「認知症の兆候がでてきたら、早めの医療機関を受診を」認知症の早期発見は、今や国全体で推進されています。しかし、早期発見ができても、病名の告知をされた途端、ご本人がショックを受け、今後の人生に絶望してしまうケースも少なくありません。
早期発見を早期絶望にしないために、榊原白鳳病院の認知症専門医・笠間睦氏は、あるオリジナル冊子を作成しました。診断結果を告知する際、ご本人に手渡す冊子で、認知症について希望が持てる情報が書かれています。笠間氏に冊子作成の背景や、認知症診療にかける思いをインタビューしました!
インタビューさせていただいた方
笠間 睦(かさま あつし)さん
1958年生まれ 藤田保健衛生大学卒業、医学博士/日本認知症学会専門医・指導医/日本脳神経外科学会専門医/榊原白鳳病院 診療情報部長/脳ドックに携わる中で認知症の早期診断・早期治療の必要性を感じ、1996年全国初の「痴呆予防ドック」を開設。2010年から2015年にかけて朝日新聞の医療サイトアピタルにて「ひょっとして認知症?」を執筆
認知症を告知する医師は少数派
現在の日本では、認知症の告知は積極的にされていない現状があります。2010年に首都圏の認知症患者の家族を対象に行われた調査で、本人に病名が告知されたのは半分以下。
笠間氏曰く、「認知症の告知を積極的にする医師は少数派です。私も3年前までは告知しない派でした。認知症は治療の選択肢が少ないことや、告知をしてショックを受けた患者さんをフォローしきれる自信がなかったからです。」
それでも笠間氏が認知症の告知に踏み切ったのは、まだ判断力が残る認知症の初期段階で本人の意向を聞き、終末期医療を患者本人に決めてもらうため。「最期の医療の選択は、家族ではなく、患者本人が決めるべき。それには、自身の病名を把握しておくことは欠かせないはず」と笠間氏は言います。
「診断直後に希望が持てる情報がほしい」当事者の声を反映
笠間氏が作成したのは、「『早期発見→告知』が早期絶望とならないように!」と題した冊子。アルツハイマー型認知症の場合きちんと治療すれば2年程度は進行が目立たないことや、レビー小体型認知症では初期段階の適切な治療で進行を食い止められるケースが散見される等、医療現場でのデータに基づく情報がまとめられています。
この冊子が作られた背景には、認知症を持つ当事者の声がありました。直接のきっかけは、レビー小体型認知症と診断された樋口直美さん(54歳)からSNS上で届いた「診断直後に手渡されるペーパーがあるといいな」というコメント。
「ただ病名だけを告げる告知もある中、『希望を持てる医療情報や読むべき本がまとめられた1枚の紙があるだけでも“早期絶望 早期絶望”は防げる』、という樋口さんからの指摘に共感し、それまでにしたためていた論文や講演会での希望の情報を収集し、指摘を受けたその日のうちに『希望の冊子・『早期発見→告知』が早期絶望とならないように! Ver.1』をネット上に公開しました。」

絶望しない告知のあり方、今後も模索
冊子は最初、医学的な内容を中心に数ページでした。しかし、手渡した外来患者などから「もっと情報がほしい」と言われ、24回改訂を継続して現在冊子は全20ページに。笠間氏は「今後も、もっと読みやすく分かりやすい形にブラッシュアップしていきたい」と語ります。
現在、笠間氏の勤務する榊原白鳳病院では、認知症の告知とともに、この冊子が手渡されています。直近の約1年間で新規外来25人のうち、告知を希望したのは13人。そのうち、さらに詳しい予後(今後の病気の進行過程)の説明を希望したのは8人でした。
笠間氏は、「告知を前向きに受け止めることで、ご本人と家族が終末期の医療について話し合うきっかけになれば。このような取り組みが全国的に広まるには、他の医師たちの賛同が欠かせません。引き続き、積極的に希望のある医療データの収集と発信に努めていきたい」と話しています。
『希望の冊子』の最新版は、笠間医師のサイト「日々想々」において公開されています。
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認知症ONLINE 編集部

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