認知症の症状と種類 押さえておきたい基礎知識

認知症には中核症状とBPSD(周辺症状、または行動・心理症状)があり、その人の性格や生まれ育った環境、発症した症型によって現れる症状は変わります。

ここでは、中核症状とBPSD(周辺症状)の説明と、四大認知症と呼ばれるアルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症について、それぞれの特徴、該当する症状、対応方法を解説します。

 
※四大認知症をさらに分類すると、脳の神経細胞そのものが変化して起こる変性性認知症(アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症)と、脳梗塞などの疾患や脳挫傷といった外的要因で起こる認知症(脳血管性認知症)に分かれる。

 

認知症の症状を知る

認知症の本質(脳細胞の障害)に起因する中核症状と、その中核症状を取り巻く行動・心理症状とも言われている周辺症状(BPSD)の2つがあります。

中核症状には、記憶障害、判断力障害、実行機能障害、見当識障害、失認・失行・失語があり、BPSD(周辺症状)には行動症状である、暴言・暴力、徘徊、睡眠障害、食行動異常、失禁・ろう便と、心理症状である、妄想、幻覚、不安・焦燥、抑うつ、介護拒否があります。
※クリックして拡大

中核症状とは?

記憶障害や失見当(見当識)など、脳の認知機能が低下した人であれば誰にでも起こる症状です。主に、以下7つが挙げられます。

記憶障害(もの忘れ)

主にアルツハイマー型認知症の初期に多く見られます。記憶を格納する海馬が萎縮することで、短期記憶が格納しにくくなり、直近の出来事を覚えられなくなります。
記憶障害の特徴と対応を詳しく知る
アルツハイマー型認知症の特徴と対応を詳しく知る

見当識障害

見当識には、以下3つの種類があります。

時間の見当識
今日が何月何日、自分の年齢などの認識
場所の見当識
今いる場所についてなどの認識
人の見当識
自分が誰であるか、家族の顔は分かるかなどの認識

見当識に障害が起こることで、今いる場所がわからない、時間感覚がなくなったりします。進行すると、孫の姿を見て「お母さん」というなど、人を間違えることもあります。

失認

五感(視覚、嗅覚、聴覚、触覚、味覚)から脳へ伝達していく過程で、情報が正常に処理されなくなってしまうため、ものとの位置関係がつかめないなど、状況を間違って認識してしまいます。

失行

運動機能に問題はないのに、身についていた日常的動作が分からなくなります。例えば、洋服の着方がわからない、野菜の切り方がわからないなどです。

失語

聞く、話す、書く、読むといった言語機能が失われていきます。聞き返しが増える、言葉がなかなか出てこないなど。

実行機能障害

普段当たり前にしていた行動の段取りができず、実行が難しくなります。料理の手順が分からなくなる、トイレでのしゃがみ方がわからなくなるなど。

判断力の障害

あいまいで抽象的な表現が理解できなくなります。雪が降るほど寒いのに、長袖を着ようと思わないなど。

BPSD(周辺症状)とは?

Behavioral and Psychological Symptoms of Dementiaの略語で、「周辺症状」や「行動・心理症状」とも呼ばれています。必ずしも全員に起こるのではなく、脳の機能が低下し生活が不自由になることによって生じる混乱や、本人の元々の性格や生活環境、介護者との人間関係によって大きく左右される症状です。

徘徊

あちこち歩きまわること。見当識障害のため自分の居場所がわからなくなり、自宅へ帰れなくなることもあります。2013年には年間1万人以上の認知症の人が徘徊によって行方不明になっています。

徘徊をもっと詳しく知る(原因と症状、対応策)

異食

食べものではないことを食べてしまう行為です。ティッシュペーパーやおむつなどを食べる等、中核症状である判断力の低下や失認が原因のひとつです。

異食をもっと詳しく知る(原因と症状、対応策)

