【特集】「認知症フレンドリーな社会を」ニンニンPepperを開発したチーム・ディメンティアの想い

前編では、認知症患者のサポートに特化したロボットアプリ「ニンニンPepper」の概要についてレポートしました。後編では、ニンニンPepperを開発したプロジェクトチーム・ディメンティアのメンバーの皆さんにインタビューした、開発の背景や、ニンニンPepperに込められた想いをお伝えします!

前編:【特集】認認介護時代を救え!ニンニンPepperが切り拓く認知症ケアの未来とは

※プロジェクトチーム・ディメンティアとは?
ニンニンPepperの開発チーム。医師、看護師、プログラマー、医療・介護分野に強みを持つプロダクトマネージャー、プロダクトデザイナー、医療系メディアの編集者など、各方面から経験と知識を集結させ、認知症の人とその家族をサポートするソリューションを生み出しています。

それぞれの場所で抱いていた課題意識が、Pepperを介して繋がった

プロジェクトチーム・ディメンティアが立ち上がったのは、2014年12月に開催されたPepperをテーマとしたアイデアソン(特定のテーマに興味を持つ人が集まり、課題解決につながるアイデアを出し合うイベント)でした。発起人となった阿久津氏は、そのきっかけについて、こう語ります。

「私は、元々、LMDP(LIFE & MEDICAL DESIGN PLATFORM)という団体とオレンジアクトという団体で、医療・福祉分野を分かりやすく世の中に伝えるという活動を行っていました。認知症についても、世間では恐ろしいイメージばかりが先行していて、正しい情報が世の中に伝わっていないことに危機意識を感じていたのです。去年6月、Pepperの発表を初めて見た時に、『これは、高齢化社会の課題を切り拓く突破口になる!』と確信して、アイデアソンを企画しました」

Pepperの可能性を確信したのは、阿久津さんだけではありませんでした。チームメンバーの一人・プログラマーの宋氏は、参加した背景について、「日々、認知症ケアへの課題は持っていました。しかし、医療従事者など、自分と違った立場の人達の意見を直接聞く機会がなかなか無く・・・今回のアイデアソンには、医師や看護師等、立場を越えて意見交換が出来る良いチャンスだと捉えて、参加しました」と語ります。

そうして、全国から約30名の同志が集結したアイデアソンで、勝ち残ったアイデアが「ニンニンPepper」でした。その後、医師や看護師、プログラマー等、メンバー全員それぞれの本業がありながらも、平日の就業後や土日に電話やスカイプで連絡を取り合いながら、約2ヵ月という短期間で、一気にニンニンPepperを創り上げました。

ニンニンPepprが生まれた背景を語る(左)本チーム発起人のプロデューサー・阿久津 靖子氏、(右)プログラマー・宋 チュウ氏
ニンニンPepprが生まれた背景を語る(左)プロデューサー・阿久津氏(右)プログラマー・宋氏

今年5月から始まった介護現場での実証検証。Pepperを見たお年寄りの反応は?

ニンニンPepper実用化に向けた第一歩として、今年5月より現場での実証検証も始まりました。例えば、利用者のほとんどが認知症だという、仙台の介護施設。利用者が集まる場にPepperを持ち込み、一緒に歌を歌ったり、クイズゲームをする取り組みが実施されました。その反応について、同行した宋氏は語ります。

「Pepperと会った時の反応はみなさん様々でしたが、怖がったり、嫌がったりする利用者さんは25名中2名のみでした。特に、軽度認知症の女性の反応がすこぶる良く、Pepperが歌いながら手を振ると、利用者のお年寄りも一緒に手を振ったり、『かわいいね』と言って頭を撫でたりしていたのが印象的でした。遠巻きに様子をみていた男性の利用者さんも、しばらく経つとPepperに寄ってきて興味深そうにながめていました」

また、別の介護施設では、徘徊癖があり、普段は5分も立たずに席を立ってしまう認知症の高齢者が、30分以上もPepperに寄り添っていたとのこと。Pepperには、お年寄りの「母性」や「父性」をくすぐる効果があるのかもしれません。今後も、Pepperを高齢者介護の現場に連れて行って反応を見る取り組みは継続していくということです。

