「介護は振り回されてなんぼ」宅老所いしいさん家・石井英寿さんインタビュー

千葉県に、訪れた人が「笑顔になる」と噂の民家型デイサービスがあります。その名は「いしいさん家」。利用者のほとんどは認知症で、他の施設では受け入れを拒否される深い症状を持つ認知症の人も多いといいます。
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いしいさん家には鍵はかかっていません。誰でもいつでも、出入り自由。決まったリハビリも、レクリエーションもありません。「利用者が“ありのまま”でいられる居場所でありたい」そう語るのは、代表の石井英寿(ひでかず)さん。その型破りな介護が話題になって、時に『スーパー介護士』として数々のメディアに取り上げられてきました。
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「僕はスーパー介護士なんかじゃない」と、本人は言います。ではなぜ、いしいさん家で過ごす人は皆、笑顔になってしまうのか。石井さんは、いしいさん家で働く人たちは、どんな介護を行っているのでしょうか。実際にいしいさん家に行って、直接聞いてきました!

「みんなが同じ時間にうんち出るわけない」介護現場で感じた違和感

「小さい頃からばあちゃんっ子だった」介護職を志したルーツを石井さんは語ります。大学在学中、石井さんが実習で初めて出た現場は、歴史ある特別養護老人ホームでした。当時は“認知症”という言葉もなかった時代。石井さんが現場で見た介護は、志していた介護の世界とはギャップがあったといいます。「じいちゃんばあちゃんが寝たまま食事介助されていました。お風呂も、寝たままストレッチャーに移動して、そのまま機械浴。オムツ交換も全員一斉で…みんなが同じ時間にうんち出るわけないじゃないですか」ショックを受けながらも、「自分だったら、大学時代に介護の面白さを教えてくれた恩師のように働きたい」そう考えて就職したのは、新設の老人保健施設。少しでも楽しく介護をしようと、試行錯誤したといいます。

同じ仕事をするなら、目の前のじじばばを笑わせてやる

「同じ仕事をするんだったら、目の前のじじばばを笑わせてやろう。レクリエーションの時間で無理やりお年寄りにマイクを向けるんじゃなく、サブちゃんのものまねをしてみる。ご飯の時には海苔を前歯につけてみる。すると、普段あまり笑わないばあちゃんも、ゲラゲラ笑ってくれる。その瞬間は嬉しかったです」画一的なケアへのジレンマを抱えながらも、お年寄りを笑わせ続けました。周りのスタッフからは、「そんなことしてる場合じゃない!」と怒られることも多かった石井さん。「自分よりも倍近く長く生きている高齢者に向けて、ああしろこうしろという指示型の介護はしたくなかった」と語ります。当時、同じ職場で働いていた今の妻・香子さんの応援もあり、独立を決意。そして今から約10年前、民家型デイサービス いしいさん家がスタートしました。

石井さん一家
石井さんファミリー。妻の香子(こうこ)さん、末っ子四女の咲心(さら)ちゃんと。

時に医者になる。一緒に裸になってお風呂に入る。『介護拒否』の理由を本人の視点で考えてみる

介護拒否――。それは、認知症の代表的な症状のひとつ。いしいさん家を利用する人の中にも、当然介護拒否する人がいます。「『介護拒否』、という言葉は、あくまで介護者側からみた言葉で、本人にとっては正当な理由があると思うんです」例えば、お風呂に入りたくない、という人がいた場合、いしいさん家では、まず理由を考えます。

  • 昼間からお風呂に入りたくない
  • ユニホームを着た介護士に裸にされたくない
  • 異性に身体を触られたくない
  • よく知らない人とお風呂に入りたくない

「こうした理由があるから、認知症の深い人は『介護拒否』をするし、『暴力』を奮うんです」いしいさん家では、その人の状況を見て、臨機応変に対応を変えます。「時には介護者も一緒に裸になって一緒にお風呂に入ります」「すでに信頼関係がある人には、白衣を着て、『血圧測ります』と言ってお風呂に導くことだってあります。本人が納得できるなら、医者にもなりすまします