嚥下障害

食べ物を「食べない」、「食べられない」、「飲み込めない」こと。この摂食・嚥下障害の進行過程、認知症の病型によって異なります。

嚥下障害の原因と対応を詳しく知る
アルツハイマー型認知症の食事困難の原因と対応を詳しく知る

拒否

食事や入浴、トイレ、薬の服薬などの介助を嫌がる行動。その行動に不安を感じていたり、介護者への不満を拒否の形で表すこともあります。

入浴拒否の原因と対応を詳しく知る
食事拒否の原因と対応を詳しく知る
【コラム】「拒否」という言葉をやめませんか ~認知症介護現場から~

幻覚

いないものが見えたり、声が聞こえたりする。「部屋の隅に男の人が立っている」など。幻視はレビー小体型認知症に出やすい傾向があります。

【コラム】「赤ん坊はそこにいる!」レビー小体型認知症の幻覚への対応方法、ポイント

睡眠障害

睡眠をつかさどる神経細胞や体内時計の調整機能が狂うことで、夜眠れなくなったり、昼寝をしすぎてしまうなど。

睡眠障害(昼夜逆転、不眠)の原因と対応

抑うつ

ものごとへのやる気を失い、気分が落ち込んでしまう。認知症と診断されたことを気に病んでなるケースが多い。食欲がなくなることもあります。

妄想

猜疑心がはたらき、事実ではないことを強く思い込むこと。財布が見つからない時に、身近にいる人に盗まれたと思い込むなど。

妄想の原因と対応
【体験談】母の物盗られ妄想と戦った日々

暴言・暴力

身近にいる介護者などに、言葉で責め立てたり、暴力をふるったりする行動。背景には積み重なった不満や不安があることも多い傾向です。

【コラム】暴言が消えた!魔法みたいな認知症ケア「ユマニチュード」
【体験談】認知症の暴言・暴力行為が「足浴×タクティールケア」でなくなった話
【コラム】認知症の利用者からの暴力に介護職は耐えるしかないのですか?

介護側の負担が大きいBPSD

さまざまなBPSDはおよそ9割の認知症の方に発生します。物盗られ妄想は初期のころから現れやすく、抑うつや不安感も比較的早期に出現しやすいといわれています。一方、幻覚妄想や徘徊は中期に多く見られる傾向があります。異食などは、認知機能の低下が進んだ後期によく見られます。

中核症状は、診断上大変重要ですが、介護をしていく上で大きな問題になるのはBPSDです。本人や家族の安心・安全な生活を脅かすため、ケアや治療の必然性が高いと言われています。

※BPSDは、かつて問題行動・異常行動と呼ばれていました。介護する側からみれば「問題」「異常」であっても、本人にとってはその行動に至った理由が必ずあります。そうした理解が進み、最近では問題行動・異常行動とは呼ばれなくなりました。

 

認知症の種類を知る

種類別に、症状の特徴や接する時の注意点を知り、早期発見や適切なケアにつなげていただければと思います。

各認知症の割合を知る

アルツハイマー型認知症が全体の55%を占めています。次いで、レビー小体型認知症15%、脳血管性認知症10%となっています。これら3つの認知症をあわせて「三大認知症」と呼ぶこともあります。

認知症割合グラフ

統計計測外となっている、複数の原因疾患が合併した(例えばアルツハイマー型と脳血管性が合わさった)混合型も多いため、割合については、参考までに留めておくのが良さそうです。なお、混合型は専門医でも診断が難しいといわれているのが現状です。

アルツハイマー型認知症の概要・症状・接し方

アルツハイマー型認知症の特徴

アミロイドβやタウと呼ばれるたんぱく質が脳に溜まることで起こります。神経細胞が死に、脳が萎縮することで、知能や身体の機能が全体的に衰えていきます。発症率は男性より女性の方が高いと言われています。

他の病型と比べて、なだらかな坂道をたどるようにゆっくりと、ただし時間の経過とともに確実に進行することが特徴といわれています。

アルツハイマー型認知症の進行スピード

ある日突然発症するわけではありません。その潜伏期間は長く、人によっては20年以上におよぶ長い潜伏期間があり、その間じわじわと脳細胞が変性していきます。その進行ステージ(段階)は、軽度認知障害(MCI)⇒軽度⇒中等度⇒高度と変化します。

アルツハイマー型認知症の進行スピード

発症後の進行スピードは個人差がありますが、発病から4~6年の時間をかけて高度に移行するのが一般的と言われています。ただし、64歳以下で発症する若年性アルツハイマー病の場合は、進行速度が速まります。脳の変性の広がりに応じて様々な症状が現れ、進行するほど日常生活に支障をきたす影響度も大きくなります。

若年性認知症について詳しく知りたい方はこちら

症状は段階別に変わる

軽度認知障害(MCI)⇒軽度⇒中等度⇒高度と段階が変わるアルツハイマー型認知症ですが、それぞれの段階で現れる症状は違います。初期症状がみられ、「もしかして認知症かも?」と思われたら、専門医の早期診断により、症状を遅らせたり改善させることができます。

