「認知症」の自覚はなくても以前の自分と“何か”違うことは認識している!

by 長谷川侑紀長谷川侑紀 9413views

みなさん、初めまして。私は、グループホームで働いている介護職員の長谷川と言います。今、私たちが直面していますのは、入所してきたときは健康だった利用者様たちが、徐々に衰えを見せ始め、認知症そのものも進行している方が増加していることです。

実際に認知症の利用者様と接していると、彼らは全面的に訳がわからなくなっているのでは決してないということが分かります。ご自分の認知能力が、以前と比べて劣ってきていることを、ちゃんと自覚しながら生きていらっしゃるんです。しかし、そうした事実は、まだあまり世の中に知られていないような気がします。

そこで、認知症の方々と接する中で、認知症の方々の日常生活について、世間の方にもっと知っていただきたいと思い、コラムを執筆することにしました。

グループホームにいたEさんはいつも穏やかでした

Eさんが滞在されているのは、9床の小規模なグループホームです。グループホームというのは、認知症を患った方が、生活支援を受けて暮らしている施設のこと。ここでは、80代から102歳の9人の男女が日々を暮らしています。

9床しかないせいもあり、職員は利用者様によく目をかけているし、手厚いサービスを行っています。利用者様が一人で長時間ぼーっとしていることがないよう、常に声かけをし、会話をしたり、お世話をしたりしているのです。

9人いる利用者様は、それぞれに持病はあるものの、皆さんご自分で食事をされるし、若干耳の遠い方もおられますが、全員会話もできます。トイレ介助をしなければならない方は数人おられますが、皆さんそろってお元気です。

Eさんは施設の中では、いちばん認知症が進んでおられる方です。しかし、穏やかでいつもにこにこしておられるので、端から見ていると、何か問題があるようには見えません。

脚がかなりふらつかれるので、トイレなど移動のときには付き添って介助します。そういうときには、「なんや、からだがふわふわしとってな、ほにゃらら~ってかんじなんよ」などと、おどけてみせられます。

Eさんは先日88歳のお誕生日を迎えられ、施設でバースデーケーキとプレゼントを用意して、ささやかなお誕生パーティをしました。ご本人を除く利用者様全員とその日のスタッフで「ハッピーバースデートゥーユー」を歌い、Eさんも終始にこにことしておられました。

お誕生日当日の夕食後に起きた言い合い

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その日の夕食後のことです。ボードレクリエーションに使うホワイトボードに、スタッフが朝から、「E様 お誕生日おめでとうございます。88歳」というメッセージを大きく書いていました。

それを見ていた他の利用者様が「あなた何年生まれ? 私より1つ年上でしょ? でも私、75歳なのよ。あれ、間違ってるわよ」とおっしゃったのです。実際は、認知症のために自分の歳を間違えているのはその指摘された利用者様なのですが、Eさんは「そうねぇ、うん、なんか違うと思う。あの数字はへん」と言い出しました。

スタッフが「Eさん、ほんとは何歳なの? 76歳?」と聞くと、「ううん、そんなに年とってない。もっと若いよ」とおっしゃいます。すると、別の利用者さんで、まだそんなに認知症の度合いが進んでいない方が、「何言ってるの、Eさんは88歳だよ」などと真顔で指摘されました。

ふつうならそこでけんかになりそうなものですが、Eさんは既にけんかができるほど他人とのコミュニケーションもとれないので、聞こえているのか聞こえていないのか、「へんだわ」を繰り返されるばかりです。

そこでスタッフが、「じゃあ、もう消しておきましょうね」と言って、ホワイトボードのメッセージを消すと、Eさんは満足そうにされたのでした。

Eさんの目から涙が…

ある日の就寝介助の後、消灯したはずの居室に灯りがともっているので(居室の扉には磨りガラスがはまっていて、中で電灯をつけているのか消しているのかわかるようになっています)、「Eさん、どうされましたか?」とスタッフが居室をのぞいてみました。すると、ベッドで横になっているEさんのまぶたが赤く腫れています。

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「どうしたの? Eさん、泣いてたの?」と声をかけると、Eさんは黙ったまま、スタッフの目を見て“うん”とうなずかれました。スタッフはEさんを抱き起こし、ベッドに並んで腰掛け、「どうしたの? 何か悲しいことがあったの?」とEさんに聞きました。Eさんは、「なんか、おかしいねん。いままでできたのに、今は、いろんなことができなくなってるんよ」と言われました。

スタッフが「それで悲しくなって、泣いてたの?」と聞くと、Eさんは再び涙をこぼされて、黙ってうなずかれました。スタッフもたまらない気持ちになり、思わずEさんの肩を抱いて「大丈夫、私たちがついてるからね。私たちがEさんをお手伝いするから、大丈夫だよ」と言いました。

Eさんは、黙って静かに少しの間泣いておられましたが、「もう大丈夫」と言われるとベッドに横になり、スタッフが「寝ますか?」と声かけすると“うん”と黙ってうなずかれました。スタッフは「じゃあ、おやすみなさい」と言って、電灯を消し、居室を出ました。

認知症の方は認知機能低下を自覚している

Eさんは、ご自分が「認知症」であるという認識はもっておられませんが、以前の自分とは何かが違う、ということはおわかりになるようで、折りに触れてはご自分のことを「なんかおかしい」と言われます。

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世間では、認知症になるといきなり何もわからなくなる、という認識があるようですが、実際このEさんのように、今までわかっていたことが、刻々とわからなくなったりできなくなったりすることをちゃんと認識していらっしゃるのです。そのときの不安や恐ろしさ、怖さはどれほどのものでしょうか。中には、不安に襲われる度にスタッフを呼ぶ利用者様もいらっしゃいます。

それがあまりに何回も続くと、さすがのスタッフも「もういいかげんにしてよ」と言いたくなるのですが、そのときこそ、我々が真の介護の仕事人であるかどうかが試される時です。どんなときでも利用様に優しい気持ちで寄り添い接するという、仕事人としての人格が持てないのであれば、介護の仕事はやめろよ、ということになるのです。

Eさんは、今日もにこにこと笑顔でちょこんとご自分の席に坐って1日を過ごされます。

私たちスタッフができること

今のEさんに何ができるのかを探りながら、毎日のレクリエーションを工夫して行っています。ご家族の方と外出されて戻ってこられたとき、ご家族の方が言っておられたなかに、「外にいるときは、なんか歩いていてもフラフラしていて危なっかしかったけれど、ここに戻ってきたら、急に足取りがしっかりしたね」というのがありました。

Eさんは、この施設でご自分が日々を暮らしていることを、しっかりと認識しておられるのでしょう。認知症と正常な意識との間を行ったり来たりする状態のことを「まだら認知」とスタッフは呼んでいますが、Eさんもまた、その領域に生きている方の一人なのです。

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長谷川侑紀

長谷川侑紀

コピーライターを経て、現在演劇をやりながら認知症患者の施設であるグループホームでパート勤務。演劇を通して認知症の方や介護の職員の方々にも楽しんでいただけるワークショップなども研究中。認知症の方々の日常を知っていただくことにより、人間が人生の最期を幸せに迎えるためには、他人に助けてもらう必要があることを、世の中に広めていきたいと考えている。
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