利用者本位=利用者の言いなりではない!

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【違う選択肢は、違う発想から】

真夜中にタンスをゴソゴソ。
服をパジャマの上から着たり脱いだり。
「わけのわからないことをして!」と感じる家族。

本人にきくと、「墓参りに行くんだ」と。
だとしたら、そのために衣装を選んでいるのかも。

本人の言動に基づけば
本人の言動の抑制ではない選択肢が生まれる。

基づくこと。これが利用者本位のケアの源泉。

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「利用者本位」に対する誤解

利用者本位と言えば、「利用者の言うことに従うこと」と捉えている人は少なくありません。「お風呂を嫌がっているからといって、そのままにするわけにもいきません」「帰りたいと言われても、送迎ができないし、1人で帰ってもらうわけにもいきません」という場合は、そういう捉え方をしているのかもしれません。

そもそも、「本位」という言葉には、「判断や行動の際に基づくもの」という意味があります。自分本位とは、自分の価値観や経験に基づくという意味ですし、お客様本位というのは、お客様の価値観や目線に基づくという意味です。そう考えると、利用者本位とは、本人の言動になんでも「従う」ということではなく、本人の言動に「基づく」ということだと言えます。

言動に「基づく」とは?

ただ、言動に「基づく」と言われても、ピンと来ない方もいらっしゃるでしょう。

例えば、「眉間にシワを寄せる」という表情について想像してみてください。さて、皆さんは、どういう場合に眉間にシワを寄せるでしょうか?多くの人が浮かびやすいところでいうと、次のような答えが考えられます。

  • 怒っているとき
  • イライラしているとき
  • 痛みがあるとき
  • 難しいことを考えているとき
  • など

そして、実際に人が眉間にシワを寄せる時を観察してみると、次のようなケースも考えられます。

  • 細かい文字が見えにくいとき
  • まぶしいとき
  • めちゃくちゃ美味しいものを口に入れたとき
  • 臭いにおいをかいだとき
  • など

ひとつの表情をとっても、これだけいろいろなケースが考えられます。だからこそ、言葉や行動の表面に見えていることだけを捉えるのではなく、その根底にある背景や思いをとらえることが重要です。(言動が氷山の一角だとしたら、その下には何倍もの情報が隠れているということです)

言動に「基づく」とは、その人が言動として表現したことの奥にある背景や理由に基づくことだと言い換えることができます。そして、「お風呂がイヤだ」「家に帰りたい」という背景や理由は何なんだろう?と関心を寄せる態度こそが、利用者本位の条件と言えます。

「基づく」ことで利用者の力に気づく

今回のコラムで紹介した場面では、タンスをゴソゴソとさぐり、服を出したりしまったり、服を着たり脱いだりしているので、一見するとわけがわからないことをしているように見えます。おまけに真夜中に「墓参りに行くんだ」と言われたら、家族も困るし、「いま何時だと思っているの!」と怒鳴りたくもなります。

ところが、タンスをごそごそすることも、服を着たり脱いだりすることも、「墓参りに行く」という本人なりの理由に基づいてみると、また、違った見方・捉え方が垣間見えます。「なにかの目的(方向)に意識が向いている」と捉えて見てみると、「パジャマのままで墓参りに行ってはいけない」という判断力を見いだすことができますし、「自分はパジャマを着ている」「タンスに着替えるべき服がある」「これがタンスである」という理解力も見いだすことができます。

もちろん、真夜中に「墓参りにいく」と言い出しているのは、時間の見当識が衰えているからかもしれませんし、パジャマの上から服を着るのは、着衣失行があるからかもしれませんが、十把ひとからげに「認知症の症状」と解釈してしまわずに、そこに能力や思いを見いだそうとすることは、自立支援にもつながる大切な観点です。

おわりに

特に、言葉を発することが難しかったり、寝たきりで動作がほとんど出来ない方の場合、いくら利用者本位でといっても、いま目の前で表現される言動が見いだしにくい場合もあるでしょう。そのような場合には、これまでのその人の歩みや言動を手がかりに、「きっとこういう思いだろう」という推測から関わることになると思います。それもまた、利用者の過去に基づいているという意味では利用者本位だと言えます。ただ、出来る限り、いま、その時、その瞬間の表情や反応に基づくことも大切にしてほしいと思います。

利用者本位、いまいちど、皆さんの周りではどのように捉えられているかを見つめ直すきっかけにしていただければ嬉しいです。

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裵 鎬洙
コーチ 認知症ケアスーパーバイザー コミュニケーショントレーニングネットワーク(CTN)講師 介護支援専門員実務研修・専門研修講師 【略歴】 1973年生まれ。兵庫県在住。大学卒業後、訪問入浴サービスを手がける民間会社に入社。その後は介護施設で相談業務に従事。コミュニケーショントレーニングネットワーク(CTN)にてコーチングやコミュニケーションの各種トレーニングに参加し、関わる人の内面の「あり方」が ”人”や”場”に与える影響の大きさを実感。介護に携わる様々な立場の人に、知識や技術だけでなく「あり方」の⼤切さを発見する研修やコーチングセッションを提供。著書『理由を探る認知症ケア~関わり方が180度変わる本~』。介護福祉士、介護支援専門員、主任介護支援専門員。
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