外国人介護士の参入、介護現場はどうなる?

by 軍司大輔軍司大輔 8480views

平成28年11月18日、下記、外国人介護士関連2法案が可決され、今後1年以内に施行されることになりました。

  • 改正出入国管理法および難民認定法(改正入管法)
  • 外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律(技能実習法)

政府はこの理由として、「ASEAN諸国が日本よりすごい勢いで高齢化してきてるから、日本の介護ノウハウを共有しよう」という主旨のことを述べています。

ASEANとは、東南アジア10か国から成るASEAN(東南アジア諸国連合)は、1967年の「バンコク宣言」によって設立され、参加国は、インドネシア、カンボジア、シンガポール、タイ、フィリピン、ブルネイ、ベトナム、マレーシア、ミャンマー、ラオス。
参照元:外務省HP ASEANより

外国人介護士、何が変わったの?

まず改正入管法により、介護福祉士の資格を有する外国人を対象として、「在留資格:介護」を設け、介護または介護に関する指導を行う業務に従事することが可能となりました。

留学ビザで入国し、介護福祉士養成校に2年以上在籍、介護福祉士資格を取得することで現場に配属されることになります。
現行のEPA(※)介護福祉士が国家資格取得後永続的な滞在が認められるのに対して、「在留資格:介護」の場合は最長で5年(更新が可能)という制限に加え、留学のための費用本人負担が大きいなどの課題はありますが、門戸の広さはEPAを遥かに超えています。(「在留資格:介護」を活用できる国に制限はなく、どの国の人であってもこの制度を活用することができます)

そして技能実習法により、討議議事録(および補足討議議事録)を締結している15ヵ国から実習生が介護現場に配属されることになります。

そのため、今後は下記3パターンで外国人が日本の介護現場で働くことができるようになります。

  1. 現行のEPA(フィリピン・インドネシアおよびベトナム)
  2. 在留資格:介護
  3. 技能実習生
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挿入資料:国際事業協同組合 外国人介護職受け入れ方法別比較

※経済連携協定(EPA:Economic Partnership Agreement)とは、2以上の国(又は地域)の間で、自由貿易協定(FTA:Free Trade Agreement)の要素(物品及びサービス貿易の自由化)に加え、貿易以外の分野、例えば人の移動や投資、政府調達、二国間協力等を含めて締結される包括的な協定
参照元:財務省HP 経済連携協定より

ところでEPAはうまくいったの?

今後も継続される、EPAによる外国人介護福祉士の受入れ。平成20年から実施されている本制度は、「特例的永住権」を外国人に付与するという画期的な制度でもありました。その後の少子高齢多死時代によって引き起こされる、「生産人口の減少」を見据えた移民受入れの第一歩だったと言えるでしょう。

EPAで来日する外国人の中には、母国の看護系大学を優秀な成績で卒業しているエリート層も多く存在しています。厚生労働省によると、これまで2000人超が来日して介護福祉士国家試験合格者は402人。この結果をどう捉えるか?平成27年度の国家試験では「合格率が50%を超えた」とのことですが、第一陣からのデータを見ると「大して上がってないね」ということが伺えます。

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挿入資料:厚生労働省 第28回介護福祉士国家試験結果の内訳

数十億規模の日本語習得にかかる支援を税金から投じ続け、国家試験の受験時間を1.5倍に、問題文にふりがなをつけるなどの支援が若干の合格率向上に功を奏したのかもしれません。

支援をすることそのものは問題ではなく、本人の努力があっての合格ではあります。しかし、これら税金の投入と支援が拡大し続けるわりに、介護福祉士国家試験に合格したフィリピン、インドネシアのエリートが日本の介護現場に定着していない現状は「成功」と逆の状態を生んでいるといえるでしょう。

制度開始からわずか402人(当初は2年間で1200人が見込まれていました)の合格者、しかもそのうちの多くが帰国してしまっているということが「失敗」ではないといえる理由を見つけるのは困難です。彼ら彼女らは、母国より賃金の高い日本で就業することを選ばず、多少賃金が安くても母国に戻り、もともと持っている資格や日本で新たに身につけた「日本語」という武器を使って活躍しています。

EPAを活用して個々が輝く人生を送ることは歓迎すべきエピソードですが、裏返せば彼ら彼女らは「日本を選ばなかった」という事実が浮かび上がってきます。しかし、この「失敗」という概念は「人材不足対策」という観点から見た色合いが強くなります。

国は一貫して「労働力不足への対応として行うものではなく、相手国からの強い要望に基づき交渉した結果、経済活動の連携の強化の観点から」外国人を招いていると述べています。つまり「EPAは人材不足対策じゃないからそのあたりは期待しないでね」ということです。

とはいえ、労働力確保として実施されていることは明白であり、今後も継続して税金が投入されていくEPAについて、はっきりと「費用対効果が出ていない」という結果が出ているのも関わらず、現状分析もされていない状態です。もちろん今回可決された2法案についても同様の姿勢を崩す様子はありません。つまり、同じような未来が待っている可能性があるとも言えます。

在留資格「介護」とは?