軽度認知障害(MCI)で見られる症状

正常レベルと発病までの中間的な時期は、軽度認知障害(MCI)と呼ばれ、認知機能の一部に問題はあるものの、日常生活には支障がない状態を指します。この段階で適切な治療を受ければ、認知機能の低下を遅らせ、発病を延ばすこともできるといわれています。

以前から知っている人や物の名前が出てこない
  • 「あれ」や「それ」といった代名詞を使って話すことが増える
  • 家族や親戚の名前が思い出せなくなる
人と約束をしたことを忘れる
  • 会う約束をした日時を間違える
  • 会う約束そのものを忘れてしまう
最近の出来事をよく忘れる
  • 連続ドラマのあらすじが思い出せない
  • 電話を切った直後、電話をしていたことを忘れる

軽度で見られる症状(初期症状)

記憶をつかさどる海馬を含む前頭葉が、ダメージを受けて始まるアルツハイマー型認知症。初期は、身近な人でなければ気づかないほど少しずつ出始めます。一番最初に異変に気づきやすいのは本人で、自分の認識と現実が噛みあわない状態がストレスとなり、不安やうつ状態を最も引き起こしやすい段階でもあります。

見当識は、時間⇒場所⇒人物の順番に、認識できなくなるものが増えていくのが一般的です。初期では、時間が分からないケースが多く見られます。

初期症状は次の通りです。

記憶障害
  • 数分前に言ったことと同じ内容を何度も尋ねたり、話しかけたりする
  • 日付や曜日など、年月日が分からなくなる
もの盗られ妄想
  • 通帳や財布、印鑑など、自分の大切なものが見つからなくなり、身近な人を疑う
  • 新しい担当ヘルパーに対して、「盗っ人」と言う
うつ状態
  • 趣味や習い事に興味を示さなくなる
  • 1日中ぼーっとしている日が多くなる
取り繕い
  • もの忘れで失敗したことを取り繕うために、積極的に作り話をするようになる
  • 質問に対して曖昧な回答をする
実行機能障害
  • 朝の身支度や料理の手順にまごつき、以前よりも時間がかかるようになる
  • テレビのリモコンなど、頻繁に利用する電化製品の使い方が分からなくなる

中等度で見られる症状

「アルツハイマー型認知症は、中等度が最も大変」と言う人が少なくありません。足腰は元気なまま、徘徊と呼ばれる一人歩きをしたり、暴れたりBPSDが最も出やすい時期であることが大きな理由です。この段階では、前頭葉からさらに変性が広がり、見当識障害も一歩進みます。現在の時間に加えて今いる場所も分からなくなるため、本人の混乱が一層大きくなる時期でもあります。介護者のケア次第で、心の落ち着きを取り戻すことは可能です。

中等度の状態で表れる代表的な症状は次の通りです。

見当識障害(時間・場所)
  • 真冬に半袖を着たり、真夏に長袖を着る
  • 道路を裸足で歩く
道具や手足が使えない(失行)
  • 食事が一人で食べられない
  • 着替えにも介助が必要
言葉がうまく使えない(失語)
  • 意味の通らない言葉を言う
  • 言葉が出なくなる
徘徊
  • 家の中を歩き回る
  • 外出した先から帰れなくなり、歩き回る
失禁・弄便
  • トイレ以外の場所で排泄をする
  • 排泄物が何か分からなくなり、便をいじってしまう

高度で見られる症状

高度のアルツハイマー型認知症は、寝たきりの状態へと移行する段階です。徐々に、脳内の大脳皮質の機能が広い範囲で失われていきます。最終的には「失外套症候群(しつがいとうしょうこうぐん)」と呼ばれる状態になります。これは、眼は動かすが、まぶたは閉じず、身動きひとつせず、言葉も発さない状態を指し、通常はこの状態になる前に肺炎や心不全等で亡くなります。

高度の状態で表れる代表的な症状は次の通りです。

失認
  • 長年連れ添った配偶者や、自分の子どもなど、身近な人の顔が分からなくなる
  • 視野に入る情報の半分が見えなくなるため、食事が並んだ際、右(左)半分だけ残す
表情がなくなる
  • 広範囲に脳機能障害が進んだ結果、話しかけても反応しなくなる
  • 表情を動かさなくなる
摂食障害
  • 嚥下障害等が進み、介助があっても食べ物を受け付けなくなる
  • 食べ方自体が分からなくなる
寝たきりになる
  • 歩行や、座位を保つことが困難になり、寝たきりになる
  • 寝たきりになることにより、症状がさら進んでしまう

