認知症が進むと、ご飯の時間になっても、食べることを拒否する方がいます。食事は生きていくうえで欠かせないもの。食事拒否をされると、介護している人にとっては、「栄養不足で倒れてしまうのではないか?」と不安になりますよね。ここでは、私自身が介護施設で働いていた経験をもとに、よくある食べない原因とそれぞれの対応をご紹介します。
目次
ケース1:食べ物と認識できていない
視力には問題がないのに、目の前に出された食事が、食べ物かどうか分からない。これは、認知症の中核症状のひとつ「失認」と呼ばれる症状です。食べ物であることが認識できないので、手で弄んでみたり、床に落としてみたりする行動が見られます。
<この場合の接し方>
目の前にあるものが食べ物であることを本人に分かってもらえるよう、声をかけます。
「美味しいごはんができましたよ」「◯◯さんの好きな生姜焼きですよ」
といった声がけを行うことで、食べ物だと認識してくれることがあります。
ケース2:食べ方を忘れてしまう
食べ物であることは分かるのに、食べ方が分からない。これも、認知症の中核症状のひとつで、「失行」と呼ばれる症状です。普段できていた動作ができなくなるんですね。箸やスプーンの使い方や、咀嚼の仕方を忘れてしまって口をつけられないケースです。
<この場合の接し方>
本人の向かいに自分の食事も持ってきて、一緒に食べます。「一緒に食べましょう」と言って、自分が真正面で食べている様子を見てもらい、食べ方を真似してもらいます。他愛もない話をしながら食事をすると、つられてその方も食べてくれることがあります。
ケース3:注意が他に逸れてしまっている
食事の準備が出来ているのに、席に着かずに徘徊してしまうこともよくあります。食事よりも大事なこと(例えば、他に行きたい場所がある、帰宅願望とも呼ばれます)に注意が向いていて、食事が後回しになってしまうケースです。
<この場合の接し方>
この場合、マンツーマンで対応すると意外と食べてくれたりします。徘徊が続いている場合は、本人の気の済むまで一緒に歩いてみて、歩き疲れたころに座って休むことを勧め、座ってくれたところに食事を出すと、すんなり食べてくれることもあります。
ケース4:嚥下(飲み込む)機能が弱っている
嚥下機能が低下すると、食べ物をうまく飲み込めなくなり、誤嚥(ごえん・食べ物が気管に入ること)のリスクが高まります。食べ物を口に入れても吐き出してしまう、食べ物をいつまでも飲み込めない場合、このケースを疑います。
<この場合の接し方>
食べ物の固さはちょうどいいか、一口のサイズが大きすぎないか等、食事の内容を見直します。食べにくそうにしている場合は、ゼリー食やソフト食といった柔らかいものに変更するのも手です。無理して飲み込むと、誤嚥によって肺炎を引き起こすこともあるので、決して無理に飲み込ませようとしないようにするのが大切です。
ケース5:体調が悪くて食事に気がまわらない
便秘や口内炎、熱っぽいなど、体調不良が食欲低下を招いていて、食べたくないと意思表示するケースもあります。食事拒否に加えて、急に怒りっぽくなったり、不機嫌な状態が続いている場合は要注意です。
<この場合の接し方>
まずは、「気分が悪い?」「お口の中は痛む?」等の声がけで、具合が悪いところがないか探ります。介護者に言い出しづらいため食事拒否をしている場合もあるので、色んな質問をして反応を見てみましょう。お年寄りは身体を動かす事も少ないため、単にお腹が空いていないだけ、という場合もあります。1日様子をみて、食事拒否が続くようならかかりつけ医にみてもらいましょう
食事介助する上で、大切なポイント
ここまで、色々な原因を挙げてきましたが、認知症の方の食事拒否はひとによって原因は本当に様々です。食事にあたってのご本人の様子を観察しながら、焦らず、これならと思ったことは何でもやってみることが大切だと思います。
その上で、気をつけたいポイントがあります。
無理やり飲み込ませることはダメ、ぜったい。
介護する人には、「自分が作ったご飯が気に入らないから食べないのでは?」と怒って、無理やり飲み込ませてしまう人もいます。が、これは絶対にNG。本人の意志に逆らって飲み込ませることは、嚥下につながり、肺炎を引き起こしかねません。高齢者の死因のトップは肺炎です。無理やりはいけません。
「一日位食べなくても大丈夫!」というスタンス
介護する人が深刻に思いつめてしまうと、そのストレスが本人にも伝わって事態はより悪化します。難しいかもしれませんが、「食べない時もある」と割りきって関わることも大事です。きれいにきちんと食べることよりも、食事の時間が楽しくなるように内容の工夫や、声掛けも行ってみるとよいと思います。
ぜひ、試してみてくださいね!

佐藤 瑞紀

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