道交法改正~高齢者ドライバーを取り巻く現状~

by 軍司大輔軍司大輔 5171views

1965年、「いざなぎ景気」の日本、豊かさの象徴としてカラーテレビ・クーラー・自動車が「新・三種の神器」と呼ばれ、人々の生活に溶け込みはじめました。当時23歳だった若者たちは、運転免許証を取得し、現在まで生活の一部として車と共にある人生を送ってきました。

高度経済成長後の日本は交通インフラも整備され、都市部では車がなくても生活が成り立つ地域が増加しました。それに伴い「若者の車離れ」が話題となるほど環境は変化しました。しかし、まだまだ車を完全に手放すことは難しいのが現状です。

いざなぎ景気当時23歳だった彼らが75歳を迎える今年、平成29年3月12日、道路交通法の一部が改正され、高齢者ドライバーを取り巻く状況も変化していきます。

道路交通法の改正点

平成27年6月17日に「道路交通法の一部が改正された法律」が公布され、今回の施行となりました。主な改正点は以下2つです。

  • 準中型免許の新設
  • 高齢者運転対策

個人的に「準中型免許の新設」も気になりますが、ここでは認知症と関連の深い「高齢者運転対策」についてご紹介していきます。まず、今回の改正ポイントは3つです。

  1. 臨時適正検査制度と高齢者講習の見直し
  2. 臨時認知機能検査の新設
  3. 臨時高齢者講習制度の新設

改正後の免許更新・違反後のプロセスについて、まずは以下の図をご覧ください。

※左:免許更新プロセス、右:違反後プロセス(クリックして拡大)

図にある「第○分類」については以下のように示されています。

第1分類:認知症のおそれがある人
第2分類:認知機能の低下のおそれがある人
第3分類:認知機能の低下のおそれがない人

臨時適正検査制度の見直し

免許更新時に約30分の認知機能検査が行われ、結果はその場で通知されます。認知機能検査で第1分類と判定された人でも、これまでは臨時適正検査等の受検が必須ではありませんでした。認知機能検査の分類に応じた講習を受講し、免許を更新、その後一定の違反があった場合に、臨時適正検査または任意で主治医の診断書を提出することとなっていました。

本改正から、更新時の認知機能検査で第3分類となった人、および75歳未満の高齢者は「合理化講習」に。第1分類と判定された場合、第2分類の人と同様に「高度化講習」受講に進みますが、後日臨時適正検査の受検または主治医の診断書提出命令を受けることとなります。

その結果「認知症である」となった場合、免許取消または停止の対象となります。その他、免許更新後、「認知機能が低下した場合に起こりやすい一定の違反(注1)」があった場合も臨時認知機能検査の対象となり、結果によって臨時適正検査等の受検が求められます。これらの見直しにより、従来のシステムに比べタイムリーに高齢者ドライバーの状況を把握・対応することができるようになります。

※認知機能検査の内容については「臨時認知機能検査」の項目で紹介します。

臨時適正検査・診断書の提出とは

臨時適正検査または診断書提出命令の対象者は全国で4~5万人になると予測されています。各病院等が実施に協力し、改正に先立って院内勉強会なども開催されています。

運転に係る一般的な検査の例
  • HDS-R・MMSE【簡易認知症スクリーニング検査】
  • 内田クレペリン精神作業検査【精神作業評価】
  • WAIS-Ⅲ【知能評価】
  • SDSA【脳卒中ドライバー評価】

高齢者講習の見直し

改正の内容を以下の表にまとめました。

※クリックして拡大

前述のとおり、大きく2つのグループができ、ひとつは「75歳未満の人」と「第3分類の人」、もうひとつは「第1分類の人」と「第2分類の人」です。前者は合理化講習、後者は高度化講習になります。

臨時認知機能検査とは

「認知機能が低下した場合に起こりやすい一定の違反」があった場合に行う認知機能検査を、「臨時認知機能検査」といいます。内容は以下3種類です。(更新時も同様の検査内容となります)

  • 見当識(時間)
  • 手がかり再生
  • 時計描画

検査所用時間は、判定までを含め約30分が見込まれます。臨時認知機能検査の結果、第1分類の判定があった場合、臨時適正検査または主治医の診断書提出命令となり、「認知症である」との結果が出た場合、更新同様に免許取消または停止となります。

