こんにちは、理学療法士・介護福祉士の中村です。今回は、認知症の方の嗅神経から考えるケアについてです。においと記憶の関係から、嗅神経を刺激して症状改善が見られた例をお話したいと思います。
嗅神経とは?
人間には12の脳神経が存在し、その1番目の脳神経が、嗅神経です。運動機能を持たない感覚神経で、脳幹から分岐しておらず、大脳皮質を介さないという特徴があります。他の五感である、聞く・見るなどは脳の視床を通り、大脳皮質の聴覚野・視覚野に伝達されます。つまり、嗅ぐことは、他の感覚に比べて、より直接的な刺激を脳に与えることができるのではと考えられています。
さらに、嗅神経は記憶を司る海馬に直接つながっていることから、においと記憶はセットになることが多いです。草木や土、畳などのにおいを高齢者は記憶しており、そのにおいを嗅いだだけで、何十年も前の出来事を思い出すことができるのです。これをプルースト現象と呼びます。
嗅神経は、記憶や感情を司る大脳辺縁系(だいのうへんえんけい)で処理されることで、そのにおいを記憶した頃の感情も呼び起こすことができると言われているのです。
誰しも経験がある「懐かしいにおい」
皆さんもご経験があると思いますが、においを嗅いだ時、「懐かしいな」と感じることはありませんか?特に実家を離れて生活されている方は、何年も帰省していないにも関わらず、実家のにおいを覚えているかと思います。また、そのにおいに安心感を覚えることもあるかと思います。
赤ちゃんが泣き止まず、常に抱っこしているお母さんも、読者の中にはいるかと思います。ひとつの方法ですが、お母さんの首に巻いていたタオルを、泣いている赤ちゃんの顔の近くに置くと泣き止むとことがあります。お母さんのにおいを覚えており、安心して泣き止むのです。
嗅神経に注目した認知症ケア
脳血管疾患や頭部外傷により、嗅神経に障害をきたすことも多いのですが、アルツハイマー型認知症においては、比較的、嗅神経の働きは保たれております。最近はアロマテラピー等、嗅神経に注目した認知症アプローチも盛んに行われております。
筆者は以前、作業回想法と呼ばれるリハビリテーションの中で、「い草」を用いて嗅神経を刺激するアプローチを行ったことがあります。い草を用いた理由は、日本家屋であれば畳はどの家庭にもあり、また高齢者が子供の頃は、布団で就寝されていた方が殆どであるためです。
その方は帰宅願望が強く徘徊をされていた方でしたが、畳のにおいに「家を思い出すね…」と語り、徘徊の回数も激減されておりました。
においを意識することもケアのひとつ
においと記憶には、密接な関連があります。しかし、密接な関連性があるがために、施設特有のにおいが邪魔をする事もあります。消毒液のにおい、排泄物のにおい等が刺激臭となるのです。
高齢者が思い出そうとする働きの中には、「におい」という要素があることを認識いただき、認知症ケアに役立てていただけると幸いです。
関連記事:アロマテラピーが認知症予防・進行防止になぜ効果的なのか

中村洋文

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