石井さんは語ります。「『問題行動』という言葉も、こっちの世界からの視点で貼ったレッテル。本人の世界からみれば、至って普通のことなんです」

いしいさん家エントランス
出入り自由のいしいさん家。「どんな深い症状の認知症の人も受け入れます」

じいちゃん、ばあちゃん、若年性認知症の人、子供、障害がある人、みんな同じ屋根の下

いしいさん家には、毎日本当に色んな人が出入りします。ただ、ふわ~っと、ソファに座っているお年寄り。一生懸命、廊下を歩き続ける若年性認知症の男性。認知症のお年寄りに少し怯えながらも、興味津津な男の子。畳に寝転がっている赤ちゃん。犬…。特別な活動をするでもなく、それぞれの時間をゆったりと過ごしている様子は、まさに“ありのまま”。「もちろん、デイサービスなんて行きたくないって嫌がる人もいますよ。でも、しつこく、あきらめずに、話しかけたり触ったりしていると、だんだん態度が柔らかくなってくる。認知症の人は短期記憶は忘れてしまっても、感情はしっかり残るから、居心地がいい場所かどうかは記憶に残るんですね。認知症が「よくなった」とかではなくて、“そこが本人にとっての“居場所になっていく”んじゃないかなぁと思います」

いしいさん家の風景
とある日のいしいさん家の風景。おじいさんもおばあさんも子供も犬も、同じ空間で普通に暮らしています。

「介護は楽しいもの」もっと多くの人に伝えたい

「ウルフルズの『ええねん』っていう、“それでええねん”を連呼する曲があるんですけど、その歌詞にすごく共感してて。あなたのままでいいよ、そこにいるだけでいいよ、っていう気持ちはいつもあります。『介護』って言葉はありますけど、あくまでも日常の延長線上にあるものだと思うんです」いしいさん家は、日帰り介護サービスだけでなく、お泊りや、障害児の日中一時支援、居宅事業、家族の会の会場になったり、その活動の幅はデイサービスの枠にとどまりません。石井さんの【原動力】とは、一体どこにあるのでしょうか。

「介護はたのしい。一人ひとり違うから奥深いです。そりゃ、人間だから、イライラしたり、寝てなくて辛いってこともありますよ。でも、我々は振り回されてなんぼだと思っています。新聞やテレビでは介護の辛い面ばかり流すけど、そうじゃない面をもっと発信していきたいと思っています」まだまだ続く石井さんの挑戦。今後の活動に、目が離せません。

▼もっと深く、石井さんの介護観を知りたい方は必読です。

★石井さんのプロフィール

石井さんプロフィール画像
●石井英寿(いしい ひでかず)/代表、管理者
●認知症ケア専門士 介護福祉士 ケアマネージャー
●昭和50年3月19日生まれ 淑徳大学社会学部社会福祉学科卒

大学卒業後、介護老人保健施設に8年間勤務。認知症専門棟で、認知症の方達と多くの関わりを持つ。平成17年8月に退職。退職前はフロアのリーダー。同年10月、有限会社オールフォアワンを設立。12月1日、指定通所介護保険事業者として許可を取得。平成18年1月1日、千葉市花見川区柏井町の民家で、「宅老所・デイサービス/いしいさん家」を開所。同年5月より「いしいさん家居宅介護支援事業所」も併設。20年2月、住んでいた自宅を開放して「みもみのいしいさん家」開所。スクールウォーズの影響を受けて、高校時代からラグビーを続けている。←今はやっていない。
色黒なので、外国人によく間違われてしまう。でも、他人からはこの顔はよく覚えられるのがメリット。逆に自分はすぐに相手の名前を忘れてしまう。(いしいさん家 公式サイトより

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認知症ONLINE 編集部

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