北川なつ著・認知症のある人って、なぜ、よく怒られるんだろう? インタビュー

『認知症のある人って、なぜ、よく怒られるんだろう?』という漫画をご存知でしょうか?作者は、ケアマネジャーや介護福祉士の資格を持ち、介護職として働いていた経歴を持つ、漫画家の北川なつさん。施設での実体験をもとに、認知症の人と向き合う職員や家族の“気持ち”をリアルに描いた本作品は、くすっと笑えてちょっと切なく、多くの人の共感を呼んでいます。今回は、北川なつさんに、漫画を描いたきっかけや、想いについてインタビューしました!

マンガ認知症のある人って、なぜ、よく怒られるんだろう?

なんで?という視点を持つことで見えてくる、認知症の人の世界

――まず最初に、漫画「認知症のある人って、なぜ、よく怒られるんだろう?」を描こうと思ったきっかけは?

介護、特に認知症に関しては、昨今テレビなどのマスコミでも、頻繁に取り上げられるようになりました。ただ、とかくマイナス面ばかりがクローズアップされがちなので、世間には「認知症になってしまったらおしまいだ」みたいな感覚をお持ちの方が多いと思います。もちろん、介護・認知症…大変なことは多いです。しかし認知症と診断された方でも、色々な方がいらっしゃいますし、ご家族や周りの環境次第で状況は百人百様です、悪い面ばかりじゃない。認知症介護の中にも、一緒に笑う瞬間ってたくさんあります。そういうことも含めて、介護現場の実際のところを発信したくて描き始めました。

――確かに、「認知症」という言葉はだいぶ浸透してきましたが、知っているようで知らないことも多いですね。

認知症介護を経験していてもわからないことだらけです。どこまでが病気のせいで、どこまでが本人の性格かなんて線引きできません。マニュアル通りにうまくいかないことだらけですし、予想に反してうまくいくこともあります。極論を言えば、介護に正解なんてありません。私は、誰かが体験した認知症介護の失敗や成功、喜びや悲しみは財産だと思っています。一つの介護が終わった時に、その財産までもが消えてしまうのは本当に勿体無いと思います。それは今まさに介護で苦しんでいる人達に必要な生きた情報です。介護をしていて、言葉では中々伝えにくいことをエピソード漫画という形にして、わかりやすく伝える。漫画を読むことで疑似体験でき、少しでも日々の介護の力になってくれたら・・・と思います。

――とてもユニークなタイトルですが、このタイトルに決めたご理由を教えてください。

単純にそういう場面をよく見たからです。「さっきも言ったでしょ!」「何で分からないの!」。つい言ってしまいます。ご家族のそういう場面も見ましたが、私たち介護職の人間も、余裕がない時なんかは特に、言葉がきつくなりがちです。

――たしかに、物を隠したり、あてもなく歩きまわったり、問題行動に向き合うのはとても大変ですよね。

認知症のある人の立場からすると、そんな行動をしてしまう背景には、必ず理由がある。そういう考えから、最近は「問題行動」という言い方はせず「認知症の行動・心理状態」というようになりました。目的もなくブラブラ歩くことを「徘徊」と言いますが、目的も無く歩く人はいません。排泄など身体面の要因が大きかったりします。仮にただなんとなく散歩している場合だって、それは目的です。認知症あるなしに関係なく、誰でもすることです。
タイトルで本当に言いたいことは、「なぜ私はこの人のことを怒っているんだろう?」です。怒られる原因は相手ではなく、怒っている自分にあるのでは?という疑問を持って欲しくてつけました。

目に見える世界・世間の常識だけにこだわらず、その人の世界に飛び込んでみると、こちらもラクになることはたくさんあります。自分がラクになること、そうすれば相手もラクになり、相手がラクになれば、自分もラクになる。相乗効果と言いますか・・・口で言うのは簡単ですけどね。

※作品より、アルツハイマー型認知症で、収集癖のあるお母さんへの対応を表したシーンを抜粋

認知症のある人って、なぜ、よく怒られるんだろう?

介護のプロでも四苦八苦するんだから、家族が悩むのは当たり前

――90歳で32歳の男性介護士に恋をしてしまうおばあちゃんや、お人形を孫だと思い込んで生活を共にするおばあちゃんなど、「認知症の人」というよりも「一人の人間」として捉えた人物描写が印象的でした。漫画を描く上で気をつけていらっしゃることはありますか?

漫画を描くときに決めていることが3つあります。ひとつは、その人にも生きてきた歴史、人生、家族、友達、築いてきた功績などがあることを忘れないことです。当たり前だと思われるかもしれませんが、認知症介護の中では、今現在の症状や容姿に振り回されすぎて、そんな当たり前のことを忘れてしまう瞬間が多々あります。目の前の人の人生の重みを忘れずに、登場人物の言動やストーリーを作っています。

――その人の背景が見えると、どのお年寄りも憎めないというか、魅力的に見えますね。

そうですね。そして2つめは、綺麗ごとでまとめないです。現実の介護の大変さ、泥臭さもちゃんと入れること。一つ一つのエピソードには老化や病気の進行が大前提としてありますし、介護のゴールをあえて「死」というのであれば、なかなかハッピーエンドは難しいのです。
最後3つめ。2つ目と矛盾しているかもしれませんが、どのエピソードにも必ず「希望」を入れることです。例え、途中経過がシビアであっても、最後まで救いの無い話は描きません。例え「死」で終わったとしても、そこに小さくてもいいから希望をみつけて描きます。現実に辛いこと、救いのない話が多いのに、わざわざ私が描いて生み出す必要はないのです。

――この漫画をどんな人に読んでもらいたいですか?

一番は、今まさに認知症のご家族の介護をされている皆さん、そして近い将来親御さんの介護と向き合うことになる若い世代の皆さん、結局、全世代の人達ですね。
漫画の中では、介護のプロ、仕事にしている人たちも四苦八苦しています。交代制で休みもあり、1日のうち限られた時間しか認知症のある人と接していないのにです。報酬もあります(多い少ないは置いといて)。家族がうまく接することができなかったり、悩むのは当たり前なんだと、少しでもホッとしてもらえたらいいな、とも思います。

そして介護の現場で働いている皆さん。なかなか認知症について理解を深める機会がない、勉強する余裕が無い、休みの日くらい介護のことは考えたくないという人も多いでしょう。短編漫画集なのでさらっと読めます。このエピソードの主人公は、うちの施設のAさんに似ているねと思うこともあるかもしれません。もっと認知症のこと、介護のことを知ろうと思うきっかけに、この本がなったら嬉しいです。

★北川なつ(きたがわ なつ) プロフィール

北川なつ プロフィール画像
43歳、漫画家・イラストレーター。「北川」は育った町の名前から、「なつ」は飼っていた猫の名前からつけた。特別養護老人ホームやグループホームで介護職経験があり、その体験や知識を元に、フィクションカラー漫画をブログに発表する。2012年、ブログで発表してきた漫画『認知症のある人って、なぜ、よく怒られるんだろう?』を自費出版する。現在は、介護雑誌での2本の連載、ブログでの発表、企業・団体・個人からの依頼で漫画やイラストを制作している。6月に高齢者施設で暮らす犬の10年を描いた『犬がとなりにいるだけで』を出版。また9月・10月・12月にも出版予定。

★公式HP【みんないつかは年をとる~介護井戸端会議~】
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認知症ONLINE 編集部

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