接し方のポイント

同じことを繰り返し聞かれても怒らない
同じことを繰り返すのは、記憶障害による物忘れのためです。認知症の方は、「初めて聞いたのに怒られた」と思い、自分自身を否定された気持ちになります。また、感情の記憶は残るため、介護者に対し「この人は怒りやすい」と記憶されてしまいます。同じことを繰り返し聞かれても、否定はせず、別の話題に切り替えたりしましょう。

同じ質問を繰り返された時に“イライラ”しない2つのコツ
同じ会話の繰り返しから自分を守る「メモメモ切り返し法」
認知症で 「同じ事を繰り返し言う人」 に対しての 「4つの対応」 のはなし
認知症の記憶障害の3つの特徴

断られても無理強しない
お風呂に入らない、食事を食べないという言葉をよく耳にします。ここで無理強いすると、介護者や行為そのものに悪い印象を持ってしまいます。断るのには、必ず理由があります。食事を食べないのも入れ歯が合っていなかったり、歯茎が腫れている等、口の中が痛いから食べたくないということもあります。断られた理由をまず考えてみましょう。

認知症の人の入浴拒否、介護者はどう対応すべき?
「なぜ食べてくれないの?」認知症の人の食事拒否への5つの対応

孤独にしない、心の通った会話と人との関わりを増やす
初期の段階では、孤独な環境がうつに繋がることもあります。物忘れや見当識障害で一番とまどっているのは、ご本人です。「なんでここにいるんだろう?」「どこに行くつもりで車に乗ったんだろう?」と不安な気持ちは症状悪化の原因にもなります。介護者の温かい言葉や寄り添い触れ合う態度が安心感をもたらし、悪化を防ぐことにも繋がります。

暴言が消えた!魔法みたいな認知症ケア「ユマニチュード」って?

薬の服用時の反応を注意深く観察する(服用前からの変化があれば専門医に相談する)
薬による副作用の影響で、症状が悪化してしまう可能性があります。服用前までに見られなかった症状が服用後見られた場合は、早急に専門医へご相談ください。

認知症の薬についての詳細はこちら

音楽を聴く、買い物に行く、等楽しめるリハビリを実施する
非薬物療法を実施することで、症状の改善や進行を防ぐことができます。リハビリを強要するのではなく、ご本人が楽しんでできることを一緒に見つけていくことも、寄り添う介護と言えます。

認知症の非薬物療法についての詳細はこちら

レビー小体型認知症の概要・症状・接し方

レビー小体型認知症の特徴

レビー小体という神経細胞にできる特殊なたんぱく質がたまることで起こります。アセチルコリンとドパミンの2種類の神経伝達物質が脳内で低下していることが特徴で、認知機能の低下、パーキンソニズム(歩行障害)、うつ状態の3つを引き起こします。発症率は男性の方が高く、女性の2倍と言われています。

一番の特徴は、発症初期から幻視が現れることです。生真面目な人ほど発症しやすいと言われています。

レビー小体型認知症の症状

幻覚・幻視
  • 実際にはいない虫や小動物、子供などが部屋にいると訴える
  • 見知たことがない営業マンが家に来たという
  • 身体の異常
  • 常に左右のどちらかに傾いている
  • 腕が前で固まったりする
  • 意識消失発作
  • 意識が遠のき、うとうとする
  • 表情が暗い目の焦点が合わない
  • 薬剤過敏性
  • 市販の薬が効き過ぎて寝込む
  • 薬の副作用が出やすい
  • レム睡眠行動障害
  • 夜中の寝言が大きい
  • 寝てるかと思ったら急に奇声を発する
  • 嚥下障害
  • 食べることができたりできなかったり、日内変動がある
  • 食事中にむせやすくなる
  • うつ状態
  • 食欲がなくなる
  • 目に力がなく、表情が暗くなる
  • 最初からすべての症状が出るわけではありません。数年間はパーキンソン症状しかみられず、やがて認知機能の低下が加わることもあります。典型的な症状が揃いにくいため、最初に出た症状から、「パーキンソン病」や「うつ病」と誤診されることも多くあります。このように診断が難しいレビー小体型認知症に対して、最適な治療が出来るのが、コウノメソッドです。

    接し方のポイント

    • 幻視を否定しない
    • ご本人に見えているものや訴える症状をしっかり聞く
    • 返事や動作を急かさない
    • 睡眠中の転落に注意する(ベッドの下にクッションを敷く、柵をつける等)
    • 日中の転倒にも注意する(移動は付き添う、杖を使ってもらう等)
    • 一般の風邪薬などでも、薬の服用時には最新の注意を払う

    レビー小体型認知症と診断された樋口直美さんのインタビュー記事

    症状は改善しやすい?

