こんにちは。クラウンアンバサダーの金本麻理子です。私はクラウンの活動をするかたわらで、講演会や研修をさせていただいています。受講いただく方は、医療や介護現場の方々だったり、学校、地域の方だったりとさまざまです。先日、ある講演会で参加者の方から質問を受けました。
「うつを治すには長い時間がかかり大変だと聞いていますが、どうして金本さんはクラウンをしてうつが治ったのですか?クラウンをするとうつが治るのですか?」
私は、30代のころうつの症状に悩まされ、心と身体のバランスを失った時期がありました。映画「パッチ・アダムス」に出会い、クラウンの世界を知り、徐々に回復していった私の体験談に興味を持ってくださったようです。
そこで今回は、介護者が患いやすいうつについて、私の実体験とあわせてお話したいと思います。
30代のころうつを患った私
うつを患っている、患ったことがあるという方は非常に多く聞きますし、私の友人や知人でも多いです。
私がうつを患った原因のひとつに、当時認知症になった親愛なる祖母の喪失体験があります。何もできずにいた自分をひたすら責め、否定し続け、周りと接触することも極力避けていました。その結果鬱々となることは、読んでいられるみなさんもたやすく想像つくのではないでしょうか。
殻に閉じこもっている毎日を過ごしているとき、パッチの映画に出会い、そしてクラウンの活動を知りました。初めて参加したロシアのクラウンツアーでは、言葉は通じないのに自分がちょっと仕掛けることで相手が笑ってくれた、喜んでくれたという経験をする事ができました。
それまで、自分は何もできない、何も価値がない人間だと思って居たのに、相手が喜んでくれた!一緒に笑ってくれた!自分のことを受け入れてくれた!という体験を重ねることで、少しずつ自分を肯定できるようになりました。
もっともっと目の前の人が笑ってくれたら嬉しい、喜んでくれたら嬉しいと思うようになったのです。そこがうつから抜け出せるきっかけになったことは間違いないと思います。
映画をご覧になった方はご存知かと思いますが、パッチ自身も若いときうつに悩み、自殺未遂を何度か図っています。パッチは、自殺未遂を起こすほどまでに自分を追いつめていましたが、入院先の病院で他の患者さんを助けたことがきっかけとなり、「人を助けること」に喜びを感じドクターになることを決めます。
誰かの役に立ちたいという気持ち
誰かの役に立てる自分がいることは、生きている証でもあり人として生きる幸せにも繋がっていると思います。たとえば、お手伝い好きの小さなこどもが、お母さんの真似をしてお台所に一緒に立つことも、高齢になっても家族のお世話を焼きたがったり、地域のボランティア活動でも参加したり行きたくなったりするのもそうだと思います。
私たちクラウンも、訪問した方に対して決して受け身なだけではなく、その方が主体的に動き出せるような係わりをしたり、得意なことを教えてもらったりすることをしています。
自分の存在を再認識すること
ロシアのクラウンツアーでは、オランダからやってきた87歳の男性クラウンに出会いました。彼はゆったりとした歩調で、病院や施設で出会ったこどもたちとうれしそうに遊んでいました。2週間のクラウンツアーは体力的にハードだと思いますが、休むことはほとんどなく、毎夜ワイン片手に幸せそうな姿が印象的でした。
ちなみに冒頭でご紹介した質問に対して、私は以下のように答えています。
「クラウンをするからと言ってうつが治るという断定はできませんし、特効薬になるとも言えません。ただ、私の場合は、クラウンの活動をすることで、誰かの役に立っているという経験ができたからだと思います。」
さいごに
人間に誰しも、輝く瞬間があるはずです。たとえ病気になっていても、認知症を患っていたとしても…。
その人が得意なこと、好きだったこと、輝く瞬間があるということにフォーカスして話しを伺ったり、やってもらったりすることで、よりその人の目の輝きが変わってきます。
私たちが係った相手の方の輝く瞬間もみれる
私たちクラウンも輝く瞬間となる
このクラウンの活動は、自分にとっても相手にとっても自分らしく輝ける活動だと思います。うつが治る特効薬とは言えませんが、楽しく人生の質を高められ、なおかつ周りの人の役に立つにはよい活動だと思います。
撮影:近藤浩紀
前回記事:「話しかけても反応してくれない…」認知症の方と楽しくコンタクトを取るコツ


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