今回在留資格に介護が追加されたことで、EPAの3カ国以外からも介護福祉士候補生を受け入れることができるようになりました。受入れ国の制限はなく、かつEPA外国人と同等の日本語能力を持ちながら介護福祉士養成校に入学することになります。養成校は2年以上であるため、これまでの日本人学生同様実習も含めたカリキュラムをこなすことになります。

教員の立場から言えば、高卒新入生・再進学者・職業訓練生に加えて外国人となると、これまで以上に相当な授業力が求められ、授業以外の学生指導に関しても多様性が生まれることが考えられます。「在留資格:介護」でやってくる外国人は介護福祉士の資格を取得しなければ就業することができないという制限、そしてEPAの厳しい実績を考えると、養成校が学習・生活・日本語に関してどこまでフォローアップできるか?が課題となります。

養成校に外国人が増えるということであがってくる課題は、「日本人入学者はどうなるのか?」ということです。突然グローバル化する学校に、何の不安もなく入学する楽天的な人ばかりではないでしょう。すでに今回の状況を見据えてシミュレーションを行っている養成校もありますが、相当の準備と能力が求められます。逆にいえば、養成校のあり方ひとつで、素晴らしい介護人材が増える可能性もあります。養成校のみならず、介護実習施設の指導者にもプラスαが必要になるでしょう。

もちろんEPA同様、帰国者が多く発生することも視野に入れて考える必要はありますが…

技能実習生は双方に不安材料

技能実習に関しても、「日本から相手国への技能移転」「国際貢献」が目的であることは大前提です。事実、2016年11月1日の参議委員法務委員会で金田法相がこんなことを述べています。

「一部で制度要旨が労働者の確保策と誤解され問題が起きている」
(参考:第190回国会 法務委員会厚生労働委員会連合審査会 第1号)

これまで技能実習生は農業や機械、衣料、金属といった職種に配属されてきましたが、その実態は「日本人の労働力が十分に確保されない職種への対策」とも言えます。それが、今回は介護業界に拡大されてくるということは…そういうことですね。

しかし技能実習生に関してはこれまで多くの問題が取りざたされています。

年間相当数の実習生が、失踪・パスポートの取り上げ・受入れ企業の80%が労基法に違反している…などなど、技能実習制度そのものが抱える問題が山積するなかで追加される「介護」はどうなるのか。アメリカ国務省は、「2013年度人身売買報告」の中で、日本の「外国人技能実習制度」を「搾取的」と批判しています。制度の悪用ともいえる状況が横行し、不当な強制労働を強いられている実習生が存在している今、介護に限らず技能実習生そのものを廃止すべきとの声も多く上がっています。

介護に関しては、日本語のみならず介護職員初任者研修程度の基礎研修を実施しなければ最低限の質は担保できないといえます(それでも足りないのが事実ですが、質の話は違う機会に)。他制度も含めて人材確保のために技能実習生を受け入れた場合、技術的な指導に加え、日本語での記述・文章表現、文化、地域性、歴史等々の指導も加わることになります。

事業所としては人がいないから、外国人を受け入れるのに指導のためのマンパワーがこれまで以上に求められては本末転倒です。

しかも技能実習生がN4レベルの日本語能力でやってきた場合、働きながらN3を取得しなければ1年で帰国しなければならないという条件付きとなれば、積極的に受入れができる事業所は限られてくるでしょう。

日本語能力試験にはN1、N2、N3、N4、N5の5つのレベルがあり、いちばん優しいレベルがN5で、いちばん難しいレベルがN1になる。
参照元:日本語能力試験HP 認定の目安より

「技能移転」「国際貢献」という建前はともかく、仮に介護業界に配属された技能実習生が低賃金の単純労働者としてこれまで同様の強制労働を強いられた場合、より一層介護に対するイメージと社会的地位は低下し、介護職離れは進んでしまいます。負担の増える現場からの離職も考えられます。そもそもそんなことが起きれば技能実習生にとって不幸です。
単純に「数さえ増えればいい」という問題ではないはずです。

労働力確保と技能移転を同じ枠組みで実施する以上、解決されない問題は残ります。労働者と実習生の違いを明確にできるような整備が必要です。

日本の介護は外国人を受け切れるのか?