    特に注意しなければいけないのが「薬剤過敏性」です。薬剤への感度が高いため、認知機能を改善させようとアリセプトを通常量使うと歩行できなくなり、歩行を改善しようとパーキンソン病治療薬を使うと幻視が強くなり、うつ状態を改善しようと抗うつ剤を使うと認知機能が悪化する…という特徴を持ちます。

    薬の副作用リスクが高いですが、悲観することはありません。薬に弱いということは、少しの薬で劇的に症状が改善するということでもあります。適切な薬の処方を行うことができれば、「治しやすい」とも言えるのです。コウノメソッドでは、レビー小体型認知症が疑われる場合は、薬剤の量を常識の1/3以下に抑えて処方して様子をみます。

    詳細記事:コウノメソッドで見る!レビー小体型認知症の治療例

    「隠れレビー」にも要注意

    診断が難しいもう一つの理由として、別な病気から移行してくる点があります。

    初診時にはアルツハイマー型認知症だった人が、数年後にレビー小体型認知症になっていることがあります。これは、東京都精神医学総合研究所の秋山治彦氏の仮説によると、レビー小体は封入体の一種で、脳内にできた老人斑を封じ込めたものだということです。すると、一部のアルツハイマー型認知症は、レビー小体型認知症に変わることになります。

    つまり、アルツハイマー型認知症の影に隠れて見逃される「隠れレビー」の可能性もあり、これに気づかないことで治療による悪化を最も招きやすくするのです。このように、いまだ解明されていないことが多いレビー小体型認知症と対峙するには、医師の力量が試されます。

    脳血管性認知症の概要・症状・接し方

    脳血管性認知症の特徴

    アルツハイマー型認知症の次に多いとも言われる、代表的な病型です。アルツハイマー型と比べると、まだまだ知名度はありません。

    代表的な原因は、脳の血管がつまる脳梗塞や、血管が破れる脳出血、くも膜下出血などの脳卒中など生活習慣病がもとで起こる疾患が挙げられます。脳自体が変性するのではなく、なんらかの疾患や、外傷の影響を受けて発症する二次性認知症です。

    どんな人がなりやすいの?

    健康な女性に多いアルツハイマー型認知症に対して、脳血管性認知症は、動脈硬化が進んだ男性に多い傾向があります。以下の持病や発病歴、生活習慣があると、脳卒中が起こりやすく、発病のリスクが高まります。

    • 高血圧
    • 糖尿病
    • 高コレステロール血症(脂質異常症)
    • 関節リウマチ(膠原病/こうげんびょう)」
    • 血液が固まりやすい
    • 煙草を吸う
    • ストレスに弱い
    • 運動不足

    1980年代までの日本では、高血圧や生活習慣病のリスク啓蒙が浸透しておらず、脳血管障害だけで重い認知症になる人も少なくありませんでした。その後、国をあげての健康促進によって生活習慣を気にする人が増えたことで、脳血管性認知症の全体数は少なくなったと言われています。

    本人も気づきにくい多発性脳梗塞に注意

    脳卒中

    脳血管障害のなかでも、もっとも原因になりやすいのが、脳梗塞です。救急車で病院に担ぎ込まれるような大きな脳梗塞ではなく、小さな梗塞が多数おこる「多発性脳梗塞」とよばれるタイプの疾患が多くを占めます。

    多発性脳梗塞は、目に見える後遺症がなく、ときには本人も発症したことさえ気づかない程度の軽い病気です。しかし、10年以上経過すると高確率で脳血管性認知症を引き起こします。

    脳血管性認知症の進行特徴

    脳の変性によって引き起こされる認知症は、潜伏期間が長く、ゆるやかに進行するのが特徴です。これに対し、脳血管性認知症は突然発症し、状態のダウンがはっきりとわかる段階的な進行が特徴的です。また、良くなったり悪くなったりを繰り返し、状態が一定しない傾向もあります。

