高齢者の自立支援に欠かせないものって?~私が大切にしている○○の話~

ご高齢者や認知症が進んだかたにも楽しんでいただける音楽会、「音楽の花束」を主催しておりますGOTOです。

現在、デイサービスで行っている音楽活動の中で一番大切にしているのは、「人と人との関係性の構築に貢献すること」です。GOTOは、音楽がそこに貢献することができると考えています。今回は、デイの事例から、関係性構築への働きかけについて書いてみます。

1番辛いのって誰?

デイサービスでの自立支援というと、身体的な機能回復が注目されがちです。しかし、認知症の進行を遅らせるためにも、重大な疾病への免疫力を高めるにも、「笑顔でいることが大切」と言われます。これは、家族を含め、周囲との関係性が良好でなければとても難しいことです。身体的なリハビリに自主性をもって取り組んでいただくことは、心が満たされていなければ難しいことです。

つまり、より健康に近づくためには、周囲との関係作りが重要な鍵であると考えられます。

認知症が強くなってくると、それまでと同じように周囲と関係性を作ることが困難だと感じることが多くなります。聴こえの問題、怪我、病気などによる生活の不便さが加わると、周囲と良好な関係を保つ難しさはいっそう増します。お客様の施設利用にあたっても、多くの場合ケアマネさんから、「家族が(介護で)辛そうだから、施設を利用することで少しでも楽にしてあげたい」という言葉をよく聞きます。

しかし、この「家族の辛さ」は、じつはご家族よりも当事者が1番苦しんでいることでもあります。「家族に迷惑をかけるからここ(デイ)に来させられている」「自分は厄介者だ」という気持ちから逃れられず、リハビリにも意欲を持てない方が多くいます。時には「なぜこの施設にいるのかわからない」と衝動的に帰宅願望を募らせたり、憤りを周囲にぶつけて、「不穏」とか「暴力的」と言わしめたりする行動をとってしまうこともあります。

ちょっとした気づきからスタート

ある日のお客様で、視力と聴こえに問題のあるH様と、片耳が少しだけ聴こえる程度のN様がおられました。お二人とも男性である点、歩行の問題で外出が困難であることと聴こえの問題から「他者との交流の促し」がケアプランに含まれているという共通点があります。ご利用からまだ日も浅く、スタッフが大きな声で話しかけて様々なアイディアを持って対応していましたが、帰宅時間を何度も確認するなど落ち着かない様子でした。「ここにいて楽しい」「ここでリハビリをやっていこう」という気持ちを持っていただくには、まだまだの状態でした。

ある時スタッフが、H様が置いてあるキーボードに目を留められたことに気づき、「どうぞ弾いてみてください」と促したところ、学校の教員をしていたころを思い出され、探り弾きを始められました。次々と思い出される懐かしい曲に、ほかの認知症が強いお客様もつられて歌い、笑顔になりました。N様にも耳元で、「今、H様は何十年ぶりに小学校で教えておられた歌を思い出しておられますよ。『仰げば尊し』や『證誠寺の狸囃子』を弾いています」とお伝えしました。すると、夢中になって弾いているH様の様子を見てにっこりうなずかれました。

「思い出す」のではなく、「思い出したい気持ち」に寄り添う

H様が弾いた曲は、誰もが知っているような小学校唱歌が中心でした。耳が聴こえなくても、ご自身に「思い出したい」という気持があれば、心の中で歌は甦ります。N様に「今からその歌を一緒に歌ってみます。歌詞を見たら思い出していただけると思いますので、ご一緒に楽しんでくださいますか」と伺ったところ、「うん、うん」とうなずいてくださいました。

そこでH様が弾いておられた曲を皆でご一緒に歌いながら、歌のリズムに合わせてスタッフに歌詞を指してもらい、GOTOも体でリズムを表現しながら演奏しました。誰もが記憶にあるような曲を、リズムを意識することでさらに思い出しやすくする工夫です。見ると、まるで他の皆さんの歌声に合わせているかのようにN様の身体もリズムを取っています。耳の遠いH様も音程は外れていますが、リズムに合わせて堂々としたお声で歌っておられました。

