「認知症よりそいケアアドバイザー」石川深雪です。わたしは大学卒業後、15年間介護現場で仕事をしてきました。今は介護現場で働く人のサポートをしたいと思い、様々な活動をしています。認知症介護というと、大変そうなイメージを持たれることが多いですが、私は認知症介護の仕事に楽しさを感じています。なぜ、介護の中でも「認知症」に関心を持ち、その道に進むことを選んだのか。本日はその理由をお伝えします。
ホクロを食べようとするおばあちゃんとの出会い
大学生の時、授業で訪れた特別養護老人ホームで、ひとりのおばあちゃんと出会いました。当時、わたしは認知症の知識はほとんどありません。老人ホームも初めてで。ひとりの小柄なおばあちゃんがいました。赤い車いすに座り、オーバーテーブルをつけていました。話しかけても視線は合わず、返事もない。「手に触れたら反応あるかも」と思い、オーバーテーブルに手を置きました。
次の瞬間。そのおばあちゃんが、わたしの右手の甲にあるホクロをつまんで口に運んだんです。実際にはホクロはとれませんが、何度も何度もわたしのホクロをつまんでは口に入れるしぐさを繰り返すおばあちゃん。きっと食べ物に見えたんでしょう。ものすごい衝撃でした。でも、その衝撃は不快ではなく、わたしの好奇心を刺激しました。「もっと認知症の人のことを知りたい!」そう強く思うようになり、その後すぐに自分の進路を変えたのでした。
人の顔色を伺い続けてきたからこそ感じる魅力
なぜ認知症の人をもっと知りたいと思ったのか。それは、私の性格に理由がありました。ずっと優等生でいなければと頑張って生きてきました。
いい子でいなきゃ。
いつも笑顔でいなきゃ。
人に迷惑をかけないように。
でも、介護の世界に入って、認知症の人と関わるようになってからその考えが変わり始めました。まずは、側から見たら、自分勝手、自由奔放に生きているように見えるお年寄りの笑顔がとってもステキだということ。
食べたければ人のものとってでも食べます。
お風呂入りたくなったら時間なんて関係ない。
誰が来てようが、ご飯の時間だろうが眠たければ寝る。
夜中でもお墓参りに行きたくなっちゃう。
ずっと人の顔色伺って生きてきたわたしにとって、自分の心に忠実に生きる認知症の人との関わりはとっても心地よかったんです。心からの笑顔にたくさんの癒しとパワーをもらいました。認知症介護の現場は、わたしも自分の優しさ、無邪気さを素直に表現できる場だったんです。認知症の人の前では心が無防備になれました。
介護の仕事に戻ってくる人が多い理由
もちろん、周りの介護職員の中には、職員認知症の人の奔放な行動に対して、「どうしてわからないの?」「なんで夜寝てくれないの?」と苛立ちを覚える人もいます。そして、同じ職場で働く同僚に対しても、 「なんでもっと早く仕事できないの?」 「なんで今そんなことするの?」 っていちいちチェックして怒る。介護現場にはストレスが溢れています。
けれど、こうした苛立ちを覚える人ってきっとすごくすごく頑張っている人だと思うんです。これは仕事に限らず、家庭だったり、子育てだったり。生きている中のどこかですごく頑張っている人。だからいい加減なのは許せない。人に甘えるのも許せない。「こうするべき」から離れられない。離れられないうちはきっと仕事も大変なことが多い。でも、介護の仕事は辞めない。
それはきっと「お年寄りに助けてもらうため」「癒してもらうため」なんじゃないかな~ってわたしは思います。それは本人が意識しててもしてなくてもです。だから退職しても介護の仕事に再び就く人が多い。認知症介護の介護の仕事が本当に楽しくなった時、わたしは自分の生き方も変わったと思っています。
さいごに
認知症介護に対する思いや考え方は人それぞれだと思います。最近はSNSを利用して、介護を楽しんでいる人の情報やいろいろな形で発信している人に出会うことができます。ただ、どうしても暗い、大変なイメージがまだまだ強いことも事実です。そんな時、「こういう考え方もあるのか~」って頭の片隅で思い出していただけると嬉しいと思います。必要な方に届きますように。


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