介護において、最も注意しなければならないことの1つが転倒やそれに伴う骨折です。特に認知症になると、転倒しやすくなります。平衡感覚が不安定になり、身体のバランスを崩したり、薬の副作用で「ふらつき」がおこったりするためです。骨がもろくなりがちな高齢者にとって、転倒は高確率で骨折を招きます。その結果、歩けなくなったり、認知症が進んでしまったりします。
今回は、認知症高齢者によくある転倒ケースの防ぎ方や、身近な道具を使った防止の工夫について、今までの経験を元にお話しします!
認知症の人によくある5つの転倒ケース
まず、認知症の人に起きやすい転倒ケースには、主に次のようなものが挙げられます。
1.体の向きを変えようとして転ぶ
後ろから急に呼ばれると、振り向きざまに転倒してしまうことがあります。そのため、認知症の人に呼びかけるときは、そばに行って前に回り込んでから声をかけるようにしましょう。また、右利きの人に左後ろから声を掛けると、振り返ろうとして足がもつれ、転倒の原因になることがあるので注意が必要です。
2.動く引き戸に寄り掛かる
戸が引き戸になっていると、寄り掛かって転倒するケースがあります。介護施設では、居室の扉等、引き戸を採用していることが多いので、戸のレールに金具を嵌め込んで動かないようにし、入口には暖簾を掛けている部屋も結構ありました。レールに嵌め込む金具は、ホームセンター等で売っているのですぐに出来る転倒予防だと思います。
3.靴が上手く履けない(かかとを踏んでしまい転倒)
これは、靴を工夫すれば防げます。紐靴は履かないこと、歩きやすい靴にすることはもちろんですが、サイズがぴったり合っていて、幅も合っているものを購入すると良いでしょう。今はいい介護用シューズが出ているので、かかとを自分で入れなくても、足を入れれば自然とかかとが起き上がってくるものもあります。また、今まで履いていた靴でも、100円ショップ等で中敷きを購入して入れるだけで、底上げになり脱ぎ履きがしやすくなる場合もあります。少し値段は高めですが、「あゆみ」という靴はおすすめです。
4.睡眠薬が効かず、寝ぼけてふらつく
夜は明かりも少ないので、転倒のリスクは上がります。高齢者の場合、夜中トイレに行こうとして足元が見えず転倒してしまったり、睡眠導入剤を飲んでいる場合、薬が抜けきらずにぼーっとしたままトイレに行こうとして転倒してしまうこともあります。
こうした場合、足元灯を付けてみたり、ベッドとトイレの動線をなるべく短くするように家具の配置を変えてみるのも有効です。また、ベッドから立ち上がった位置に椅子を置くことで、掴まる場所を確保するという方法もあります。
5.夜ベッドから降りようとして失敗
このケースは、まずベッドの高さが使用者に合っているか確認してみてください。座った状態で床に両足の裏がしっかり着いている状態がベストです。また、介護用ベッドであればサイドレールを付け、掴まる場所を作っておくのもいいと思います。
実際にあった転倒後の最悪のケース
介護職員として施設に勤めていた頃、夜間ベッドから頭から転落してしまい、その転落が元で入院し、こん睡状態に陥ってしまった方がいました。
もちろんそうなると施設に入居していられませんし、とうとうその方は意識が戻らないまま亡くなってしまいました。高齢になってくると転倒時に受け身を取ることが難しくなり、頭を打ってしまうケースも多いのです。
自宅でも出来る転倒予防法
私が、介護施設で勤務していたときも、転倒事故の防止にはとても神経を使っていました。施設での経験をもとに、自宅でもできる転倒予防法をご紹介します!
床にマットを敷く
フローリングは滑りやすいので、施設ではパネルで組み合わせて使える畳やカーペット、ウレタンを使ったマットを使っていました。子供の遊び場を作ったりするのにも使われるので、ホームセンターや大きなおもちゃ屋さんにも売っています。これなら、汚れたらその部分だけ外して洗うこともできますし、いらなくなったら外すことも出来ます。また、フローリングの床材は冷たく、体温を奪ってしまうので、保温のためにも使ってみるといいと思います。
毛足の長い絨毯は敷かない
毛足の長い絨毯は足を取られて転倒しやすいです。ラグマット等を使うようにし、裏にテープを付けて床に固定したり、100円ショップでも売っている滑り止めマットも併用して使うようにすると、転倒予防になると思います。
スリッパは履かない
スリッパは裏がツルツルしていて滑りやすいですし、履いていると小さな段差にも躓きやすくなります。室内履きとして使用するのであれば、かかとまですっぽり覆うタイプのものを履いた方がいいでしょう。もしくは、ラグマットやパネルマットを敷き、スリッパを履かなくてもいい環境を作ってみて下さい。
床に物を置かない
部屋の中に物が散乱していると歩きにくいですし、躓いて転ぶ原因にもなります。物は整理し、なるべく端に寄せて歩きやすい環境を作りましょう。
手すりになる椅子を置く
→ベッドからの動線確保のところでも書きましたが、立ち上がった時にふらつく場合はベッドのそばに椅子を置いておくのも1つの方法です。ただこの場合は、掴まる手掛かりにするので、あまり軽い椅子だと意味がありません。
少し頑丈で安定感のある椅子を使ってください。
転倒予防に効果的なグッズ
前の項にも書きましたが、足元灯や滑り止めマットは100円ショップでも買えますし、パネルマットやラグマット等はホームセンターで買えます。安全な室内履き等は介護用品として出ていますので、介護用品店や担当ケアマネさんに相談してみてください。
また、転倒予防のためのものではないのですが、ふらつきがある人に夜間対応できるように、施設では徘徊感知器も使っていました。もしかしたら、家庭でも応用出来るのかもしれません。
まとめ
私が、施設で勤務していたときも、転倒事故の防止には神経を使っていました。怪我をさせてはいけないということだけではなく、ADL維持のためにも、転倒防止は重要なことだったのです。自分が面倒を見ている人に、転んでけがをしてほしくない、入院してほしくないということは誰しもが考えることだと思います。家庭内でずっと様子を見ていることは難しいと思いますが、居室の環境整備を行うだけで本人が動きやすくなり、見ていなくても安全に生活できるという場合もあるのです。今回紹介した色々なグッズの力も借りながら、快適な生活環境を作るお手伝いをしてもらえたらと思います。

佐藤 瑞紀

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