こんにちは。クラウンアンバサダーの金本麻理子です。介護の現場にいると、つい自分の無力さを感じてしまうこともあるのではないでしょうか。
「何もできなかった。何もやってあげられる事がなかった」
「訪ねて行ってもかえって相手が迷惑なんじゃないか。だったら行かないほうがよい」
「相手は何も変化してないように思えて、自分がやっていることは意味があるのだろうか」
ときには自分を責めたくなったり、自信を失うこともあったりするのではと思います。介護の現場にいられるスタッフの方のマイナスな感情の声を聞くと、パッチから聞いたある話を思いだします。今回は、自らの介護に無力さを感じてしまっている介護従事者の方に向けて、メッセージを込めたお話をさせていただきます。
世界で一番哀しい目をした女の子の話
数年前、パッチが来日した際、エクアドルの病院で出会ったというある女の子の話をしてくれました。
「こんなに哀しい目をした女の子は見たことがないよ」
そう言って見せてくれた写真の中の5歳の女の子は、凍りついたような固い表情をしていました。お父さんからレイプを受けて、そのショックで口を開かなくなってしまったとのことでした。
話をしないどころか、食事もとらなくなってしまい、パッチが訪問する翌日には胃瘻の手術が決まっていたそうです。パッチはその女の子に向き合って、1時間マンツーマンで係ります。いつもならパッチの係わりで相手が変わっていくのが目に見えてわかるのに、この時ばかりは1時間経った後もその女の子に変化がみられませんでした。
全身全霊で係りを持っても変化がなかった…
女の子にとって受けた傷、衝撃は想像つかないほどに大きかったのだと思います。翌日、パッチは再び同じ病院に戻り女の子の病室へと向かいます。実はパッチは何十年とクラウニングをしていますが、同じ患者さんに2日続けて行くことは滅多にないことだと言う事でした。それぐらいにその女の子の事が気になっていたのでしょう。
その日も全身全霊でパッチはその女の子に係った事と思います。しかし別れ際、パッチからすると女の子に取り立てた変化がみられずにいたそうです。さすがのパッチも「自分にはできることがなかった。」という想いにかられたそうです。
翌日パッチは自国に帰る事になりそれこそ後ろ髪を惹かれる思いで帰ったとのこと。それでも気になって2週間経ってから病院に電話をかけたら信じられないような事が起こっていたのでした。
こっそり起きていた奇跡
パッチが訪問した後から女の子は変化を見せ、それまでひと月ほど閉じていた口も開けるようになったとのことでした。口から食事をするようになったので胃瘻の手術も中止、そして学校にも戻ったようです。パッチが「なんの変化もなかった」と思っていた女の子には実は奇跡のようなことが起こっていたのです。
パッチの訪問の後、病院のドクターやナースは女の子の変化に気づきます。それまでと違う表情を見せ始めた女の子に対して、スタッフの方たちは見逃さずさらに女の子に声をかけ、気にかけていくことで女の子は奇跡と思うような回復ぶりをみせたのです。
パッチでさえも「自分にはなにもできることがなかった」と己の無力さに落ち込み、視野が狭くなってしまうこともあるのです。しかし、人は刻々と何かしら変化している。毎日の刺激をうけてほんの少しでも変化をしています。
さいごに
自分が係っても、何もできなかったと思ってしまうことがあるかもしれません。でも、そんな時にこそ、少しでも顔が見れたら傍らに居ることだけでもできたと思ってみてはいかがでしょうか。
直ぐに結果がでたり、目の前で反応が得られたりということばかりではないかもしれません。しかし、時間が経って変化をしていたり、実はわかってもらっていたりということもきっとあるはず。そう信じて行動してみるのもよいかもしれません。
何よりも、「傍らに居てくれて、自分に関心を寄せてくれた人がいた」というのは、必ず相手に伝わっていると思います。
撮影:近藤浩紀
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