認知症の方への適切な頓服薬使用のために知っておきたいこと

認知症専門ナースケアマネの市村です。今回は認知症ケアにおける薬、とくに看護師・介護士、介護家族の判断で投与されることが多い頓服薬(抗精神病薬)の使用についてお伝えします。

認知症の薬物療法について

認知症の薬物療法は大きく2つに分けられます。ひとつはアリセプト®をはじめとする、認知症の進行を遅らせるもの。もうひとつは行動・心理症状(BPSD)に対して投与される、セロクエル®やリスパダール®などの薬です。そして、薬の処方は定期薬や定時薬といった呼ばれ方をする決まった時間に決まった量を飲むものと、頓服薬といって症状が強いときだけ服用するものがあります。認知症の治療で使われるものは「不穏時(ソワソワしている時など)」「不眠時」が多いと思います。

認知症の薬について詳しく知りたい方はこちら

介護者の価値観が影響する

今回このテーマを取り上げた背景には、現場で働く看護師からの悩みがありました。頓服薬の使い方には、看護師や介護士の認知症ケアに対する考え方や価値観が大きく影響しているのが現状です。まず、2つの例を挙げます。

安易に頓服薬を使用したがる看護師

とくに病院勤務の看護師に多い印象があるのですが、少しソワソワしたり大声を出したりしただけですぐに頓服薬を飲ませようとします。または、自分の不適切なケアを棚に上げて「暴力を振るった」と大騒ぎをし、すぐに医師へ薬の増量を依頼する方もいます。このようなタイプの看護師は、ポジションパワーをもっている場合が多く、周りの看護師・介護士が「必要ないのでは」と言えないのが現状です。

「薬は飲ませないほうがよい」と思いこんでいる

非薬物療法が重要視されていることはよいことなのですが、その一方でご本人がイライラして辛い状況にあっても、「薬は副作用が強いので身体によくない」と過度に薬物療法を否定し、「側に寄り添えば大丈夫」と言って声をかけ続けることで、さらに認知症の方をイライラさせてしまっている場合も少なくありません。これはただの介護者の自己満足です。

どちらも適切な対応とはいえません。薬は最小限であることがベストだと筆者は思っています。とはいえ、ご本人のために必要な薬は介護者の勝手な価値観で取り上げてはいけません。

頓服薬を飲ませる前に確認したいこと

本人の体調を確認する
認知症の方がソワソワ、イライラしていると、どうしても心理面に目が行きがちですが、体調不良の可能性もあります。まずはバイタルサインを中心に、食事量や排泄に関すること、皮膚の状態など身体状況を観察しましょう。
自分(または他のスタッフ)のケアが不適切ではなかったか
場面1で紹介したように、認知症の方が暴力と思われるような行動をとったときに、自分(または他のスタッフ)のケアに問題がなかったかを振り返って下さい。もし自分たちのケアに問題があったとすれば、それは暴力ではなく、ただの表現です。頓服薬を投与する前に、まずは誠意をもって謝罪しましょう。
ご本人が自分で対処できるか
認知症の方であっても、日常生活のなかでの発生した怒りやイライラなどの感情は自分で折り合いをつけることができます。しかし、認知症の疾患による強い症状は、ご自身では対処することが難しい場合があります。介護者がどう考えても原因がわからない暴言や暴力、苛立ちなどを、自分でコントロールさせるのはかえって酷ですので、適切な頓服薬使用をおすすめします。

ただ、このような場合は、介護者との信頼関係が構築されていないと飲んでもらえないことがあります。服薬に関することは以前に書いた「認知症の方の服薬介助時に発生しやすいトラブル4つとその対応方法」の記事を参照してください。

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さいごに

薬の処方は医師にしかできないとはいえ、認知症の場合は介護家族や看護師などの報告によって調整が行われています。自分の価値観で事実を違う解釈でとらえていないか、私たちは常に自分に問いかけていく必要があります。

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市村幸美
准看護師として数年間勤務した後、進学コースへ進み看護師免許を取得。認知症治療病棟への配属をきっかけに認知症ケアに興味をもち認知症ケア専門士、認知症看護認定看護師を取得する。「認知症をもつ人が受ける不利益をなくする」ことを使命と考え、現在は現場での実践や教育などさまざまなフィールドで介護・福祉に携わっている。またブログ『認知症専門のナースケアマネ市村幸美の【美Happy介護】』やSNSを通して介護職だけでなく一般の人に向けても認知症や介護を前向きに受け止めてもらえることを目指している。
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