    脳血管性認知症の進行

    脳梗塞や脳卒中、くも膜下出血になった日をきっかけにはじまり、その後、脳卒中等の発作が再発するたびに悪化していくのが一般的です。

    脳血管性認知症にみられる症状

    ダメージを受けた脳細胞の場所によって個々の症状が変わります。共通して起こりやすい代表的な症状は、次の通りです。

    まだら認知症…日や時間帯で症状が変わる
    脳梗塞や脳出血によって壊れた細胞と、壊れていない細胞があり、その障害の受け方も様々なので、症状が一定せずまだらに表れる現象です。脳の血流の加減によっても症状が変化します。例えば、朝は自分の名前もハキハキと言えたのに、午後になると鬱っぽく言葉が出てこない…等、つい最近まで出来ていたことが出来なくなる場合があります。
    運動機能障害…歩行障害、言語障害、嚥下障害など
    うまく物を飲み込めない嚥下障害、手足のしびれや片麻痺、震え等のパーキンソン症状、失語、ろれつがまわらない等の発語の障害、尿失禁など、運動機能のさまざまな障害もよく見られます。初期の頃から出ることもしばしばあります。
    抑うつ状態…気分の落ち込みが激しい
    特に初期は「できないこと」や「わからないこと」の自覚がはっきりとしている傾向があります。そのため、自身の状態にショックや不安を感じ、うつ状態になることも多くあります。夜になると意識障害を起こして取り乱す「夜間せん妄」も起きやすく、昼夜逆転する場合もあります。
    感情失禁…感情のブレーキが効かない
    脳血管性障害の最も特徴的な症状のひとつと言われるのが「感情失禁」です。感情の抑制がきかなくなることで、例えば、「こんにちは」と声をかけただけで涙を流して泣き笑う、些細なことで怒りの歯止めが効かなくなる等があります。これは、感情機能をつかさどる前頭葉の血流が阻害されることが原因で起こります。

    脳梗塞後の経過を注意深く見守るのが大切

    脳卒中の経過を見守る
    脳梗塞、脳出血、くも膜下出血といった脳卒中は、日本人の死亡原因の第3位。生命に大きく関わる事態のため、急性期治療が最優先され、患者さんの認知機能まで調べることはあまり一般的ではありません。記憶障害や運動障害、言語障害が出ていたとしても、脳梗塞の後遺症と判断されるケースが多くあります。急性期の治療やリハビリが一段落したとき症状が見られたら、可能性も視野に入れ、医師に相談しましょう。

    接し方のポイント

    「まだら症状」を理解する
    常識的なしっかりした部分と、どうしてこんなことをするのかという言動が入り混じるため、周囲の人も混乱しやすくなります。特に初期は、「なぜ、さっき出来ていたことができないのか」と、歯がゆく感じることもあるでしょう。しかし、時間によってムラがあることを理解し、症状が現れた時も落ち着いて対応することで、本人の混乱も最小限に抑えることができます。
    孤立させないように注意する
    抑うつ状態に陥りやすいので、他の人との交流を避けてひとりを好む傾向があります。介護施設で行われるレクリエーションやリハビリにも消極的になりやすく、人との接点が減ることで、自発性も失われるという負のサイクルに陥りがちです。地域の結びつきや役割をつくったり、集団行動を強制しない小規模のデイサービスを探したり、本人を孤立・孤独させないように気を配ることが大切です。
    食生活や運動等、生活習慣を見直す
    脳出血などの発作・再発は、症状悪化の大きな原因です。血圧やコレステロールが急騰しないように、軽いウォーキングをしたり、健康的な食生活を心掛けたり、ストレスを溜めない生活を心掛けましょう。

    前頭側頭型認知症(ピック病)の概要・症状・接し方

    media-436

    脳の前頭葉や側頭葉の機能が委縮しておこる「前頭側頭葉変性症」のひとつです。

    40~60代の若いうちから発症しやすい若年性認知症のひとつでもあります。アルツハイマー型認知症をはじめとした代表的な認知症として挙げられますが、現在まで発症数が少なく、あまりよく知られていないのが現状です。特に初期は、もの忘れが目立たないことから、認知症と理解されにくい傾向があります。ここでは、前頭側頭型認知症の特徴について解説します。

    前頭側頭葉変性症の分類

    前頭葉と側頭葉の萎縮が原因の前頭側頭変性症は、大別すると3パターンに分類されます。

      

    種別 前頭側頭型認知症 進行性非流暢性失語 意味性認知症
    症状 前頭側頭型認知症万引きをしてしまう 失語言葉に詰まる 意味性聞き返すことが多くなる
    特徴 社会のルールが
    分からない
    徐々に喋れなく
    なっていく
    言葉の意味が
    分からない

    言語機能に障害がでる「失語」グループと、記憶力や判断力に障害がでる「認知症」グループに2分されます。「失語」グループには、言葉の意味が分からなくなる意味性認知症と、言葉の意味は分かるものの流暢に話せない進行性非流暢性失語症があります。前頭側頭型認知症は、従来ピック病と呼ばれるものに相当します(※)。ピック病は、脳の大脳皮質にピック球とよばれる変性組織が発生しておこる疾患です。

