現役介護職員の私が認知症の方とそのご家族の関係について感じたこと

by 長谷川侑紀長谷川侑紀 2206views

利用者様のお誕生日に、ご家族がお迎えにいらして外食されることが時々あります。そのことで、あるスタッフには忘れられない思い出があります。今回は、施設に入所されている認知症の方とそのご家族との関係についてお話したいと思います。

そして、私たちケアする側のもどかしさも発信できればと思います。

誕生日に家族が来ない寂しさと向き合うBさん

スタッフが聞いた話によると、Bさんは同居されていた息子さんのお嫁さんとかなり折り合いが悪かったそうです。Bさんが入所されてから数年経ちますが、息子さんのお嫁さんが面会にいらしたことは一度もないそうです。また、ホームの行事にも、ご家族が参加されることはめったにありません。

娘さんは時折面会に来られますが、遠方に住んでおられるため、あまり頻繁にいらっしゃることができないのです。当然のことながら、お誕生日だからといって、Bさんのご家族が面会にいらっしゃることはまずありません。

Bさんと親しいある利用者様のお誕生日の日、ご家族がいらしてその方が外食に出かけられたことがありました。

Bさんはそれを見ていて、「誕生日だから、家族と食事に行かれるのかね」とおっしゃいました。たまたまBさんのそばにいたスタッフは、Bさんの気持ちを察して、そっと肩を抱き、やさしく手を握ったところ、Bさんはその手をぎゅっと握りかえしてきたのです。

スタッフは、自分が思っていたよりずっと強くBさんの心がご家族に会えない淋しさできしんでいるのを感じ、胸が痛みました。

面会後、混乱からか不穏になってしまう

しかし、です。

衣がえや病院の受診などのお世話で息子さんと会っている間はいいのですが、お帰りになった後はよく不穏(精神状態が不安定になり、不機嫌になったり、暴言を吐かれたり、ときには暴力に発展することもある状態のこと)になられるのです。

ご家族に会えればうれしいに決まっているから、ご家族がお帰りになった後はいくらか淋しいにしろ、「会えてよかった」と喜ばれるのが多くの利用者様です。

しかしBさんは、息子さんに会うと、同居していたときのことを思い出し、自分が今、どこに住んでいるのかがわからなくなってしまい、頭の中が混乱して、かえって不穏になってしまわれるのです。

なんという皮肉な、お気の毒な症状でしょうか。これが認知症を患っている方の、ひとつの症状なのです。

しかし、認知症を患う方のすべてがこうなるわけではありません。Bさんより認知症の度合いが進んでいても、このような混乱による不穏にはならない方もいらっしゃいます。認知症の症状というのは、ほんとうに個人個人によって「個性」があり、多岐に渡るのです。

ご家族に本心を言えない介護スタッフの苦悩

ご家族が来られた後、不穏になるという症状は、Gさんにも見られます。

Gさんの場合は、娘さんがお話をされ、不自由な脚のマッサージをしてさしあげたいので、早朝、朝ご飯の前に来たいとの要望から、それが習慣になっています。

ただ、娘さんが来設されるのは不定期なので、Gさんは起床すると、娘さんを待って玄関でじっとしておられること、また「(家に)帰りたい」と不穏になられることも多くなってしまいました。

しかし、ホームでは、娘さんにそのことを話していません。娘さんは、お母さんであるGさんのことを娘さんなりに思いやって、来られるときには来たい、という気持ちで来設されています。それをスタッフが、「お母さんは、あなたが来ることで不穏になることがあるから、来るのを止めてください」とは、やはり言えないのです。

スタッフには、せめて不定期ではなく、Gさんの待つ気持ちが安定するように定期的に来てもらえないか、という思いもあるのですが、やはりそれも、娘さんに言っていいものかどうか、とても判断の難しいところなのです。

ただ来てもらえるのをあてもなく待つだけの身は、健常な人にとってもとても辛いことだというのに…。

認知症の方にとって家族の存在とは?

ご家族の存在は、利用者様にとって心の支えです。それは、間違いありません。しかし、そのご家族との面会が、必ずしもプラスに働くだけではないということも、またほんとうなのです。

ただ、ホームにおられる利用者様は、ご家族が会いに来てくださるのを、今日も待っておられます。たとえ、その後不穏になってしまうとしても、自分がご家族から愛されている存在なのだということを確認し実感できる時間は、たとえ認知症になろうとも、一人の人間として生きている限り、やはり必要なのです。

前回記事:「認知症」の自覚はなくても以前の自分と“何か”違うことは認識している!

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長谷川侑紀

長谷川侑紀

コピーライターを経て、現在演劇をやりながら認知症患者の施設であるグループホームでパート勤務。演劇を通して認知症の方や介護の職員の方々にも楽しんでいただけるワークショップなども研究中。認知症の方々の日常を知っていただくことにより、人間が人生の最期を幸せに迎えるためには、他人に助けてもらう必要があることを、世の中に広めていきたいと考えている。
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