介護施設で認知症のお年寄りと触れ合うニンニンPepper
介護施設で認知症のお年寄りとレクリエーションを通して触れ合うニンニンPepper

「ヒト型」ロボットだからこそできる、柔らかいコミュニケーション

介護現場の負担を軽くするロボットは、これまでも存在していましたが、人間の形をしたロボットは、業界初。この「ヒト型」としての特徴が大きな意味を持つ、と語るのは、プロジェクトリーダーの吉村氏です。

「ヒト型だからこそ出来ることが沢山あります。例えば、Pepperは120cm位の身長があるのですが、ちょうどお年寄りにとっては孫を思わせるサイズなんですね。そうした存在が、話相手をきちんと認識して、時に冗談を言ったり、身振り手振りを加えて話すことで、お年寄りにとってはまるで本当の『人間』と話しているような感覚になり、癒やされるのだと思います。

また、家電との連携についてもPepperは好相性だと考えています。例えば、熱中症対策にエアコンをつける、という動作にしても、無機質な電子音ではなく、Pepperが『おじいちゃん、僕暑いから、エアコンつけていい?』と話しかけると、効果も違ってくるのではないかと。全く新しいインターフェースだからこそ、できる事が沢山あると感じています」

プロジェクトリーダー吉村 英樹氏
「ヒト型であることの意義は非常に大きい」プロジェクトリーダー吉村 英樹氏

医療との連携に、認知症予防の啓蒙。実用化に向けて欠かせないこと

「ニンニンPepperを単なるおもちゃにしてはいけない」と語るのは、プロデューサー・阿久津氏。実用化に向けて欠かせないのは、医療関係者と連携した確かなエビデンス(効能を裏付けるデータ)の蓄積であるといいます。

「認知症にアレが効く、コレが効く、と情報過多気味の昨今において、医学的根拠に基づく効果をきちんと示していかなければ、介護現場で定着することはありえません。私たちだけでは成し得ないことなので、今年度は、出来る限り多くの医療従事者の方々のご賛同をいただき、実証検証を進めたいと考えています。

また、世の中への認知症についての理解促進や、Pepperに興味を持ってもらう啓蒙活動も、実用化に向けて必要なプロセスです。例えば、認知症カフェにPepperを置いて、高齢者と触れ合いの場をつくる、イベントでPepperに『認知症のことをよく知ってください』と語りかけてもらう等、今後一つずつ取り組んでいきたいと思っています」

チーム・ディメンティアのゴールについて、コーディネーターの河田氏は次のように話します。
「私たちがやりたいのは、ニンニンPepperというアプリを広げたい、ということではありません。アプリを作ったのは、あくまで認知症フレンドリーな社会を作るための枠組みづくりの一環なんです。私たちのゴールを敢えて挙げるとすれば、医療・介護の専門家の方々とタッグを組んで、ニンニンPepperがきちんと世の中に根付くことです」

コーディネーター・河田 茂氏
「実用化には医療・介護関係者の協力が不可欠です」コーディネーター・河田 茂氏

日々、進化をし続けているロボット技術。現時点では、介護現場におけるロボット技術は、まだ根付いているとは言いがたい状況です。しかし、いまのスマートフォンがそうだったように、その技術の可能性をもっと身近に感じることができれば、将来、ロボットが介護現場に欠かせない存在になるのではないでしょうか。今回の取材を通して感じたのは、Pepperがヒト型ロボットであるからこそ、実現できコミュニケーションの可能性でした。一家に一台、Pepperが家族の一員として、認知症のお年寄りに寄り添う、そんな未来が実現する日も近いかもしれません。今後も、プロジェクトチーム・ディメンティアの活動からは目が離せません。

【メンバー紹介】
(写真左より、プロフィール一覧)