    ここでは、代表的な前頭側頭型認知症の1つ、ピック病について解説します。

    ※厳密には、筋力低下が伴う「運動ニューロン疾患型」「前頭葉変性症」も含まれます。

    ピック病の症状

    私たちが生活する上で、前頭葉は衝動的な反応を抑え、理性的なふるまいを保つ役割を担います。また、意欲や計画性をつかさどる場所でもあります。この前頭葉の機能が低下することで、さまざまなBPSDが起こります。中核症状である記憶障害・見当識障害はなくても、性格や行動に異変を感じたら要注意です。下記は、起こりやすい症状の一例です。

    脱抑制…社会のルールが分からなくなる
    • 穏やかだったのが粗暴になる
    • 周囲の人に気配りができなくなる
    • 万引き、痴漢、放尿等、本能や気分の赴くままふるまう
    • 過ちを指摘されても、悪気なく同じ行為を繰り返す
    自発性の低下…物事に無関心、おっくうになる
    • 家事、仕事をしなくなる
    • 表情の変化に乏しくなる
    • 一日中何もせずゴロゴロとしている
    • 散髪や掃除、入浴を嫌がる
    常同行動…同じ動作を徹底して繰り返す
    • 徘徊ではなく同じコースをひたすら歩く「周徊」
    • 紙に同じ文字を書き続ける
    • 絶えず手で膝をこすり続ける
    • 決まった時間に散歩等、決まった行動をする(時刻表的行動)
    易刺激性…周囲の言動に刺激を受けやすい
    • 質問されるとよく考えずに即答する
    • テレビの音や街行く人の声等、外の刺激に敏感になる
    • 相手の言葉や動作を真似する
    • 目に入ったものをいちいち読み上げる
    食行動の異常…特定の食べ物に固執
    • チョコレートや飴等、甘いものを食べ続ける
    • 窒息しそうなほど食べ物を口いっぱいに詰め込む
    • 噛まずに丸呑みする等、幼い衝動的な食行動が目立つ
    • 紙やタオル等、食べ物ではないものを口にする
    記憶や見当識は保たれている
    • 最近の出来事はよく覚えている
    • 日にちや時間、人の名前も間違えない
    • 道や部屋などの場所は覚えている

    他の病気と混同しやすいため誤診に注意!

    症状が多岐に渡ることから、誤診されてしまうことも少なくありません。また、特に初期の頃は、記憶障害や見当識障害が目立たちにくく、脳萎縮も少ないことから、正しい診断を下すのが難しいと言われています。よくある誤診のケースは、下記の通りです。

    統合失調症と誤診される
    理性をコントロールすることがなできない脱抑制や、社会のルールを無視した行動が見られ点が、統合失調症や人格障害と似ていることから誤診されるケースです。
    うつ病と誤診される
    自発性が低下して、物事に無関心になったり、自分から動こうとしないことから、うつ病と診断される場合もあります。記憶障害や見当識障害が目立ちにくいので、周囲も医師も疑わないケースです。
    正常と診断される
    ピック病が原因で軽犯罪を起こしたとしても、知能検査の点数がよく脳萎縮も少ない場合、診断がつかないことがあります。中年から老年の分別盛りの時に万引きをした人の何割かは、ピック病の可能性があると言われています。

    本人に病気の自覚がないことも、ピック病の特徴です。家族や周囲の人が、よく症状を観察して把握し、医師に伝えましょう。

    本来の優しさやユーモアは最期まで残る!

    症状の一覧だけを見ると、人間としての人格を失ってしまったように変貌すると思われるかもしれません。しかし、もともと人間として持っていた優しさやユーモアは、完全に消えてしまうわけではありません。粗暴な態度が目立ちながらも、時折冗談を言ったり、愛嬌のある表情をしたり、感謝の気持ちをポロリと言葉にしてくれることもあります。

    そうした本来の優しさやユーモアは、病気が相当進んだ時期になっても、持続することが少なくないといいます。優しさが保たれる医学的な根拠やメカニズムは不明ですが、前頭葉や扁桃体の機能に起因すると考える説もあるようです。介護者は、日々の生活の中で、本来の優しさを「発見」し、温かく見守れるよう工夫をしていけると良いですね。

