「うちの施設は職員が多くてココ何年も新人が来てないんだよ」
「新卒で就職を探しているけれど、なかなか内定が取れない」
今の介護業界から考えると夢のような話ですが、わずか10数年前には実際に起こっていたエピソードです。皆さんご存知のとおり、2025年には介護職員が約30万人不足するといわれていますが、介護福祉士養成校で働いていると、本当に30万人の不足で済むのかすら怪しいくらいに未来社会への不安が大きくなってくることがあります。今後外国人介護職が増加するとはいえ、そのためにはまだまだ解決しなければならない問題が山積しています。
目次
介護福祉士養成校の入学生減がとまらない
仕事柄、高校生や高校の進路指導担当者の方とお話しをする機会があるのですが、高校生が「介護の仕事をしたい」「介護福祉士になりたい」と言っても、進路指導室で「介護なんて給料が低いからやめておいたほうがいい」「誰にでもできる仕事だから君がやらなくてもいい」と止められてしまうことが実際にあるようです。
「それでも介護福祉士になりたい!」と、強い意志を貫いた生徒さんや、「厳しいこともあるけど頑張れ!」と背中を押してくれる進路指導の先生がいらっしゃることもあり、少なくなったとはいえ、介護福祉士養成校に進学する高校生は毎年存在しています。
しかし、昨年度の定員充足率は40.8%(離職者訓練生を除く)まで落ち込み、閉鎖を余儀なくされる養成校も出てきており、厳しい状況が続いています。

介護職を志望する若者はなぜ減ったんだろう?
高齢者介護について言えば、核家族化・介護施設の利用率向上に伴い、子供時代に高齢者・要介護者と関わる機会が減少してきていることも要因のひとつとして挙げられています。確かに私自身が介護福祉士になったのも、小さい頃から一緒に住んでいた祖母の存在が動機で、「お世話になっているおばあちゃんの介護は自分がしたい」からでした。
学生時代に机を並べて介護の勉強をした同級生には、同じような動機を持つ人が少なからず存在していました。介護施設の一般化が介護人材不足に繋がっていると考えると、皮肉なものですが…
もちろん理由はそれだけではなく、よく挙げられる「給与面」「仕事の辛さ」などの事実とイメージも、若者が介護を職業として選ばない大きなものと言えるでしょう。ではどうすれば介護業界に人が集まるのでしょうか?
人材を集めよう=魅力を伝える?
このところ、人材不足解消のために「介護の魅力を伝える」という言葉を耳にします。特にここ数年多くなってきており、その手法は様々です。しかし「魅力を伝え」続けていてもなかなか人材は増えていないのが現状です。
そもそも魅力というものは受信側の主観で捉える面が強く、共通したポジティブな主観を多くの人が持つ場合には「人気」となり、定着へ向かいます。人気のあるスポーツのファンはそのスポーツに対して共通の魅力を感じている場合が多くあります。
そこには具体的かつ現実的なものが必要であって、「ありがとうと言われる」といった抽象的で受身的な報酬を魅力の最たるものとして取り上げても、「素晴らしい仕事だけど、それだけでは食べていけない」と結論づいてしまうのではないでしょうか。
もちろん「ありがとうと言われること」が仕事を続けるモチベーションとして大きなものであることは確かです。「魅力を伝える」だけでなく、もっとポジティブで現実的な「必要性」と「可能性」を作り上げることが求められてきています。そして介護職である我々はまだそれを構築できていないということも事実かもしれません。
介護職である我々に足りないもの
行為としての介護は、一説によるとネアンデルタール人の時代から行われていたと言われています。厳しい自然の中で集団を構成して暮らしていた彼らの生活痕からは、腕のない人、怪我をした人の存在も確認されており、亡くなった人の周りにたくさんの花が添えられていたことなどから、集団の中で介護的な行為が行われていたと考えられています。
そして現代、根底に流れるものはネアンデルタール人の持っていた動機と同じものがあるかもしれませんが、それだけでは職業として生き抜いていくことが困難になってきています。「介護職だからできること」「介護職がいるから成り立つこと」を証明しなければなりませんし、そのためには研究論文等の学術的なアプローチが現場から社会に向けて発信されていくことも必要です。
介護職という仕事は、ある種スポーツ選手の概念に似ています。草サッカーや草野球は誰でもできます、そして老若男女の制限なく、誰でも「やっていい」ものです。もちろん私にもできるのですが、やはりプロ選手には到底敵いません。
介護も「誰でもできる」のですが、介護福祉士が提供する介護は、「誰でもできる」の上を行くクオリティが必要になるのです。つまり、介護職は「誰でもいい」ものではなく、ハイクオリティな介護を実践できる人でなければならないのです。
これからの時代を生き抜くために、学術的な証明、そして多様な働き方の開拓が必要になってくると言えます。
待遇が上がらないなら、上げる方法を考えよう
処遇改善加算の開始もあって、「緩やかに上昇している」とも言われる介護職員の給与事情。介護保険施設で働く介護職員が得る給与はもちろん「介護報酬」によって賄われています。介護報酬から支払われているということは、当然のように公的な天井が存在するということですね。
意地の悪い言い方をすれば、「努力しても限度がある」ということになってしまい、それを知ってしまうと介護職として生きて行くためのモチベーションが上がらないことにつながり、有能な人ほど他業種に流出してしまう結果が生まれます。
この悪循環を防ぐためには、フリーランスも含めた「多様な働き方」と「保険外収入」を得るスタイルを介護職自らも作り上げていくことが求められるでしょう。そして現在は未知の部分も大きいですが、ロボットやIoTとの融合も含めることで、より介護という職業の可能性が広がり、高校生をはじめとした未来の人材にアプローチできるのではないでしょうか。(個人的には介護職がロボットを使って介護をするというより、要介護者がロボットを使って自立するスタイルをつくりたいですが…)
それらはもちろん、介護を必要とする人たちに還元される形にしていきたいものです。
認知症高齢者の増加と介護職の必要性
高齢者に関して言えば、認知症者が増加するということは「人間が長生きできるようになった」ということと同義かもしれません。政府広報オンラインによると、65歳以上においては15%、95歳以上では約80%の人に認知症が出現していると言われています。

「認知症になれるくらいまで長生きすることができるようになった」ことをどう捉えるかは個人差があるかもしれませんが、言い方を変えれば、我々日本人は長生きする以上「誰もが認知症になる可能性が高い」ということです。
少子化や世帯収入の低下が叫ばれている中において、認知症者ご本人の人生を支えることだけでなく、レスパイト機能の維持強化も含めて「認知症になっても」というより「長生きしても」暮らしやすい社会づくりの一端を介護職が担える形をつくることが必要です。
そのためにも、「認知症」という状態についてこれまで以上に深い知識はもちろん、柔軟な個別対応、ユマニチュード®等をはじめとした新しい概念の活用も取り入れて進化していくことが大切となるでしょう。
さいごに
これからは、社会に適応しながら介護を展開できる人材が必要ということになります。現実的に30万人以上の不足を即解決することが難しいのは確かです。人がいない中で忙しさに疲弊してしまう介護職が増えて行く中で、前述のロボットやIoTの活用はもちろん、普段認知症者と密接に関わっている我々自身が介護人材不足に対して知恵を絞り、未来をつくっていく時期になっているといえるでしょう。

軍司大輔

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