「クオリティーインプルーブメント」の考え方が高齢者の生活を豊かにする!

by 杉山謙介杉山謙介 11013views

こんにちは。社会福祉士・介護福祉士の杉山です。リスクマネジメント(危機管理)用語の中に、クオリティーインプルーブメントという言葉があります。このクオリティーインプルーブメントは、介護だけに限らず、子育てやビジネスにおいても非常に理にかなった考え方のため、是非みなさんにお話したいと思います。

クオリティーインプルーブメントとは?

クオリティーインプルーブメントの前に、まず触れておきたいのが「QOL」です。介護現場でよく耳にしていらっしゃる方も多いかと思いますが、「クオリティーオブライフ(quality of life)」の略称になります。

医療福祉分野で、延命治療にかたよらず、患者の生活を向上させ、患者の人間性や主体性を取り戻そうという考え方で、「人生の質」または「生活の質」と訳すと言われています。

さらに踏み込んで、「より質の高いサービスを提供することによって、多くの事故が未然に回避できる」という考え方が、「クオリティーインプルーブメント(quality improvement)」です。

事故を防止するためには、その利用者に関する状態像の的確な把握や、それに対してどのようなサービスを実施するかという内容の明確化と、その確実な実施等、いわばこれまでは利用者全体をマスとしてとらえて提供されてきた福祉サービスをより利用者一人ひとりに着目した個別的なサービス提供へと変えていくことが最も強く求められることとなります。
引用元:福祉サービスにおける危機管理(厚生労働省報道資料)

高齢者介護の特性から、自立的な生活を重視すればするほど「リスク」は高まるとの意見もありますが、必ずしも「自由」か「安全」かの二者択一ではないということを示すものとして、クオリティーインプルーブメントを紹介いたします。

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人間は誰しも平等に歳をとります

もしあなたが介護を必要な状態になってしまったら、どのような生活を望むでしょうか?

「老後は介護が必要になってもストレスとは無縁で自由気ままに暮らしたい!」
「とにかく怪我や病気のないよう安心安全に生活したい!」

考え方は三者三様にあるかと思います。もちろん、どれも間違えではないです。たとえ介護が必要になっても、「自由」に過ごせ、なおかつ「安全」を確保できたら、それはそれは素晴らしい老後を送れるのではないでしょうか。

では、「自由」に過ごせ、なおかつ「安全」を確保するには、どのような介護体制・介護環境・介護姿勢が必要だと思いますか?

介護現場で起きやすい事故

クオリティーインプルーブメントを実践するためには、介護現場でよく起こる事故の種類を知っておく必要があります。

  • 歩行中や移乗中の転倒
  • ベッドや車イスからの転落
  • 強く握ったり、ぶつけてしまい内出血
  • オムツ内の蒸れによる皮膚トラブル
  • 誤薬や落薬など薬の内服ミス

そんな数多く存在する「事故」の中でも、高齢者の転倒は、認知症を発症する引き金の一つとなります。

転倒により骨折し入院、となれば、認知症の発症、進行を免れることは難しく、そのほとんどが要介護状態、寝たきりとなってしまうほど恐ろしい事故です。「転倒」の危険性を、介護者側にしっかりと認識してほしいと思います。

関連記事:認知症の人は転倒しやすい!予防法と対策グッズ

負の悪循環を断ち切ろう

介護現場では、事故防止のために次の要件を満たす場合にのみ身体拘束が認められています。

  1. 一時性
  2. 非代替性
  3. 緊急性

しかし、「安全」を優先するばかり、介護する側も介護される側もストレスを溜め込み、苦しい思いをしてしまっては本末転倒です。身体拘束をすることで生じるさまざまな弊害にも、目を向けていかければならないと考えています。

関連記事:介護の身体拘束は、どこからが当てはまるのか?

要介護生活を疑似体験してみるべし

以前、介護施設において、「利用者の生活の質をどう高めるべきか?」と、クオリティーインプルーブメントの視点を導入し、実際に介護(サービス)を受ける側の生活場面をいくつか疑似体験したことがあります。

  • 車イスで移動
  • 車イスでの洗面台の使用
  • 車イス上での手鏡での化粧
  • 後方からの急な声かけ
  • 紙パンツやオムツの使用
  • トロミ付きの水分を飲む

私たちが提供している介護を、受ける側の視点に立ちのぞいてみると、想像以上に多くのリスクが潜んでいることに気付きます。同時に、介護者が気づいていないような細かな点でも不快に感じ、ストレスが募る原因となるものが見えてきます。

ここに、「より質の高いサービス」の提供に必要なヒントが隠されています。クオリティーインプルーブメントの視点を意識し、実際に利用者の立場に立って生活を見渡すことで、それぞれの介護現場に合った、「生活の質」を高めるヒントを見つけてみてはどうでしょうか。

さいごに

認知症の発症や車イス生活、寝たきり生活へのきっかけとなってしまう事故を未然に防ぐことが何より重要です。しかし、「安全」だけ重視するのでなく、二者択一でもなく、「自由」に不便や不快といったストレスのない生活を実現することが大切だと考えているため、是非、クオリティーインプルーブメントの考え方を念頭に置いていただけたらと思います。

前回記事:認知症介護を充実させるためのヒントはスピーチロックの現場にある!

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杉山謙介

杉山謙介

社会福祉士、介護福祉士。静岡県は伊豆半島に位置する函南町出身。サッカー王国静岡に生まれ、大学までサッカーを続けながら社会福祉を専攻。社会福祉法人にて認知症介護の経験を積むと同時にスポーツマネジメントを学ぶ。「スポーツ×福祉」をキーワードにスタートさせた活動から巡り巡って、2016年に伊豆半島からJリーグ参入を目指すサッカーチーム「SS伊豆」設立に関わる。県内有数の少子高齢化を課題に抱える伊豆においてスポーツの持つ様々な価値、若い世代の力で盛り上げるとともに、人々にとって「認知症」や「介護」がより身近なものに感じられるよう、予防に繋がるヒト・モノ・コトのマッチングや情報の発信にも力を注いでいる。
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