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【戸惑っているから助けてほしい】
「わたし、どうしたらいいのかわからないんだけど…」
そのように職員に声をかけている人がいた。
いま、自分のおかれている状況で、
何を、どのようにすれば良いのかがわからない。
そんな自分の混乱を
こうして言葉にして伝えられることは素晴らしいこと。
そして、伝えてくれてありがとう。
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“戸惑い”にどう対応していますか?
「わたし、どうしたらいいのかわからないんだけど…」と繰り返し言われる場面で、よく見かける介護者の対応があります。



要するに、「どうしたらいいかわからない」という発言に、「ああしてください」「こうしてください」と、「どうすればいいか?」を指示するコミュニケーションです。もちろん、これが全くダメということではなく、ここでは少し見方を変えて、このやりとりをとらえ直してみてほしいのです。
“戸惑い”が生じる理由を探ってみる
「どうしたらいいのかわからない」ということは、戸惑っているということですから、戸惑っているにも理由があるはずです。人が戸惑っていたら、すぐに手を差し伸べたくなりますが、その前にどんな理由があるのかを本人に尋ねるか、もしくは本人がうまく答えられない場合はどんな理由が考えられるかを探ってほしいのです。



周囲の人の影響、記憶の影響、場所の影響等、様々な要素が重なって、戸惑いが生まれていることが予想されますが、そこに関心を向ける前に、自動的に対処してしまっているのではないでしょうか。
ワンパターンな対応を繰り返さないために
よくよく考えてみると、記憶が抜け落ちるということは、場面(風景)が目まぐるしく変化しているという体験なのかもしれません。そうだとすると、「わたし、どうしたら…」と言い出す前から、ずっと戸惑いの中にいるのかもしれません。
そして、その人がそう言ってくる理由によって、実は「どうしたらいいのかわからない」という言葉でも、求めていることが違ってきます。
例1 他の人と座りたいケース
●理由 他のテーブルは4人座っているのに、こっちのテーブルはわたしだけ…どうしよう。
=「一人ぼっちだと居心地が悪いから他の人と座りたい」
●対応 他のテーブルに5人で座ってもらう、仲が良い人に同じテーブルに座ってもらう、等
例2 何か手伝いたいケース
●理由 皆さんバタバタと動き回っているのに、じっと座っていたら申し訳ないわ。
=「わたしも何か手伝わないといけないのでは?」
●対応 いま担ってもらいたい役割や作業を伝える、一緒に作業を行う、等
例3 いつもしていることを教えてほしいケース
●理由 いつもここで何かをしていたんだけど、何をしていたのか思い出せないわ。
=「わたしがしていたことを教えて」
●対応 道具等を机に用意しておく、いつもしていることを一緒にする人と同じテーブルに座ってもらう、等
繰り返し言われる人の場合、全部同じ理由だ(理由はひとつだ)と思いがちですが、1回1回違っている可能性があるという見方がないと、パターン化した対応を繰り返してしまいがちです。特に、短期記憶の保持が難しくなっている人の場合は、常に、毎回、新しい状況であるということを忘れないことが大切です。
おわりに
どのような力を持っているととらえるか。そのとらえ方一つで利用者の見え方、感じ方は違ってきます。その一言を聞いて、「困っているんだ」と受け取るか、「自分のことを伝えられるんだ」と受け取るか。正解はありませんが、適切な受け取り方は存在します。何を力と受け取るあなたかで、ケアの方向性も、ふいにかける言葉ひとつも違ってきます。相手を力づけることもあれば、相手に落胆をもたらすこともある…。
今回の場合、「自分の気持ちが言葉にできる」ということも受け取るあなたなら、「自分が困っていることを伝えてくれてありがとう」という感謝を伝えてみるのもいいかもしれません。
【あわせて読みたい前回記事】
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