認知症の方の暴言や暴力との付き合い方~あるグループホームの話~

私は現在、認知症高齢者の生活支援を目的とするグループホームで働いています。利用者のひとりDさん(85歳)は、認知症の他に若いころから統合失調症の病気をお持ちです。統合失調症の薬を常用されているのですが、他の利用者様や職員に対して、暴言やときには暴力を振るうようになりました。

グループホームのような集団生活の場では、和を乱す症状が出た利用者様には退所していただき、別のふさわしい施設に変わっていただくのが原則です。しかし、私たちのグループホームは、施設長の方針が「普段の生活ので困った行動をする人のお世話をするのが、私たちの施設」というもので、Dさんを施設から出そうとはしません。

今日取り上げたいのは、Dさんと私たちが今現在、どのようにおつきあいしているか、ということなんです。それでは早速お話させていただきますね。※Dさんを退所させるべきかどうかはとても難しい問題で、今日の話題ではありません。

処方された薬によりさらに症状がひどく…

職員たちがどのように接したらいいか困り果てている中、Dさんは精神科にかかることになりました。私たち職員は、Dさんの暴言や暴力は明らかに統合失調症という精神疾患のせいだと思っていたのですが、お医者様はあくまで認知症が原因と判断し、薬が処方されることになりました。

少ないグラム数から始まり、結局効果が出たのは処方できる最大のグラム数で、それを常用することになったのです。薬を服用するようになった最初はおとなしかったDさんでしたが、何ヶ月かすると、結局元に戻ってしまいました。しかも、よりパワーアップして。つまり、暴言や暴力が以前よりひどくなってしまったのです。(薬の服用は続けておられますが、体が薬に慣れてしまうということがあるとのことです。)

暴言や暴力の原因って?

認知症の方の暴言や暴力には、必ず原因があるのが特徴です。その原因は、その場で起こったこととは限りません。胸のなかにモヤモヤしたものを感じ、暴言や暴力の原因のひとつとなるのです。モヤモヤを感じたときにそれが解決されないと、その何時間か後、あるいは数日後に出ることもあるのです。

Dさんは、ご自分の生活の中では散歩と入浴に特にこだわっておられ、しかも生活のリズムをきちんとすることがお好きです。Dさんは、毎日午前と午後に散歩をして入浴も毎日したい、と思っておられるのです。

じつは、認知症の方は自分の都合を何より優先されます。私たちの施設では職員が同行しないと散歩できないのですが、職員には日常の業務もあり、いつもDさんの散歩のお相手ができるとは限らないのが現状です。Dさんが「散歩に行きたいんだけど」とご自分の居室から出てこられたとき、どんな対処の仕方をするか、が職員たちの悩みのタネなのです。

もうひとつ、認知症の方の症状の特徴として、理屈が通らない、ということがあります。「散歩に行けないのは、同行できる(手が空いている)職員がいないからだ、とDさんに話しても、Dさんには全くその理屈が理解できません。

介護従事者ができる対応

職員にできることは、あの手この手でDさんの気持ちを散歩から逸らすことです。しかし、Dさんには意識のしっかりしたところが残っているので、「そんなことはどうでもいい、俺は散歩がしたいんだ」と言われてしまうこともしばしばです。

大事なことは「散歩がしたい」という心のモヤモヤを解決することなので、「○時になったら職員の手が空きますから、それまで待っていてね」というのが有効なときもあります。しかし、職員の手が足りない日は大変で、「明日にしましょうか」とか、レクリエーションのプリントや塗り絵を勧め、「○○さん(管理者※)が出てくる日まで待ってね」と、話してみたり…

※Dさんは、職員の立場をよく把握しておられ、管理者が立場が上であることを知っているので、管理者と一緒に何かをするということをとても光栄だと思っているのです。ですので、何かあったら「○○さん(管理者の名前)が明日来るから頼んでみましょう」という手も有効だったりします

万が一、暴言や暴力が出た場合も、決して慌てたり、こちらが大きい声を出したりすることはよくありません。Dさんは、自分が今していることがいいことなのか悪いことなのか、ちゃんとわかってしておられるので、大きい声で対応したりすると、「今、自分は悪いことをしたんだ」ということを自覚するため、返ってDさん自身が引っこみがつかなくなり、暴言や暴力がエスカレートするのです。

暴言や暴力が出た場合は、職員は冷静に落ち着いて、しかしキッパリとした態度で、「それはいけないことですよ」というメッセージを伝えるようにしています。もちろん、他の利用者様に暴言や暴力が向かうことだけは絶対に止めなくてはなりませんから、そこは体を張って事態を収める場合もあります。

その人自身を受け入れることが大事

認知症の症状は、10人の方がいたら10通りあります。その方のそれまでの人生が反映されるからです。ですので、私たちのDさんへの対応が他の方にも通用するとはお伝えできません。しかし、ひとつだけ全ての認知症の方に言えることがあります。

それは、人は認知症になったら、それまであなたがご存知だったその方とは、全く違う人格やこだわりが出てくるということです。認知症を患った方に対し、「こんな人じゃなかったのに」と嘆くのはやめましょう。

今までとは違う人格やこだわりが出る、というのは認知症の症状のひとつなのです。それをありのままに受けとめてさしあげることが、認知症の方への優しさとも言えます。

さいごに

昨今、認知症の方にはどんな症状があるかということには理解が深まっています。しかし、その対応の仕方にマニュアルは存在しません。私たちは日々、どうすればDさんの心のモヤモヤを鎮め、納得してもらえるかを、考えながらおつきあいをしています。

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長谷川侑紀

長谷川侑紀

コピーライターを経て、現在演劇をやりながら認知症患者の施設であるグループホームで認知症ケアにボランティアで携わっている。演劇を通して認知症の方や介護の職員の方々にも楽しんでいただけるワークショップなども研究中。認知症の方々の日常を知っていただくことにより、人間が人生の最期を幸せに迎えるためには、他人に助けてもらう必要があることを、世の中に広めていきたいと考えている。
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