    接し方のポイント

    接する上での注意したい点は下記の通りです。

    反社会的行動は病気の症状の一つと捉える
    ピック病が引き起こす、様々な困った行動を目にして「この人はもともと盗癖のある人なんだ」「低俗な人格な持ち主なんだ」と考えてしまう介護者は少なくありません。しかし、これらはあくまでも脳機能の障害です。運動麻痺や言語障害となんら変わらないことを理解して、本人を犯罪者のレッテルから守りましょう。
    本人の行動パターンを先取りする
    多くの場合、本人の行動がワンパターン化されます。万引きや無銭飲食など、言葉や力づくでやめさせようと注意するのは逆効果。本人に悪気がないので繰り返してしまいます。まずは、本人がよく行くお店や場所を把握しましょう。事前に先方に事情を話して、先にお金を渡しておく、あとでまとめて払う等の対応が必要です。集団行動が困難になる「立ち去り行動」がでたら、普段から興味のあるものを用意しておいて関心を引くことで落ち着くこともあります。
    危険を伴う行動は毅然とした態度でやめさせる
    歩道に飛び出す、暴力をふるう等、身の危険に関わる行動が続くようなら、毅然とした態度で臨むことも大切です。この時、中途半端な態度は禁物です。あいまいに笑ってごまかしたりすると、かえってエスカレートすることもあります。「それはだめです」「やめてください」と言葉でいさめると同時に、態度や表情でも介護者の意志をきちんと伝えましょう。たとえ言葉を理解できなくても、表情などを含む雰囲気の全体から意思が通じることもあります。
    常同行動を上手に利用する
    病気が進行すると、一度決めた同じ行為を時刻表のようにきちんと繰り返す「常同行動」が目立つようになります。外からは退屈なように見えますが、本人にとっては精神の安定を保つ上で大切な行為です。これらを逆手にとって、規則正しい生活サイクルをまわすのに活かすこともできます。例えば、一日のスケジュールを紙に書いて壁などに貼っておき、散歩や食事などの時間ごとに声掛けをする、などです。しかし、一度決めたルールを急変更すると興奮させてしまうので注意しましょう。
    なじみの人間関係をつくる
    特に初期は、記憶力が比較的に保たれているので、デイサービスなどの介護施設でも職員やほかの利用者とのなじみの関係をつくりやすい時期です。出来るだけ同じ場所で、相性のいい同じ職員に対応してもらうことで、ご本人の安心につながります。ピック病は、周囲の環境変化に刺激されやすいので、安らげる人間関係や環境を早期につくっておくことが大切です。
    過ごしやすい「いつもの空間」をキープする
    騒がしい話し声や、見慣れないもの、広すぎる部屋、強い光、匂いなど、外からの刺激に敏感になりやすく、不快に感じると騒いだり、その場を立ち去ろうとすることが多くなります。できるだけ静かで刺激の少ない、落ち着いて過ごせる“いつもの”環境を用意しましょう。
    食べ物を管理しておく
    甘いものばかりを食べる、際限なく食べ続ける等の症状が出てきたら、肥満や糖尿病といった生活習慣病をおこさないよう、注意が必要です。言葉で注意しても繰り返してしまいますので、目のつく場所に必要以上の食べ物を置かない、むせたり窒息しないように食事時は見守る、等の工夫をしましょう。

    前頭側頭型認知症の治療

    medicine
    残念ながら、現時点では有効な治療薬は存在しません。原因は、前頭葉・側頭葉の機能低下が原因であるとする説の他に、アルツハイマー型認知症をひきおこすタウたんぱくが原因とする説が浮上しており、はっきりしていないのです。そのため、他の病型と比べても、治療が難しいといわれています。

    しかし、BPSDを落ち着かせる対処療法として、精神安定薬やうつ薬が効果的である場合があります。また、症状が相当進行するまで、記憶機能や見当識が保たれていることが多いことから、行動上の危険性がない範囲でその行動をそのまま受け入れることで対処することもできます。(例えば、家を出て行ったとしても、迷子や事故に遭う心配が少なければそっとしておく、等)

    【その他】治る認知症

    現状、四大認知症の根本的な治療方法は見つかっていません。しかし、「治療が可能」な病型もあります。

    なかでも特発性正常圧水頭症は、早期発見できていれば手術によって根本治療が可能です。まだ認知度が低いため、診断がつくことが少ないですが、家族がその症状の特徴(歩行障害、認知機能の低下、尿失禁)を知っておくことで、早期発見が可能です。

    特発性正常圧水頭症の特徴を詳しくみる

    介護のお仕事

    認知症の基礎知識

    Facebookコメント