初めまして。私は、日本デンタルスタッフ学院の学院長で田中法子と申します。歯科医療従事歴35年、訪問口腔ケア従事歴30年、医療介護のスタッフ教育と老年歯科の研究を18年しております。現在は、学院経営と人材紹介会社経営と共に、認知症の母の介護中です。
思い起こせば高校生のころ、認知症の叔母を預かった経験から介護という仕事をライフワークにしようと誓いました。現在、口腔介護アドバイザーの資格認定を発行する立場になり、あらためて介護現場で口腔の知識の必要性を実感しております。
本コラムでは、ご家族でも介護スタッフでも、教える立場の方でも、明日からすぐできるケアのテクニックと知識を伝えて参りたいと思います。コラムを読んでいただきながら、実践していただけるように具体的にお伝えいたします。よろしくお願いいたします。
口腔ケアがなぜ高齢者に必要なのか
みなさまは、1日何回歯をみがいていますか?歯の間によく食べ物がはさまることはありませんか?最後に定期健診行ったのはいつ頃ですか?
この質問に即答できる方は、「高齢者になぜ口腔ケアが必要か」すぐにお分かりになるのではと思います。
- 高齢者だから
- 入れ歯だから
- 口から食べていないから
上記のような理由で、口腔をキレイにしなくてもいい、なんてことはないんです。むしろ、歯がなかったり(少ない)、口から食べていないからこそ口腔ケアは必要になります。それはなぜなのか?まずはこのことをご理解いただきたいですし、その先に「拒否がある方への口腔ケア」「食事のあとでも食べ物が口の中に残っている時はどうしたらよいか」の対処方法があると考えます。
高齢者だから必要なのではなく、いまあなたの目の前に鏡を置きながら歯ブラシを用意しながらこのコラムを読み進めてみてください。きっといろいろな発見があると思います。それでは、まずは口腔の基礎知識から一緒に学んで参りましょう!
口腔の基礎知識
鏡は用意できましたでしょうか?それでは早速はじめますね。
口腔(こうくう)とは?
お口の中のことを指します。口腔にはなにがありますか?「歯と舌がある」あれ?それだけでしょうか?他にもいろいろな役割が存在しています。確認して参りましょう。

小帯(しょうたい)とは?
上唇または下唇を、指でつまみあげてみてください。内側に引っ張られるスジのことです。ここに歯ブラシがあたると痛いですし、引っ張りすぎるとちぎれそうな痛みがあります。
犬歯・前歯・臼歯とは?
上下犬歯から犬歯までが前歯で、モノを切る包丁の役目。犬歯の隣から奥はモノをすりつぶす役目の臼歯(きゅうし)が4本ずつあります。歯は、食べ物を内蔵に負担がないように切ったりすりつぶしたりして、内蔵が消化する仕事を手伝います。
この歯がむし歯になって、すりつぶす表面が崩壊してしまったり、歯肉の周りが細菌だらけで歯周病になり、支えている骨が失われてグラグラになってしまったり、歯並びがわるかったりすると、食べ物をのみこめる大きさに「切ったりすりつぶしたり」という仕事ができません。
人間は面倒なことがキライなので、脳が勝手に判断して丸呑みしてしまうこともあります。胃腸が弱い、などの理由はここから来ていることもあります。
舌(ぜつ)とは?
すりつぶされた食べ物を、だ液と一緒にオニギリ状にまとめる筋肉のことです。どこから生えていると思いますか?実は、下の歯の裏から生えていて、ゴムのバネのように喉の奥に食べ物を送り込む仕事をします。話すことや食べることは、筋トレなのでとても大切です。舌の表面は小さいつぶつぶの集まりで、このスキマに細菌が繁殖します。歯垢のように白っぽくなっているのは細菌の集まりです。
舌は喉の奥に向かって動くわけですから、細菌も喉の奥に行かないように舌の上をキレイに清掃することも大切です。
その他部位
歯や舌を囲む左右には「頬の粘膜」、下には「舌をささえる骨」、上には「口の蓋」と書いて口蓋(こうがい)があります。口蓋は舌と一緒に食べ物のオニギリを作ったりする大事な役割があります。よく揚げ物でヤケドする場所ですね。
のみこみの基礎知識
突然ですが、皆様お口を開けながら自分のだ液を飲んでみてください!うーん、難しいですよね!というか、できないのではないでしょうか。こんどは唇をギュッと閉じてごっくんと、だ液を飲んでください。できましたよね。このとき、どの場所がつかわれたでしょう?