認知機能検査用紙イラストパターンの例採点方法は、警視庁HPよりご確認いただけます。

臨時高齢者講習制度とは

一定の違反があった後、臨時認知機能検査の結果、「前回の認知機能検査時から認知機能が低下し、第2分類と判定」された人(つまり、前回第3分類だった人が違反後の検査で第2分類になった人)、または第1分類と判定され、臨時適正検査等の結果、「認知症ではない」とされた人が受講します。前回検査時に第2分類だった人が違反後も第2分類と判定された場合は臨時高齢者講習の対象はならず、免許継続となります。内容は以下2種類です。

  • 実車指導(60分)
  • 個別指導(60分)

受講後、免許は継続されます。

なぜ改正されるのか

交通事故の総件数は、以下の要因により年々減少傾向にあります。

  • 車の安全性能アップ
  • 罰則強化

同様に死亡事故に関しても、車の安全性や医療の進歩によって交通戦争時代からは大幅に減少しています。そんな中、高齢者ドライバーに関しては事故の割合が増加しているというデータが警視庁その他から示されています。

東京都内に関しては、平成27年の段階で高齢運転者が係る事故が総件数の21.5パーセントを占め、10年前の約1.9倍となっており、その「理由」を見た時に、認知機能の変化によって起こっている事故が多くなっていることから、今回の改正となったのです。実際、事故を起こした高齢者から「どこをどう走ったのか覚えていない」などの供述が聞かれています。

平成26年中に起きた 75歳以上の運転者による死亡事故の第1当事者において、認知機能検査結果が第1分類の人が3.9%、第2分類の人が37.4%と約4割を占めています。同じく75歳以上の運転者による高速道路の逆走事案を見ると、第1分類の人が12.6%、第2分類の人が61.3%と、約7割を占めています。こういった状況から、認知機能が運転に及ぼす影響は少なくないことが見て取れます。

75歳以上の高齢者の免許保有者数は、平成16年に2,158,212人でしたが、平成26年に4,474,463人、平成30年には5,325,361人になると見込まれていることもあり、今回の改正につながっています。総人口に占める高齢者の割合が増えている以上、高齢者が関わる交通事故が増えるのは当然ですが、事故が起こる理由は今までのそれとは変化してきているのです。

改正の目的を履き違えない

シンプルなデータ上で、高齢者の事故割合が増加するのは前述の通り自然なことと考えられます。年代別の事故割合を見ると、むしろ高齢者よりも10代の若年者の方が事故を起こしているとしているデータも存在しています。

様々な見方はありますが、「高齢者だから運転は危険」という画一的な考えで道路から高齢者を追い出すのではなく、目的は「交通事故をなくそう」ということです。今回の法改正は、その手段の一つと捉えることになります。まずは事故をなくすこと、そのために高齢者ドライバーの状態を、自他共に把握するためのものです。

そして制度はもちろん、ハードとしての車にも自動運転・自動ブレーキといった技術の進歩が望まれます。

免許のない生活をどうフォローするか

臨時認知機能検査、臨時適正検査等の結果、免許取消または停止となった場合、または自主返納を選択した高齢者は運転席から退くことになります。遅かれ早かれ、ほとんどのドライバーにその日はやってくるのかもしれません。しかし、車の運転ができなくなった場合、生活はどうなるのでしょうか?

もちろん最優先事項は、交通事故をなくすことです。認知症であっても高齢者であっても、交通事故を起こしていいということは絶対にありません。そのために今回の道交法改正は必要ですが、その後の高齢者の生活はどうフォローされるのか?が課題です。

交通インフラの整った都市部とは違い、地方ではまだまだ車がなければ買い物や病院の受診にも行けない地域がたくさんあります。滋賀県では、免許の更新ができなかった高齢者の情報を地域包括支援センターと共有し、生活面のサポートに取り組んでいます。宮崎市高岡町では、自治会長らとタクシー会社、行政が協力し、乗合タクシーを活用したシステムを実践しており、タクシーの運行ルートを住民のアンケートから決めるなど「参加型」の取り組みが行われています。

