こんにちは!特別養護老人ホームで介護福祉士をしている川上陽那です。
認知症の症状のある高齢者がトイレ介助の場面で「立ち上がる」という行為をしてくれない。立ち上がるのに必要な筋力はあるはずなのに、立ってもらえない。そんな時、介護者側が「立ってください!」「手すりに捕まって立ってください!」あれこれ言ってみてもいまいち話が伝わっていない。
施設の場合、ひとりで多くの方の排泄介助をしなくてはなりません。その結果、介護職はだんだんイライラしてくる。結局立ち上がってもらうのを待てずに、負担はあるけどこちら側で介助してしまう。といった経験ありませんか??
今回は、私が現場で実際に経験した話をご紹介したいと思います。
トイレの仕方が分からない
その日、食堂にいたばあちゃんが周りを見渡しながら、「トイレ…」と言いました。
それを見ていた私は側に行き、「○○さん、トイレですか?行きましょうか!」と声かけると「ああ良かった!」と話されたので、すかさずトイレまでお連れしました。
トイレへ着き、いざトイレをして頂こうとするとばあちゃんは車椅子に座ったまま固まっています。「あれ…○○さん、“ここトイレ”です。(手すりの前に行き)じゃあ立ちましょうか!」と声をかけるとばあちゃんはハッとした表情で「あぁ、トイレに来たんだったねえ。」続けて、「どうやってやるかさっぱりわからなくなっちゃったよ。」と呟きます。
そうか、ここがどこなのか?どうやってトイレをしたらいいのか?が分からないんだ。と思いました。
おお!あれこれ言わなくてもこれで伝わるんだ!と、大きな発見をしたこの日のことを今でも覚えています。思い返してみれば、このばあちゃんは何かの動作の時に必ず「いちにのさーん」と言っていました。確かに私たちの生活の中でも人それぞれ、動作の時に「よいしょ!」とか「よっこらせ!」とか何かしら声を出して自分なりにリズムをとってますよね。
この体験を通して心がけている2つのこと
それからは、このばあちゃんのトイレ誘導の際に、下記2つを心がけるようにしました。
- まずは、「ここ、トイレです」の一言
- 立ち上がるとき、「いちにーのさーん!」の声かけ
すると、驚くほどスムーズにトイレに行って帰ってこれるようになったのです。時間にしたら3〜5分は変わってくるのではと思います。
ばあちゃんが認識できていなかった2つのこと
食堂からトイレまでものの数秒ですが、ばあちゃんはトイレに着いた途端、
- 何がしたくて今ここにいるのか?
- どうやってトイレをするのか?
分からなくなってしまったのです。「立ってください!」と言われたところで、これら2つのことが認識できてなければ立ち上がることは当然できるわけありません。
さいごに
普段から多くの人を見なくてはいけない介護者や、自分の生活があり忙しい家族介護者は意外と気付かないまま、表面的に見える「立ってくれない」ということにイライラしてしまうことが結構あるような気がします。
認知症の症状を介護者側が理解しようとせずに、イライラしているだけでは何も変わりません。むしろイライラしている介護者に介護されたばあちゃんの症状は進むばかりだと思います。相手を理解しようとせず、空回りにイライラをするの、もうやめましょ。
そんなことより、そのばあちゃんやじいちゃんが普段どんな呼吸のリズムで生活しているのか?(このばあちゃんの場合、「いちにのさーん!」)を介護者側が探り、読み取り、「呼吸を合わせて一緒に生きる」ことが必要だとこの出来事を通じて実感しました。
そしてこれは認知症の症状があるとかないとかは関係ない。そもそも介護って、ひとりですることだけじゃない。相手がいて、相手が体を委ねてくれて初めて介護が成り立つものなんだと私はいつも思っています。

川上 陽那

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