に必要な手順を減らしたり、それでも一人で難しい行動には介助に入るといったことがあります。
失語
聞く、話す、書く、読むという、自分の言いたいことを言葉であらわす言語機能が低下することです。そのため、うまく言葉が出てこず話に詰まる、頻繁に言葉を言い間違える、文字が書けない、読めない、といった症状がみられます。
この場合、分かりやすい言葉ではっきりとゆっくり話す、ジェスチャーを取り入れる、急かさず答えを待つ、といった周りのコミュニケーションのとり方で症状をサポートすることができます。
実行機能障害、判断力の低下
普段当たり前にしていた行動の段取りができなる症状です。前頭葉の機能低下が原因で起こります。これまで難なくできていた仕事や家庭でミスを連発する、同時に複数のことを行えない、といった症状がみられます。
【例】
・湯を沸かしながら野菜を切るなど、二つの行為が同時にできない等
・長年乗っている車の運転がうまくいかないなど
この実行機能障害について、身体で覚えた記憶(手続き記憶)は影響しにくいといわれています。習慣になっている行動を活かした役割を任せる、といった対応が有効です。
理解、判断力の障害
物事を思考するスピードが遅くなり、一度に処理できる情報の量が低下する症状です。また、「ちょっと」や「ほとんど」といったあいまいで抽象的な表現を理解することが難しくなります。普段と異なる出来事があると混乱してしまう傾向があります。あいまいな言葉は避け、具体的に分かりやすい言葉で話しかける、慣れ親しんだ生活環境を保つといった周りの工夫が必要です。
【例】
・所持金に見合わない高額商品を購入してしまう
・猫と犬の違いがはっきりと分からない
BPSD(周辺症状)とは?
Behavioral and Psychological Symptoms of Dementiaの略語で、「周辺症状」や「行動・心理症状」とも呼ばれています。中核症状で起こる記憶障害や判断力の低下が引き起こす不安や混乱のあらわれです。
必ずしも全員に起こるのではなく、認知症の人をとりまく生活環境や人間関係、ご本人の性格によって出方が大きく左右します。特に、入院や転居といった環境の変化、骨折や貧血といった体の変化があると、周辺症状がでやすくなったり、ひどくなりやすい傾向があります。介護者にとっては、中核症状よりも周辺症状のほうが大きな負担になります。
食べない
食べ物を「食べない」、「食べられない」、「飲み込めない」こと。原因としては、食べものかどうか判別がつかない見当識障害や、飲み込み方が分からなくなる失行、舌や喉が正常に動かない嚥下機能の障害、その他の体調不良など、さまざまなケースが考えられます。ご本人の様子を観察しながら、焦らず、これならと思ったことは何でもやってみることが大切です。
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拒否
食事や入浴、トイレ、薬の服薬など、介護者による介助を拒むことがあります。背景には、病気でいろいろなことができなくなった自身への苛立ちや、自分の気持ちが認められないことへの不満があると考えられています。特に、無理やり指示に従わせようとしたり、子ども扱いをするなど、高齢者のプライドを傷つけることがあると、介護者への不信感が生まれ、拒否の姿勢がいっそう強まります。
対応としてNGなのは、無理強いすること。ご本人にとって抵抗のないことから少しずつ提案する、ケアを受け入れやすい雰囲気作りことから始めてみましょう。
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暴言・暴力
普段は穏やかな人が突然怒鳴ったり、暴力をふるうことがあります。認知症で脳の前頭葉が障害されると、怒りの感情が刺激され、怒りっぽく、攻撃的になるためです。また、病気を受け入れられない自分への苛立ちや、被害妄想、身体接触を含むケアへの不快感、まわりからの不当な扱い、不安など、さまざまな要因が影響しています。
理想的な対応としては、怒りの原因を見つけて取り除くことです。また、最近ではご本人の自尊心を傷つけずに接するユマニチュードというケア手法が注目を集めています。どうしても暴力が止められない場合、薬物によって鎮静化する方法もあります。ただ、副作用で症状悪化の原因につながりやすいため、最終手段として捉えるのが良さそうです。
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徘徊
どこともなくあちこち歩き回る状態。とくに進行した認知症で頻繁にみられます。他人には歩き回る目的や意味がわかりにくいですが、ご本人にとっては必ず理由があります。例えば、今いる場所が自分の家ではないと感じて居場所を探しに外に出てしまう、退職したはずの会社に出勤しようとする、などです。
探している間に本来の目的を忘れ、道に迷ってしまうケースがあります。2016年には年間1万2000人以上の認知症の人が徘徊によって行方不明になっており、社会全体での対策が望まれています。
睡眠障害