唇・舌・口蓋・奥歯のかみしめ。これらが一瞬で仕事をしました。ということは、のみ込むときや口腔ケアを行う前に、以下のことを確認することがとても大切です。
- 唇を閉じるチカラ
- 閉じてもギュッとするチカラ
- 舌を左右前後に動かせるチカラ
- かみしめるための奥歯はあるか?
- ごっくんと飲み込むのどのチカラ
のみ込むことはもちろんですが、このチカラがないと口腔ケアの最中に、細菌だらけのだ液が気管に入ってしまうことも考えられます。気管に入った細菌は肺に送られて肺炎を起こします。
この確認は食べる、のみ込むためにもちろん必要ですが、口腔ケアをする前に必ず確認してください。
口腔ケアを行う前や食べること、のみ込むことが安全にできない場合、これらの確認を医師・歯科医師がもっと細かく専門的に行うことを「口腔機能評価」といいます。評価を行い、むせ込むことなく安全のみ込むことができるように専門家が訓練を実施することを「機能訓練」といいます。
「のみこむため」にはいろいろなチカラが状素に役割を分担・連携しながら協調して同時に行います。こんなに大変な仕事を、人間は瞬間に行っているのです。
このコラムの読者の皆様は、それぞれの立場でお読みになっていらっしゃると思います。そのため、「自分は医師・歯科医師ではないから評価はできない」と思ってしまうかもしれません。しかし、「確認」することは誰にでもできます。
- ごっくんと喉仏は動いているか?
- 顎が上にむいて気道が塞がっていないか?
- 頬の筋肉は動いているか?
- 咬むための歯がむし歯や歯周病になっていないか?
- 歯の周りが白っぽく歯垢だらけではないか?
- 舌の上が白く細菌だらけになっていないか?
- 入れ歯が上下きちんと咬みあっているか?
自分自身、食事をするときなど上に書いたような、「のみこむときに使う場所」を意識して確認してみてください。
口腔ケアについての基礎知識
いま、皆様がお使いの歯ブラシやはみがきペーストはどのような種類のものでしょうか?その歯ブラシの大きさやかたさは、いまの歯肉や歯並びに合ったものでしょうか?歯科医院に定期健診に行くと、多くの場合、歯科衛生士さんからはみがきの方法を教えてもらいますよね。そのときに、歯間ブラシやフロスなどは教えてもらったことがありますか?
「硬いのじゃないと、みがいた気持ちにならないんだよね〜!」
と、よくお伺いすることがあります。
「みがいた気持ち」は、あくまで「気持ち」で、硬い歯ブラシで弱った歯肉をごしごしされては、回復しようとしている歯肉にも傷がついて、そこから菌が感染してしまうこともあります。
そのため、歯ブラシの選択には、以下が大切になります。
- いまの歯肉や歯並びに一番適しているのはどのような堅さか?
- どのような種類のものがいいのか
- 1年に3~4回、もしくは2回は歯科医院で確認しているか?
歯並びや歯の大きさ、そして歯肉に炎症があるか否かによって歯科衛生士さんはあなたに最適な口腔ケア用品を選択してくれます。高齢者への口腔ケア用品の選び方ももちろん同じです。
訪問歯科診療の際、または病院内の歯科衛生士さんが口腔ケア用品を選択して教えてくれます。高齢者の口腔ケア、とくに認知症や寝たきり、麻痺がある方にとっては口腔ケア用品が異なります。
だれもがいきなり他人に「あ~ん」と口の中を見せることはできませんよね。ある患者さんは、「口の中は裸を見せるようなものだ!」とおっしゃいました。歯科医院だと、口の中を見せるために自ら通院するのですが、食事をしたからといってすぐ「ハイ、お口あいて!」といわれても誰だっていやですよね。
口腔ケアを行う時間やタイミングをきっちりきめず、覚醒している時間、レクリエーションなどで身体を動かし気分もよくなっている時間、今日は家族が来る日または外出をする日、などというタイミングで、「さっぱり、キレイになりましょうね、口の中に食べかすがついているからとらせてもらっていいですか?」などの声かけが必要です。
また、正面にまわり、しっかりと相手の顔をみる。手、肩、頬などに会話をしながら軽く触りながら緊張をほぐして行きます。
さいごに
口腔の場所や名前、役割から口腔ケアの重要性をご理解頂けましたでしょうか。この知識は「摂食・嚥下」「口腔ケア」「生きること」に大きな意味があります。ぜひ周りのお友達や同僚にもお伝えくださいね。
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田中 法子

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