動きたくないとごねる利用者さん。
朝から機嫌が悪い。靴下もなぜか逆さま。
「入れ歯は嫌~っ!せぇへんねん!」と、大事な義歯を投げ飛ばす始末。
介助をしていたスタッフの腕を、
近くにあった洗面器で叩いちゃったものだから、
叩かれたスタッフも当然びっくり。
私は利用者さんとスタッフの間に入り、 「どうしたの?」って聞いてみた。
利用者さんは私を一瞥したあと吐き捨てるように
「うるさいっ」と一言。
私はそれに怯むことなく
「反抗期なの?(^o^)」って。
「なんやて?(ノ-o-)」と、利用者さんが怒りとともに私を見た!
(話せるチャンスだ!)
そこで、
「まれに見る、おばあさんの反抗期やな!大変やな、こりゃ(^-^)」と再攻撃。
攻撃と言っても、とっても優しいものだけどね。

「ちなみにこの方、以前、孤児院の寮母さんとして働いていた方でした。子どもに関するキーワードは彼女を寮母さんだったころに引き戻してくれるんです」
利用者さんはクスッと笑って、
「こんな、おばあさんは反抗期なんかないの(^^)
子どもはな、成長する段階でそんな時期がある!
あんたそんな事も知らんのかいな。
情けないなあ…
ああ~喋ると口の中が痛いねん、喋るたんびに舌が何かに引っ掛かるんや(;_:)」って。
だから動きたくないと廊下を籠城し、スタッフと格闘していた訳ね!
先ほど声をかけた時のテンポの良い話し口調から、少し優しい口調に変え、声のトーンも落としてみた。

「認知症の有無に関わらず、高齢者は聴覚の衰えから高音が聞き取りにくくなるため、耳にゆっくり溶け込むようなトーンが必要と言われています。さらに簡単な文章は聞き取りやすく、理解がしやすいとも言われています」
「口の中を見せてください」と伝えた。
暴れんぼうだったはずなのに素直に「あーん」と口を開けてくださった。
そこにはあるべきはずの歯が欠けていた。
その欠けた所に舌が動く度に挟まるのが見えた。
舌はかなりただれていた。
状況を利用者さんに伝えたら、
「昨日、寝るときに入れ歯が外れなくて、スタッフに引っ張られてから痛いねん」との事だった。
「そうー。痛い怖い思いをしたんやね」とだけ返した。
(可哀想に痛かったやろなあ…。)
義歯(歯に引っかけるタイプ)を装着してもらうにしても、土台になる歯が欠けてるからうまく引っ掛からない。
リーダーにその旨を話し、施設長と次の対応について相談してもらった。
施設長からは、
「すぐに受診してもらう、今は外したままで」
とのことだった。
利用者さんは痛みで反抗期を迎えていた。
この方は軽度の認知症だ。
でもこのまま進行していけば、いつかはこの義歯も合いにくくなるだろう。
その時にまた新しく義歯を作る事は大変だと歯科医から聞いたことがある。
作ること自体、難しい事ではないが、
理解が難しくなるため、口を開けたがらないとか。
自分の痛みや気持ち悪さをきちんと伝える事が困難になるからだとか。
認知症が進むと、それに似た状態は必ず出現してくる。
それは私も何度も体験しているから理解ができる。
『今を大事に』
明日に繋がる「今」を大事にしなきゃ!
丁寧なケアって利用者さんの安心を引き出すことができる。
慣れない環境で暮らす利用者さんは何よりも安心や安全、そして安寧が必要です。
目の前の利用者さんに目線を合わせ優しくゆっくり話しかける。
必ず私の体温が伝わるように手や肩や背中に触れる事は欠かさない。
でも痛みを変わってあげることは出来ない。
だけど寄り添うことで小さな手当てはできるから、手当てと言う魔法にかかって大人しくなった利用者さん。
かくして籠城は解かれ、リビングに移動し、反抗期も無事に終わりました(^-^)
さいごに
認知症は認知機能の低下が障害として現れたものです。
その障害は何を左右するかが分かりにくく、その人となりも変えてしまうこともあります。周りから理解されないもどかしさや、自分では理解できない何かしらの不安が孤独を呼び、引き寄せてしまいます。孤独という環境は、ストレスや不安についで、認知症を進行させてしまうひとつなのではないかと私は考えます。
優しく寄り添うことで、孤独を寄せ付けないようにすること。そこにはBPSDもしばし息をひそめてくれているようです。

山川洋子

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