睡眠をつかさどる神経細胞や体内時計の調整機能が狂うことで、昼夜が逆転したり、昼夜関係なく寝たり起きたりする症状です。人によっては昼間うとうとし、夜になると興奮して「夜間せん妄」状態になる場合もあります一日の生活リズムを規則正しいものに戻すケアや、心地よく眠れるような工夫が大切です。
異食
食べものではないものを口に入れたり、食べてしまう行為です。認知症が進行し、食べものとそうでないものの判別がつかなくなることで起こります。ただ、ご本人の中に精神的なストレスがあるため、助けを求めているサインのひとつとも考えられています。
異食は、ビニール袋や薬品など、口にするものによっては窒息や中毒につながる危険度の高い行動です。事故につながる前に危険の高いものは置かない、見守るといった周りの注意が必要です。
うつ、抑うつ
無気力、無関心、落ち込みといった症状は、認知症の初期に多くみられます。元気や意欲がなくなる抑うつ症状に加えて、不眠や食欲不振、胃腸障害を伴うこともあります。脳の障害に加え、病気による自尊心の低下もその一因と考えられています。
周囲が気をつけたいのは、これまで続けてきた趣味をやめた、外出や人との会話ををおっくうがるようになったなどの初期症状を見逃さないこと。また、脳を心地よく刺激する働きかけが有効です。音楽療法や回想法、アロマテラピーなど、ご本人に合ったアプローチを選びましょう。
幻視・幻聴
現実にはないものがみえるのが幻視、聞こえないはずの音が聞こえるのが幻聴です。レビー小体型認知症では、初期症状として幻視がよく現れます。「赤い服を着た女の人が部屋の隅でこちらを見ている」等、見えているものがリアルで非常に生々しいのが特徴的です。また、人や虫、小動物といった具体的なもののほかにも、単に光や色が見えると訴える人もいます。
幻聴では、人の話し声のほか、虫が飛ぶ音など外部から聞こえる場合だけでなく、自分の体の中から聞こえたり、頭の中にこだますると訴える人もいます。
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せん妄
時間や場所が分からなくなったり、幻覚が生じたり、錯覚や妄想にかられるなどといった認識障害です。「○○が私の悪口を言っている」「誰かが家に勝手に入ってきた」など、ありもしないことで怒りをあらわにすることもあります。特に夜間に起こりやすく、「夜間せん妄」とも呼ばれます。
せん妄は認知症に限らず、脳卒中、手術後の痛み、水不足や栄養の不足、寂しさや不安といったさまざまなことが引き金となって起こります。特に入院や引越しといった変化が引き金になりやすく、生活環境が変化する際には注意が必要です。
もの盗られ妄想(被害妄想)
「財布が盗られた」など、大事なものを盗まれたと訴える症状で、認知症の初期の頃によくみられます。実際は、記憶障害によりどこかに置き忘れたり、しまいこんでいるだけのことが多いのですが、忘れた自覚がないため「盗まれた」という被害妄想が生じます。
もの盗られ妄想を抱く背景には、今の自分の状態をうしろめたく感じているご本人の心境があります。訴えを否定したり無視をするのではなく、一緒に探す姿勢をみせるなど、ご本人の気持ちを尊重した対応が大切です。
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ろう便
認知症が進行し、末期になると排泄の障害が起こるようになります。便をもてあそぶろう便や、尿をまき散らすといった行動です。主に排泄の失敗から起こりやすく、オムツの不快感のほか、残便感や便秘で便を手で出そうとすることも代表的な原因です。
ろう便への対応として、排泄パターンに合わせた時間単位でのトイレ誘導や、水分摂取による便秘の解消、その他ご本人が感じている不快感を取り除くといったものが有効です。
介護側の負担が大きいBPSD
さまざまなBPSDはおよそ9割の認知症の方に発生します。物盗られ妄想は初期のころから現れやすく、抑うつや不安感も比較的早期に出現しやすいといわれています。一方、幻覚妄想や徘徊は中期に多く見られる傾向があります。異食などは、認知機能の低下が進んだ後期によく見られます。
中核症状は、診断上大変重要ですが、介護をしていく上で大きな問題になるのはBPSDです。本人や家族の安心・安全な生活を脅かすため、ケアや治療の必然性が高いと言われています。
認知症の種類を知る
種類別に、症状の特徴や接する時の注意点を知り、早期発見や適切なケアにつなげていただければと思います。
各認知症の割合を知る
アルツハイマー型認知症が全体の55%を占めています。次いで、レビー小体型認知症15%、脳血管性認知症10%となっています。これら3つの認知症をあわせて「三大認知症」と呼ぶこともあります。
統計計測外となっている、複数の原因疾患が合併した(例えばアルツハイマー型と脳血管性が合わさった)混合型も多いため、割合については、参考までに留めておくのが良さそうです。なお、混合型は専門医でも診断が難しいといわれているのが現状です。
アルツハイマー型認知症はどんな病気?