音楽のレクリエーションの目的は「歌う」だけではない


GOTOの音楽レクリエーションは、歌うことと同じくらい、歌の間の「繋ぎの会話」を大切にしています。回想をしたり、時代感覚や個人の思い出を共有することでお客様同士、また職員も含めてその場にいる人たちの親和性を深める大切な場面です。この日、耳の遠いかたのためにホワイトボードを駆使しました。

「今の曲、いつ頃覚えて歌ったのでしょう?」と話しながら書くと、各々から「小学校じゃないかな」「中学では違う歌を歌ったよ」と返ってきます。これを捉えて「小学校?」「中学では違う歌を歌った?」と書くと、N様から「そうそう、中学では『蛍の光』だったね」と次の曲に繋がる言葉が出てきました。皆さんで「蛍の光」を歌って、「学校時代に覚えた歌は、歌詞も最後までしっかり思い出せますね」と書くと認知症の強いかたからも「そうだ、そうだ」という声が返ってきます。

とはいえ、あまり曲数を増やすと聴こえに問題を抱えている方には負担が大きくなるため、「たきび」という歌が出たところでお話しを伺いました。

その人その人に合わせたコミュニケーション方法

ボードを使い連想をしていただくと、落ち葉掃き後のたき火で芋や餅を焼いた思い出や、食べ物の貧しかった戦時中のことが出てきました。「戦時中と言えば隣組」とN様からの発言で、また歌を歌いました。これに促され皆さんがお互いの境遇を少しずつ語り始めたタイミングで、GOTOはホワイトボードを離れ、聴こえに問題を抱えたお二人の間に入りました。なぜなら、耳が遠いお二人が正面にいるGOTOを通訳としている間は顔を合わせることはなく、関係性も縮まりません。

そこで、お二人の間で少しずつお話を進め、キーワードだけをボードに書くようにしました。すると次第にお二人はGOTOの顔とお互いの顔を交互に見ながら「隣組と言えば配給ってのがあったね」…「米」「一升瓶で精米」「衣類も」「国民服」「茶色」…と「会話」がどんどん深まり始めました。ボードが言葉で埋まるころには、お二人は顔を見合わせ、うなずきながら話をされていました。

「出身は」「そこは行ったことがありますよ」など、親しみを込めた会話が弾み、気がつけば送迎の時間となっていました。「たくさんお話ししていただき、ありがとうございました」というGOTOに、お二人とも笑顔でうなずかれ、充実した様子で帰路につかれました。

この直後から、H様もN様もご自身が希望されることや思いを、しっかりとスタッフにお伝えくださるようになりました。ご自身がほんとうに望んでいる生活がわかってきたことで、より的確なアプローチが可能となり、より的確なリ・ハビリテーションを進めていくことができました。

さいごに


認知症や高次脳機能障害、聴こえの問題などがある高齢者は、周囲の方との交流が思うようにできないことでの孤独感から意欲をなくし、ひいてはご家族や周辺への暴力や暴言につながることもあります。音楽を通して対話や笑顔のやり取りを増やすことで、活動に参加する楽しみが増えます。そして、リハビリに取り組む意欲が増し、リハビリ効果を高めることにもつなげられるのです。さらに、ご家族様との関係性も良好になっていくという効果も現れてきています。

音楽にできることは、まだまだある。GOTOの模索は続きます。

次回もどうぞお付き合いください。

前回記事:介護施設で参加者の心をグッと掴む季節の歌

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後藤 京子(GOTO)
「音楽の花束」代表。星美学園短期大学講師。東京音楽大学卒、同大学第2副科オルガン専攻修了、邦楽演奏コース長唄三味線専攻修了。1986年日本ピアノコンクール全国大会第3位、受賞記念演奏会出演、1987年読売新人演奏会出演。NHK邦楽技能者育成会に学ぶ。短大西洋音楽史講師、小学校音楽科教諭を経て2004年より「音楽の花束」のプロデュース活動を始める。2015年きらめき認知症シスター(きらめき認知症トレーナー協会認定)取得。カトリック東京カテドラル関口教会オルガニスト。デイサービス「空の花 高井戸」取締役副社長。>>公式サイトへのリンクはこちら「音楽の花束」
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