みなさんこんにちは。理学療法士・介護福祉士の中村です。以前、高次脳機能障害と認知症についてお話させていただきました。今回は、高次脳機能障害で出てくる記憶障害について、少し踏み込んでお話したいと思います。
記憶の種類を知る
記憶には、5つの種類があると言われています。
- 短期記憶
- 海馬に格納される短期的な記憶を言います。記憶できる数もごく少量であり、おおよそ9つ程度が限界だと言われています。時間が経てば忘れられる、もしくは長期記憶に移行します。
- 長期記憶
- 長期的に記憶されている記憶を言います。言い換えれば、忘れる事がない記憶です。高齢者が幼少期の記憶を思い出して話されるのは、長期記憶です。
- 意味記憶
- 言葉の意味の記憶を言います。例えば、「日本の首都は東京です」「月は地球の周りをまわっています」など、情報の記憶を指します。
- エピソード記憶
- 個人の体験や感情を基にする記憶を言います。意味記憶とは対になるものとして知られています。例えば『おにぎり』というワードから連想される、幼少期の遠足の思い出や、子どもに作ってあげたなどの具体的なエピソードを指します。
- 手続き記憶
- 自ら体験して記憶したものを言います。特に有名なのが、自転車の乗り方です。手続き記憶はいちど記憶すると忘れる事が少ないです。幼少期に自転車を乗れるようになると、何十年も自転車を乗っていないにも関わらず、大人になっても乗れたりします。
高次脳機能障害における記憶障害
高次脳機能障害における記憶障害は、意欲・創造・実行など、脳の司令塔的役割を担っている前頭葉と、言語、記憶、聴覚をつかさどっている側頭葉の損傷で起こるとされています。
そのため、認知症の記憶障害と同様、比較的昔の記憶は保持されている事が多く、脳を損傷する前の記憶は良く保たれています。
アプローチ例
脳の機能局在では、言語を処理する部分と視覚を処理する部分が異なることから、後頭葉での視覚処理を利用し、絵やモノを使って、後頭葉から記憶野に結びつけると記憶に残りやすくなります。言語(側頭葉)ではなく、視覚処理(後頭葉)を利用するアプローチが有効になるのです。
短期記憶と意味記憶に障害が出やすい
認知症や高次脳機能障害の記憶障害は、短期記憶に最も問題があるとされます。短期記憶を格納する海馬が萎縮する(アルツハイマー型認知症に見られる症状)ことで、短期記憶を格納しにくくなってしまうのです。
さらに、高次脳機能障害では、意味記憶の問題も多く出現します。高次脳機能障害が出現した場合、言葉の意味を失ってしまう訳ですから、名称の記憶が思い出せません。なので発言の特徴としては、「あれ」「それ」「これ」といった代名詞が多くなる特徴があります。
そのため、聞いている者としては「何を言っているのだろう?」と会話の成立に苦慮します。本人にとっては意味を成している会話なので、聞いてくれている相手が理解していないことにイライラしてしまうのです。お互いに会話が成立していないと思ってしまうのですから、意味が通じる事はありません。
周囲が注意すべき対応方法まとめ
周囲が注意すべき事として、以下が挙げられます。
- 情報は短く正確に伝え、代名詞の使用は避けるよう心がけてください。
- 言語的記憶よりも、視覚的記憶にアプローチするよう心がけてください。例えば、「りんご」と紙に書いて伝えるのではなく、りんごそのものを見せたり、りんごの絵を見せると記憶に残りやすいです。
- 新しい事を覚える必要があるときは、反復学習が有効です。特に、五感と呼ばれる「視覚」「嗅覚」「味覚」「聴覚」「触覚」を最大限に活かす必要があるため、同じ条件下で何度も反復すると記憶に残りやすいです。
- 起床から就寝まで、日課通りに動くように心がけます。「ルーティン」です。ルーティンが保たれると、心理的にも落ち着きます。
- 物を同じ場所に置く事で、ルーティンを保ちやすくなり、「探す」という不必要な刺激がありませんので、できるだけ同じ場所に物を置くように心がけます。
さいごに
今回お話した対応方法は、代表的な例でありますが、決して焦らずに取り組んでいただければと思います。高次脳機能障害は、症状についての理解が周囲から得られにくく、対応方法も周知されていないのが現状です。しっかりとした観察を行い、適切な対応をしていただければと思います。
前回記事:新オレンジプランで最も重要とされている「認知症ケアパス」ってなに?

中村洋文

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