アルツハイマー型認知症は、認知症の中心を占める代表的な疾患です。日本で確認されている認知症のうち半数以上がアルツハイマー型認知症です。脳内にアミロイドβと呼ばれる特殊なタンパク質が蓄積することにより脳の神経細胞が壊れ、脳が萎縮します。
特に側頭葉にある海馬とよばれる記憶をつかさどる部位が萎縮しやすく、もの忘れが目立つようになります。
代表的な症状
アルツハイマー型認知症の症状は、進行する段階によって現れる症状は変化します。初期症状で現れやすい代表的なものは次の通りです。
- 記憶障害
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- 同じことを何度も言ったり、聞いたりする
- 約束の内容を忘れるのではなく、約束したこと自体を忘れる
- ご本人に「忘れた」自覚はない
- 見当識障害
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- 今日が何年か、何月か、何曜日か、季節はいつか分からなくなる
- 自分のいる場所が分からなくなり道に迷う
- 判断能力の低下
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- いつも作っている料理の手順が分からなくなる
- 夏なのにセーターを着たり、毎日同じ服ばかり着る
- 自発性や意欲の低下
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- ずっと続けてきた趣味に関心がなくなる
- 一日中ぼんやりしたり、うとうとしている
- 怒りっぽくなる
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- そわそわと落ち着きがなくなり、些細なことで怒る
- 大事なものを「盗まれた」と主張する
- 幻覚・幻視
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- 実際には存在しない人、虫、犬猫などの小動物が生々しく見える
- 子供の声やテレビの音など、聞こえないはずの音が聞こえる
- 虫が身体を這い上がってくる感覚に襲われる
- パーキンソン症状
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- 手足が震える、動きが遅くなる、筋肉がこわばる
- 身体のバランスが悪くなり、常に左右どちらかに傾いている
- 無理に身体を動かすと歯車のようにぎこちない動きになる
- 認知機能の変動
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- 頭がボーッとする時と意識がはっきりしている時の差が激しい
- 正常な時と調子が悪い時を日単位、時間単位で繰り返す
- 薬剤過敏性
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- 薬の副作用が出やすい
- 痛み止めなどの市販薬が効き過ぎて具合が悪くなる
- レム睡眠行動障害
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- 睡眠中に大きな声で叫ぶ
- 寝ているときに手足を激しく動かして怪我をしてしまう
- まだら認知症
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- 症状が一定せず、日や時間帯によって変わる
- 朝は元気だったのに、午後には鬱っぽく言葉が出てこない
- 運動機能障害(歩行障害、言語障害、嚥下障害)
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- うまく物を飲み込めない
- 手足のしびれや片麻痺、震え等のパーキンソン症状
- 失語、ろれつがまわらない等の発語の障害、尿失禁など
- 抑うつ状態
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- 気分の落ち込みが激しい
- 夜になると意識障害を起こして取り乱す
- 感情失禁
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- 喜怒哀楽といった感情のブレーキがきかなくなる
- 「こんにちは」と声をかけただけで涙を流して泣き笑うなど
- 社会のルールが分からなくなる(脱抑制)
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- これまで穏やかな性格が急に粗暴になる
- 周囲の人に気配りができなくなる
- 万引き、痴漢、放尿等、本能や気分の赴くままふるまう
- 自発性の低下
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- 物事に無関心、おっくうになる
- 家事、仕事をしなくなり一日中寝ている
- 同じ動作を徹底して繰り返す
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- 徘徊ではなく同じコースをひたすら歩く「周徊」
- 紙に同じ文字を書き続ける
- 決まった時間に散歩等、決まった行動をする(時刻表的行動)
- 周囲の言動に刺激を受けやすい
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- 質問されるとよく考えずに即答する
- テレビの音や街行く人の声等、外の刺激に敏感になる
- 目に入ったものをいちいち読み上げる
- 食行動の異常…特定の食べ物に固執
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- チョコレートや飴等、甘いものを食べ続ける
- 窒息しそうなほど食べ物を口いっぱいに詰め込む
- 噛まずに丸呑みする等、幼い衝動的な食行動が目立つ
以上が初期の頃に出やすい主な症状です。
対応のポイント
認知症の方と接する上での大原則は、ご本人を否定しないことです。認知症の人が見えている世界を理解し、現実とのギャップを極力感じさせないようにすることが、認知症の人にとっても介護者にとっても一番良い方法です。
例えば、すでに食事を済ませたすぐ後に「ごはんをまだ食べていない」と言い出すことはよくあります。そんな時は、「さっき食べたばかりじゃないの」と間違いを指摘するのではなく、「遅くなってごめんなさい。いま食事の支度をするから待っていて」とご本人の望む答えを選びましょう。
初期の頃は、認知症を少しでも軽くしたいと注意したり、叱ったりしがちですが、これは逆効果です。認知症の人は言われた内容をすぐに忘れ、「嫌なことを言われた」感情だけが強く残り、症状悪化のリスクが高まります。
一方、認知症の人の心が穏やかになると、精神的にも安定します。イライラや不安がなくなれば、認知症の特徴でもある暴言やせん妄といった周辺症状がおさえられ、結果的に認知症の進行を遅らせることにつながります。
アルツハイマー型認知症の原因・症状・治療についてより詳しく知る
レビー小体型認知症はどんな病気?
