介護職は一方的な感情労働ではない!認知症高齢者の声に救われる日々

by 小森亜希子小森亜希子 1080views

皆様は、〝感情労働〟という言葉を聞いたことがありますか?

感情労働とは

アメリカの社会学者A.R.ホックシールドが提唱した働き方の概念で、感情の抑制や鈍麻(どんま)、緊張、忍耐などを不可欠の職務要素とする労働のこと。体力を使って対価を得る「肉体労働」やアイデアなどを提供する「頭脳労働」に対して、感情労働に従事する者はつねに自分自身の感情をコントロールし、相手に合わせた言葉や態度で応対することが求められます。
引用元:日本の人事部

一見、介護職として働いている人に当てはまるように感じますが、認知症介護をしているご家族の皆様にも感情労働という言葉が当てはまるのではないかと私は考えています。家族だから、身内だから、感情を抑えられずに向き合ってしまう、もしくは感情を抑え込んでしまう…。様々な場面があると思いますが、人間は感情を持っています。それは、介護者だけでなく、介護される方も同様です。お互いが、笑顔で穏やかな感情で過ごすためには、何が必要なのでしょうか。

今日は、最近のセッションで出会った認知症を患っているご利用者様を通して感じた体験についてお話いたします。

Aさんの例

Aさんは、気分の変化が表面に出る傾向が強い方です。少しでも悲しいことや寂しい思いをすると、とたんに落ち着きがなくなります。自宅に帰ろうと思われるため、歩き出してしまうことがあります。

先週のある日、ひとりでぶつぶつとつぶやきながらエレベーターに乗ろうとするAさんを、看護師が発見しました。声をかけ、自分のお部屋に戻るよう促したところ、「戻りたくない」と話されたため、音楽療法に連れてきたとのことでした。

部屋に入ってきた瞬間のAさんは、笑顔がなく、表情は暗く、乏しかったです。また、うつむいていることが多く、いつも笑いかけてくれるAさんとはまるで別人のようでした。

私は、Aさんがいるグループとは別のグループで音楽療法を実施していたのですが、こういう飛び入りはよくあるので、特に気にせず受け入れています。

1曲目を歌っていても口ずさむことをせず、下を向いています。看護師が鈴を渡し、隣で楽器を鳴らすように促すと、手は動かしますが表情は優れません。自然な流れで、他の方の前にあった太鼓をAさんに渡してみることにしました。すると、うつむいたまま伴奏に合わせるように楽器をたたき出しています。

音楽療法で使用されるハンドドラム

少しずつ顔が上がってきて、アイコンタクトをとれるようになりました。私は一方通行にならないよう、活動のときは必ずご利用者様に声をかけるようにしています。全体に向けて問いかけることもありますし、個人名を呼んで問いかけることもあります。

アイコンタクトがとれるようになると、Aさんは少しずつ発言するようになりました。笑顔が見えだし、活動が終わる頃には、いつものAさんの姿になっていました。ですが、いつもと違ったのは、活動終了時に涙ぐんだこと。45分間という短い時間の中、急激な心境の変化が起きてしまったので、感情コントロールができなくなったのだと思います。

ですが、その涙は悪い涙ではありません。泣くことは、情動を発散することにつながりますし、情動が発散されることは、視床をはじめとして、視床下部、海馬、帯状皮質などの神経回路が働いていることを指します。物理的・理論的には証明されていませんが、心と脳には深い関係があると言える一例ではないかと思います。

Bさんの例

ある日のBさんは、とても不機嫌でした。机に突っ伏して眠そうにされているためだと思います。そんな中、音楽療法の時間が始まってしまったのです。はじめこそは機嫌が悪そうな様子を見せられ、他のご利用者様が声をかけても攻撃的に過ごされていましたが、少しずつ足先を音楽に合わせるように動かされています。

徐々に不機嫌さはなくなり、積極的ないつものBさんに戻りました。曲名や歌手の名前を想起することがとても得意でいらっしゃるので、活動中は積極的に歌手や曲名を教えてくださいます。そんな様子をご家族が見ていらっしゃいました。Bさんは、いつものように参加されているだけですが、ご家族にとっては嬉しい瞬間だったのではと思います。

終了後、「この時間が一番楽しみなの」と、不機嫌だったことはすっかりと忘れていらっしゃいました。

他にもお財布をなくしたと不安がるCさんの例もあるのですが、長くなるのでこの辺で…。今回お話させていただいた方に共通して言えることは、「感情の波が顕著に表れること」です。そして、対応する私自身もそれぞれの方に対して、不安な感情を抱いたり、ちょっと落ち着いてと願ったり、どうしよう、というさまざまな感情を抱きます。

もちろんプロとして、自分自身の感情を表に出すことはないように対応しています。ですが、大変だと思う気持ちや疲れたと思う気持ち、自分のやっていることに意味があるのだろうかと思う気持ちを救ってくれるのもご利用者さん自身との体験なのです。

さいごに

お互いの気持ちを救い合えることが、〝良いケア〟なのだろうな…と考えています。私は音楽を通して、このような体験を共有し、お互いの気持ちを救い合っていますが、介護しているご家族の方や、スタッフの方は、そんな瞬間を持てていらっしゃいますか?

辛いことや悲しいこと、大変なことを乗り切るには、救い合える関係を形成することが長く関われる秘訣ではないかと思います。

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小森亜希子

小森亜希子

大学、大学院と音楽療法について学んだ後、認知症対応型グループホームに勤務。認知症の方とのコミュニケーションの取り方や終末期について多くのことを学び、音楽が様々な記憶と結びついていること、気持ちを落ち着かせるために有効であることを実感。認知症介護実践者研修、認知症介護実践者リーダー研修を終了。現在、介護老人保健施設で介護業務に携わりながら、音楽療法の効果をケアに結びつける具体的な手段を模索中。同居しているアルツハイマー型認知症の祖母(96歳)と出かけることが日課。
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