では、外国人が介護業界に参入すること自体はどうなのか?を考えてみましょう。

「対人援助職」となる介護は、質を担保することはもちろん、安全・衛生・職業倫理が求められます。介護という概念がすでに存在している国、していない国と様々な状況が世界にはあります。日本でも「介護」という言葉自体まだ新しいもので、介護福祉士に至っては30年程度しか歴史がありません。

つまり「日本の介護も発展途上」なのです。そう考えれば、外国人も日本人も一緒に「介護」を作り上げていくことは可能とも言えますが、高齢者・認知症介護に関してはなかなかひと一括りにできないのも事実です。基礎的な手技は比較的スムーズに共有できるかもしれませんが、(デリケートなテーマなので扱いが難しいとはいえ)身体的な接触が多い介助場面では外国人と日本人の違いとして独特の体臭や礼節の違い等もクリアしなければならない課題かもしれません。

宗教的な問題も浮上します。もちろん宗教に関しては外国人個人の信仰や習慣を事業所が阻害するようなことがあってはならないのですが、日々の食事をはじめとしたADLの介助・QOL支援・終末期・死・グリーフケアまで及ぶ幅広い介護の中で、宗教との兼ね合いをどう解決していくか?受入れ側として外国人の持つ多様な宗教観を理解するための学習も必要になるでしょう。

具体的な介護過程を展開し、個別援助計画を実施するために必要な日本語表現能力や読解力については、業界外の専門職から協力を得るなどすることも考えられますが、これは同時に日本人介護職員の質向上につなげられる可能性もあります。

そして、実務上最も大きなポイントとして、「尊厳・倫理のあり方は国によって大きく異なる」ということが挙げられます。

認知症介護においては、特に尊厳の保持が必要ですが、何を以って「人間の尊厳を保持している」とみるか、これを世界共通のものとするのは困難です。食事介助時に口を開かない認知症の方がいた場合、「口を開けないのは食べたくないという意思で、自己決定だ。だからそれを尊重して食事は終了にしよう」と食器をキッチンに戻し、その結果、利用者の命が尽きたとしても、「本人の自己決定」とするのか、「今は口を開いていないけれど、どうすれば食べてもらえるかを考え、なんとか食事を摂っていただこう」と試行錯誤し、命をつなぐのか。

福祉先進国と呼ばれるドイツやデンマークも、「倫理・尊厳」について異なる解釈が存在しています。多くのダブルエフェクトが存在する介護という世界において、「日本人要介護者」に沿った倫理・尊厳を外国人に求めることになります。これらは、我々にとっても個別的な介護の質そのものを根幹から考える機会になるとともに、ひとつひとつの所作、提供する手技、声掛け、何よりも瞬間瞬間の判断が要介護者の人生の結果を変化させるほどの影響を持つものであることを、再認識させることにもなるでしょう。これは日本人が海外で介護を生業とする場合でも同じことが言えるはずです。

これらのことを考えた場合、外国人に開かれた介護の道が大きくなればなるほど、事業所や日本人介護職員に求められるものも大きく、重くなってくることと言えます。

さいごに

外国人が参入することによって得られる、ポジティブな影響も当然あるでしょう。しかし、現実には外国人を受け入れることができる事業所は、限られてくることが考えられます。外国人であっても日本人であっても、介護という現場においては、いかに要介護者から求められる「個人」であるか、いかに要介護者を「良くする」ことができるかが課題です。ですが、その議論にたどり着くまでにはクリアすべきものが多くある、というのが現状です。

介護に限らず、少子高齢多死時代を迎えるうえで、外国人との協働・共生は自然な流れかもしれません。しかしながら、それは外国人に、「日本で学びたい」「日本で働きたい」と思ってもらえる国であり続けることが前提です。EPA外国人の多くが帰国し、技能実習生の多くが未だ不当な扱いを受けている今、日本以外の選択肢も当然ある中で、「日本は選ぶ立場ではなく、選ばれる立場になっている」とも言えるでしょう。

前述したようにEPAでも当初の見込みと現実は大きくかけ離れた結果となっています。今回の2法案が同様の状況となった時、「もう打つ手がない」となってしまわないよう、建前だけの国際貢献ではない人材確保対策を構築しなければなりません。介護職自身がそこに介入することも必要となるでしょう。

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軍司大輔

軍司大輔

前介護福祉士養成校学科長。介護療養型医療施設等で介護福祉士として従事した後、介護教員となり、現在は地域での介護事業に携わっている。介護職ネットワーク「ケアコネクト」代表として認知症勉強会や情報交換会を開催。国家試験実技実地委員、実務者研修・初任者研修・福祉用具専門相談員講習講師の他、介護福祉士養成校・各種試験対策講師を務める。教育と臨床の両面から地域で活動する。HR/HMギタリスト。
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