レビー小体型認知症は、レビー小体と呼ばれる特殊なたんぱく質の蓄積が原因で起こる認知症です。レビー小体が脳内に蓄積することで神経細胞が壊れ、さまざまな症状を引き起こします。このレビー小体は、パーキンソン病でもでも同じく出現する物質のため、パーキンソン症状を伴った認知症として進行しやすい特徴があります。また、代表的な認知症の症状である記憶障害(もの忘れ)よりも先に幻視という特徴的な症状が現れることも特徴的です。
代表的な症状
対応
レビー小体型認知症はアルツハイマー型認知症以上に、まわりの人の対応や環境、治療薬の使い方で症状に影響が出ます。まず、見えないものが見える幻視への対応として、ご本人には実際に見えている事実を受け入れることが大切です。「誰もいないよ!」と強く否定することは、ご本人が混乱し、症状の悪化を招きます。ご本人の気持ちを汲み取った上で、「どこに見える?」「どんなふうに見える?」等、対応するのが良いでしょう。また、多くの場合、幻視は触ると消えます。幻視が見えている場所へ介護者が近寄り、触ってみるのも良い方法です。
また、薬剤への反応が過敏に出やすいため、薬を服用する場合は十分な注意が必要です。少量ずつ量を調整し、副作用と思われる症状が出たら、すぐにかかりつけ医に相談しましょう。
脳血管性認知症はどんな病気?
アルツハイマー型認知症の次に多いとも言われる、代表的な病型です。原因は、脳梗塞や、脳出血、くも膜下出血、脳卒中、生活習慣病など。脳自体が変性するのではなく、なんらかの疾患や、外傷の影響を受けて発症します。アルツハイマー型認知症が健康な女性がなりやすいのに対して、脳血管性認知症は、動脈硬化が進んだ男性に多い傾向があります。生活習慣病があると、発症リスクが高まります。
代表的な症状
ダメージを受けた脳細胞の場所によって個々の症状は異なります。
共通して出やすい代表的な症状は、次の通りです。
対応のポイント
脳血管性認知症の場合、まずはまだら症状や感情の起伏が激しくなるといった特徴を介護者が正しく理解しておくことが大切です。事前に症状を知っておくことで、いざ目の前で症状が表れたときにも落ち着いて対応することができます。
また、脳出血や生活習慣病の再発は、症状悪化の決定的な原因です。血圧をコントロールする降圧薬の服用や、規則正しくストレスを貯めない生活を心がけましょう。
前頭側頭型認知症(ピック病)
前頭側頭型認知症は、脳の前頭葉や側頭葉の機能が委縮することが原因で発症します。ピック病とも呼ばれます。40~60代の若いうちから発症しやすい若年性認知症のひとつですが、発症数が少ないため認知度が低い疾患です。記憶障害(もの忘れ)の進行は目立ちにくい一方で、理性的な振る舞いを保ちにくくなる特徴があります。脳萎縮が少ないことから、統合失調症やうつ病と混同しやすく誤診されることも少なくありません。
代表的な症状
対応ポイント
ピック病が引き起こす、人格の変化や反社会的な行動を目にして「この人はもともと身勝手な人なんだ」と考えてしまう介護者は少なくありません。しかし必要なのは、あくまでも脳機能の障害と割り切ることです。運動麻痺や言語障害となんら変わらないことを理解して、ご本人を犯罪者のレッテルから守りましょう。
また、ピック病は、周囲の環境変化に刺激されやすいので、ご本人にとって安らげる環境を早期につくっておくことが大切です。例えば、毎週同じ場所で、相性のいい仲間と合う等、なじみの人間関係をつくっておくと落ち着いて過ごしやすくなります。
【その他】治る認知症
現状、四大認知症の根本的な治療方法は見つかっていません。しかし、「治療が可能」な病型もあります。
なかでも特発性正常圧水頭症は、早期発見できていれば手術によって根本治療が可能です。まだ認知度が低いため、診断がつくことが少ないですが、家族がその症状の特徴(歩行障害、認知機能の低下、尿失禁)を知っておくことで、早期発見が可能です。