家族が薬の量を加減する『家庭天秤法』とは?【認知症の薬物療法】

【アイキャッチ】家庭天秤法

こんにちは。名古屋フォレストクリニック院長の河野和彦(こうのかずひこ)です。これまでの連載では、介護者を精神的に追い詰める認知症の周辺症状を治療することの重要性、また基本的な薬の処方法についてて、お伝えしました。今回は、コウノメソッドの柱の一つ「家庭天秤法」について、解説したいと思います。家庭天秤法とは、薬の副作用をなくすために、医師の了解・指導のもとで家族や身近な介護者が薬の量を調整することです。

第一回:認知症は治る!近所のお医者さんも実践できるコウノメソッドとは?
第二回:周辺症状別に薬を使い分ける方法【コウノメソッドでみる認知症】

大前提。医者は、家族会に参加して、介護の苛酷さを知るべき 

まず、前回のおさらいになりますが、認知症の周辺症状のうち、易怒、介護抵抗、暴言、暴力、妄想、幻視、不眠といったエネルギー過剰とも言える症状を「陽性症状」といいます。これは、認知症患者の約4割に見られる症状です。私は、これまで家族会に参加する中で、この陽性症状が介護家族を苦しめる様子を目の当たりにしてきました。認知症治療の現場では、長らくアリセプトを中心とし中核薬の処方が推奨されてきました。しかし、アリセプトには、患者を興奮させ、陽性症状を悪化させる副作用があります。陽性症状が悪化すれば、介護者は更に苦しみます。

医師はもっと、家族会に参加し、介護がいかに大変か、怒りっぽい患者と24時間ともに暮らすことがどれだけストレスなのかを知るべきでしょう。そうすれば、記憶力を高めることことよりも、まず患者を落ち着かせることが医師としての役割だということが分かるはずです。私は、認知症介護に苦しむ介護者を本当に救うのは、周辺症状をおさめる向精神薬の処方だと確信しています。

家庭天秤法が誕生した背景 ~向精神薬は陽性症状を和らげる~

私が認知症外来を始めた平成3年には、グラマリールという脳梗塞の後遺症に適応された向精神薬が、認知症を穏やかにさせる薬として非常に有用でした。記憶が改善したわけでもないのに、多くの家族から感謝されました。その後、ピック病というもっとも易怒性の強い、家庭崩壊をおこすような強い陽性症状の患者を診るうちに、ウインタミンという向精神薬が効くことを発見しました。グラマリールを使ってみて効かなければウインタミン、という順では家族が疲弊します。最初の処方で1日以内に穏やかにできるのがウインタミンでした。

勤務していた病棟で、これら向精神薬の加減の仕方を病棟スタッフが覚えることで、開放施設であるにもかかわらず徘徊の激しいピック病患者を一度に3人も看られることができました。これを家庭で介護者が調整するようにしたシステムが、家庭天秤法なのです。

薬の副作用から本人を守ることができるのは、医師ではなく家族

向精神薬は、易怒、介護抵抗、暴言、暴力、妄想、幻視、不眠といった陽性症状を落ち着かせるのに有効で、認知症介護の世界でも重宝されています。ただ、向精神薬は効き過ぎると、強い副作用を伴います。そして、薬の効き方や副作用の出方は個人差があります。どんな専門医でも、すべての患者にちょうどいい薬の種類や量を一発で処方することは難しいことを、私は長年の経験から実感しています。そこで、コウノメソッドで提唱しているのが「家庭天秤法」です。家庭天秤法とは、医師の指示のもとで、家族などの身近な介護者が薬の量を調整することです。

処方された薬を飲ませてみて、どのような様子か、薬の副作用は現れていないか、現れ方の程度はどうかなど、細かな変化を見極められうのは、本人の側にいる家族や介護者にほかなりません。服用して、興奮などがあったら用量を半分にする、服用回数を減らす、といった、症状に合わせたコントロールは、ずっと接している家族の方にしてもらうのがベストなのです。もちろん、処方への具体的な指示は、医師によって行います。

薬の量を加減する具体的な方法

具体的に薬を加減する方法をお伝えしましょう。次の図は、家庭天秤法による、抑制系の基本薬の加減方法です。

家庭天秤法における薬の加減方法

アルツハイマー型認知症脳血管性認知症の陽性症状には、グラマリール25mg錠、ピック病(※1)の陽証にはコントミン12.5mg錠(※2)、レビー小体型認知症の陽証には抑肝散を、それぞれ第一に処方します。

予め1日6錠処方しておいて、本人の様子をみて介護者が加減します。6錠とは朝2錠、昼2錠、夕2錠のことです。上の図をみると、暗号のように2-2-2となっていますね。まずはこの量で薬を飲ませてみて、本人の様子を観察します。もし、めまいや嘔吐などの副作用が出れば、医師に相談した上で服用量を減らします。減らし方は、上の図を参考にしてください。2-2-2で服薬していれば、1-1-2に減らす、という具合です。

医師が24時間患者の状態を観察できない以上、患者の危険を防ぐためには家族や介護者の協力が不可欠です。少し複雑ですが、是非勉強してみてください。

(※1)ピック病における向精神薬の選択順は、①ウインタミン、②セルシン、③セロクエル(クエチアピン)となっています。肝障害ではウインタミンは禁忌、糖尿病ではセロクエル(クエチアピン)が禁忌です。ウインタミンの4mgというのは成分量のことで、絶対重量は0.04gとなります。薬剤師が勘違いしてその10倍(40mg)が調剤されるおそれがありますのでご注意ください。なぜならコントミン錠は100mgまであるくらいですから。
(※2)コントミンは強すぎるので外来レベルではふつうウインタミン細粒4mgか6mgが一回量となります。レビー小体型認知症のなかでも前頭葉萎縮が強くてピック症状も現れている患者(LPCと呼んでいます)にもウインタミンが適応です。補足として、コントミンとウインタミンは同じ薬ですが、ウインタミンは粉しかなく、コントミンは錠剤しかありません。
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河野 和彦
1958年名古屋市生まれ。名古屋大学医学部大学院博士課程修了後、医療法人共和会共和病院老年科部長を経て、2009年より名古屋フォレストクリニック院長。新しい認知症ケア「コウノメソッド」の第一人者。認知症治療研究会副代表世話人も務める。代表的な著書に『完全図解 新しい認知症ケア 医療編』、『医者を選べば認知症は良くなる!』、『コウノメソッドでみる認知症診療』等、著書多数
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