あなたは、親の相続なんてまだまだ先のことだとは思っていませんか?
もちろん、いつまでも親が元気で長生きしてくれればそれにこしたことはありません。しかし、人間必ずいつかは死ぬものです。悲しいことですが、あなたの親もいつかは亡くなり、その場合には相続が発生することになります。そして、親が認知症になった場合には、とくに、相続において注意しておきたいことがあります。
重要なことは、聞けるうちに聞いておく
あなたが親の身の回りのことをすべて把握できていれば別ですが、一般的には、本人から聞かなければ、親がどのような生活をしていて、何を所有していて、それがどこにあるのかを逐一調べることはとても困難です。親が亡くなった後に、預金通帳や印鑑が見つからず、どの金融機関に口座があるのかが分からず苦労した、という話はよくあることです。また、借金があることが判明して大慌てすることになった、という話も聞きます。
まだ身の回りのことが分かるうちに、親に相続の対象となる財産にはどのようなものがあるのか、どこにしまってあるのか、それをどのように親族に分け与えたいかについて、聞いておいたほうが無難でしょう。
認知症の状態で書かれた遺言書は、もめる原因に
また、財産をどう分け与えたいかについて、遺言を書いてもらう場合にも注意が必要です。親が認知症になり、その症状が進行し、自分の行為の結果を判断できない状態に陥ってしまえば、遺言書を作成してもらうことなくなります。すなわち、法的効力のある遺言をするためには遺言能力が必要となりますが、認知症が進行し、自分の行為の結果を判断できず有効な意思表示ができなくなった状態では、原則として遺言能力があるとは認められず、そのような状態で書かれた遺言は無効となってしまうのです。
よって、認知症になる前に、親に遺言を書いてもらうことが最良といえるでしょう。
認知症でも遺言書を作成できるのか?
親が認知症になってしまった後に、「どうしても遺言書を作成してもらいたい!」という場合はどうしたらよいのでしょうか。
まず、認知症が進行し、事理弁識能力を欠く常況にあるとして後見人がついている場合は、一時的に判断能力が回復したときに医師2人以上の立会いのもと一定の方式に従うことで遺言をすることができると法律で認められています(民法973条)。
しかしながら、この遺言手続きはかなり厳格で、この方式にしたがう遺言は極めてめずらしいといえます。
次に、認知症がそこまで進行しておらず、きちんと自分の行為の結果を判断でき、有効な意思表示ができる状態であるのであれば、医師にその旨の診断書を書いてもらったうえで、公証役場で公証人に公正証書遺言を作成してもらうという方法が考えられます。
しかし、認知症の状態で書かれた遺言書は、その有効性をめぐって紛争となりやすく、万全を期したつもりでも、不信感を抱いた一部の親族から不満の声があがり、親族間で長きにわたり裁判で争われることもめずらしくありません。
いずれにしても、深刻な相続争いを招かないためには、相続のことについては早い段階からきちんと考え、対策を講じておいたほうがよいでしょう。「自分の親族は仲が良いから大丈夫」「財産はないから心配ない」などと考えずに、一度真剣に相続のことについて考えてみることをお勧めします。
【参考図書】

芳賀 由紀子

最新記事 by 芳賀 由紀子 (全て見る)
- 認知症だと診断されたら、遺言は書けませんか?【お悩み相談】 - 2015/10/12
- 介護家族が知っておくべき「法定後見制度」とは - 2015/9/9
- 認知症の人の老後の生活と資産を守る「成年後見制度」とは? - 2015/7/29
編集部おすすめ記事
この記事を読んだ人にぜひ読んでほしい、その他の記事
新着記事
-
【2月~3月開催】認知症ケアインストラクター養成講座@神奈川県横浜市
-
【11/16(金)~18日(日)開催】第17回日本通所ケア研究大会@広島県福山市
-
【10/26(金)27(土)開催】ありがとうグループホーム見学会&運営セミナー@広島県福山市
-
【9/22(土)開催】在宅で低栄養者を見逃さないポイントと対応策@府中市市民活動センタープラッツ
-
【9/1(土)・9/2(日)静岡開催】みんなの心豊かな暮らしを創る認知症情報学 ~当事者重視と人間中心のAI/IoTの利活用~