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■宋 チュウ システム開発
ソフトエンジニア、famirobo.com運営者
大手IT企業の事業企画・研究開発部門に所属。ソフトウェア製品のUXデザイン、スマートデバイス、クラウド技術に関する研究開発を中心に担当。2012年より、ヘルスケア分野の調査研究や新事業企画の推進にも携わっていた。高齢者介護を大きな社会問題と認識しており、ロボットやIT技術を活用して高齢化社会へ貢献したいと考えていたところ2014年にPepperと出会い、新しい可能性を見いだす。そして2015年、famirobo.comを設立。介護や教育分野を中心に、家庭用ロボット向けアプリの試作をスタートした。

■阿久津 靖子 プロデューサー
(株)MTヘルスケアデザイン研究所代表取締役地域計画を学び、GKインダストリアルデザイン研究所入社。プロダクト製品開発のための基礎研究や街づくり基本計画に携わる。子育て卒業後、情報発信型店舗の運営やライフスタイル系企業数社にて商品企画開発(MD)および研究、店舗の立ち上げ、マネジメントを行う。当時より、ヘルスケアライフスタイル創造を目指す製品開発や店舗プロモーションを模索し、2011年独立し、ヘルスケアデザインリサーチファームとして(株)MTヘルスケアデザイン研究所を創業。超高齢社会に世界初の感情認識ロボットPepperを活用出来ないかと思い、LMDPでヘルスケアPepperアイデアソンを企画。

■吉村 英樹 プロジェクトリーダー
フューブライト・コミュニケーションズ株式会社 取締役
2001年より通信業界を中心に活動。通信キャリアでネットワークサービスの営業企画に従事。その後、インターネットプロバイダーやケーブルテレビ局向けにIP-PHONEのサービス企画と再販営業に従事。その後、2007年よりITXで新規事業開発に従事。転籍後2011年よりオリンパスビジネスクリイエツで医療情報関連の新規事業開発業務に従事し、その経験を生かし、2013年7月にフューブライト・コミュニケーションズを設立。医療福祉情報連携コーディネーター/福祉住環境コーディネーターの資格をもつ。

■武藤 朋子 コンテンツ監修 看護師 認定看護管理者
ファーストレベル 東京慈恵会医科大学付属第三病院 混合病棟(全室個室)/医療法人社団副仁会 三島東海病院 外科・整形外科病棟/日赤裾野病院/富士岡記念病院 内科(慢性期)病棟 医療法人社団明芳会横浜新都市脳神経外科病院 昭和大学横浜市北部病院 病棟・管理職(管理主任・師長)病棟経験詳細 認知症・眼科・整形外科・消化器センター主任経験/安全管理担当者(専従)5年 師長医療法人財団 荻窪病院 管理職 帯津三敬病院 管理職(看護部長1年) 医療看護の現場をPepperや新しい技術で変えたいという思いからチームに参画。医療安全管理者・メディエーターA

■河田 茂 コーディネイター
Webメディアプロデューサー、スマートフォンアプリプランナー
広告代理店でのコピーライター時代よりヘルスケア系のクライアント、生命保険会社の広告を手がける。独立後は医療メディアの企画運営にかかわるほか、AppStoreにてメディカルカテゴリでのランキング上位となったアプリも企画、プロデュースしている。現在、83歳の元気すぎる実母と楽しく同居中。

■坂田 信裕 システム開発及びコンテンツ監修
獨協医科大学 基本医学 情報教育部門 教授 情報基盤センター長
ICTを活用した教育手法の開発や展開、医学・医療への情報通信技術応用の研究等に従事。Pepperには、2014年6月の発表時から関心を持っていたが、11月に1台入手できたことで、様々な活用絵の取り組みに深く関わるようになった。現在、医学部および看護学部の教育において、Pepperを新たな教育用ツールとして活用し始めている。2014年度の試行的な利用を経て、2015年度には、アプリ開発の授業科目等も準備し、人型ロボット利用と医学・医療について考える機会を設けている。また、高齢者などを対象とした健康管理や生活支援のためのアプリ開発にも取り組んでいる。
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認知症ONLINE 編集部

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