生活だけではなく、車が「趣味」の人も、「運転が好きでしかたない」人もいます。毎年お盆やお正月には、遠く離れた故郷に車で帰省することが大事なイベントだった人もいます。免許の自主返納、認知症による免許取消または停止という状態をただの喪失体験で終わらせず、「それでも生活は続く」ことを前提にした、「次の段階」をつくることが求められます。

運転をやめるとき

運転をやめるということは、生活を変えるということです。更新時や違反時は、制度によって免許と運転機会を失うことになりますが、自主返納を選択する人も若干ではありますが増加しています。私の周りにも、以下のように様々な理由から、自主返納を検討している人がいます。

  • 目がわるくなってきて、運転するのが怖くなった
  • 家族から「もう危ないからやめてほしい」と言われて
  • 運転が疲れるようになった
  • 運転中にぼーっとしてしまうことが増えてきた

運転をやめることで、活動も社会参加も低下してしまわないために、環境因子として周囲の人や地域そのものがどう関われるのか。運転を引退した高齢者がどう周囲や地域に影響を持ち続けるのか。車のない生活を、高齢者自身も家族も早期から考えておくことが大切です。

さいごに

ネコ型ロボットが、ピンク色のドアを出してくれる未来はまだやってきそうにありません、車はこれからしばらくの間、交通手段の主役であり続けるでしょう。認知症に限らず、加齢に伴った運転技能の変化・低下は誰にでも起こります。車と安全に共存できる社会を実現するために、本改正を知ることをひとつのきっかけとして、高齢者も未来の高齢者である我々も日々の運転を振り返る機会とすることが、交通事故ゼロにつながります。

(注1)【臨時認知機能検査要件となる「一定の違反」】
1.信号無視(例:赤信号を無視した場合)
2.通行禁止違反(例:通行が禁止されている道路を通行した場合)
3.通行区分違反(例:歩道を通行した場合、逆走した場合)
4.横断等禁止違反(例:転回が禁止されている道路で転回をした場合)
5.進路変更禁止違反(例:黄の線で区画されている車道において、黄の線を超えて進路を変更した場合)
6.しゃ断踏切立入り等(例:踏切の遮断機が閉じている間に踏切内に進入した場合)
7.交差点右左折方法違反(例:直進レーンを通行しているにもかかわらず、交差点で右折した場合)
8.指定通行区分違反(例:徐行をせずに環状交差点で左折した場合)
9.環状交差点左折等方法違反(例:交差道路が優先道路であるのにもかかわらず、優先道路を通行中の車両の進行を妨害した場合)
10.優先道路通行車妨害等(例:対向して交差点を直進する車両があるのにもかかわらず、それを妨害して交差点を右折した場合)
11.交差点優先車妨害(例:環状交差点内を通行する他の車両の進行を妨害した場合)
12.環状交差点通行車妨害等(例:歩行者が横断歩道を通行しているにもかかわらず、一時停止することなく横断歩道を通行した場合)
13.横断歩道等における横断歩行者等妨害等(例:横断歩道のない交差点を歩行者が通行しているにもかかわらず、交差点に進入して、歩行者を妨害した場合)
14.横断歩道のない交差点における横断歩道歩行者等妨害等(例:徐行すべき場所で徐行しなかった場合)
15.徐行場所違反(例:徐行すべき場所で徐行しなかった場合)
16.指定場所一時不停止等(例:一時停止をせずに交差点に進入した場合)
17.合図不履行(例:右折をするときに合図を出さなかった場合)
18.安全運転義務違反(例:ハンドル操作を誤った場合、必要な注意をすることなく漫然と運転した場合)
上記18項目は認知機能が低下した場合に起こりやすい違反とされています。これらの違反があった場合、通知から1ヶ月以内に臨時認知機能検査を受けることが求められ、受検しない場合は免許取消等の処分を科される場合もあります。
参照元:警視庁HP 高齢運転者に関する交通安全対策の規定の整備について

前回記事:VR認知症体験会は社会を変える!

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軍司大輔

軍司大輔

現介護福祉士養成校教務主任。介護療養型医療施設等で介護福祉士として従事した後、介護教員となる。介護職ネットワーク「ケアコネクト」主宰。福祉用具専門相談員講習、初任者研修、実務者研修講師、国家試験実技実地委員、介護施設研修、企業研修講師。認知症ケア研修、介護技術研究会、老々介護対策などを通し、地域で活動する。HR/HMギタリスト。
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