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【実は…驚きの連続なんです】
かゆみ止めの塗り薬を塗ったことを忘れてしまう人がいた。
「薬を塗らないと…」というので「さっき塗りましたよ」と伝えてみたら
「ええ~っ?!」と驚いていた。
自分の記憶にはないんですから、それはビックリしますよね。
この体験を想像できる人が増えて欲しいですね。
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直前のことを忘れるという体験とは?
カルテやアセスメントシートに、たった一言で「短期記憶の低下」と書かれていることも、本人が体験している(と思われる)ことがらとして表現するとどうなるでしょうか?
直前の出来事を憶えていられなくて、記憶が途切れ途切れになる
といったところでしょうか。そして、それはどんな体験なんでしょうか?
- 目の前にあったはずの財布が、こつ然と消えている。
- 食事を食べていないのに、「さっき食べましたよ」と言われる。
- 塗っていない薬を、「さっき塗りましたよ」と言われる。
それはもう驚きの連続でしょう。もやもやした不安な気持ちもあるかもしれません。
忘れることを忘れている?!
冒頭で紹介した塗り薬のケースで対応した職員は、まったくもって悪気なく、利用者のためを思って、「さっき塗りましたよ」と答えていました。そして、こうした会話の展開は、意外と珍しくありません。

利用者

職員

利用者

職員
こうした会話を耳にしていると、それはまるで利用者にもの忘れがあるということを、職員が忘れているかのような展開です。利用者が覚えていない出来事を思い出させるかのように、職員がみた様子を描写しながら伝えています。そのことで、「そうだったわね」と思い出すこともありますし、「そうだったかしら…?」と不安そうな表情で会話の幕を閉じたり、「食べてない!」と強く訴えてくるという場合もあります。
いずれであったとしても、利用者にとっては自分の身に覚えのない過去を伝えられるのですから、それは衝撃的なことだと思われます。
混乱に拍車をかける可能性
ところがわたしたちは、利用者から同じ質問を何度もされたり、こちらの提案や声かけに応じてもらえないと、わたしたち自身が困ってしまうので、ついつい本人の気持ちよりも、「どうすればわかってもらえるか」に意識が向きがちです。
そうすると、わたしたちと同じ理解をしてほしいという思いが湧いてきて、利用者がとらえている現実や判断を訂正してもらおう、理解を変えてもらおうと働きかけることになります。では、自分のことに置き換えて、少し想像してみてください。あなたが友人からの電話に出た時の話です。

友人

あなた

友人

あなた

友人

あなた
こうして電話を切られてしまうと、あなたはどんな気持ちになるでしょうか? 驚きの連続の末に電話を切られたら、「こころがざわつく」「へこむ」「焦る」「怒る」等の反応がわいてくるでしょう。少なくとも、素直に「そうだったわ。わたしが間違っていたんだわ」と友人の話を理解・納得するというよりも、気持ちがかき乱されるのではないでしょうか。
身に覚えのない過去のやりとりを、正面から突きつけられるというのは、混乱に拍車をかけられるという体験なのかもしれません。
おわりに
わたしたちにとっては、何気ない会話かもしれません。そのことで「ああ、そうですか」と、わたしたちの言葉に理解を示してくれる人もいます。一見して、「そんなことありません!」と強い反応を示す人が混乱しているということはわかりやすいのですが、穏やかに理解を示してくれているように見える人の中にも、心の中では様々な反応が湧いているのかもしれないのです。
目の前の状況を、理解してもらう関わりの前に、先に「本人は、わたしたちとの認識のズレに驚きや不安な気持ちをもっているかもしれない」ということを想像しながら関われる人でありたいですね。


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