みなさんはじめまして。社会福祉士・介護福祉士の杉山と申します。
「◯◯さん、ちょっと待って!」
「いいから、いいから。ここに座っていてくださいね」
認知症の方へこんな言葉を発したこと、発しているのを目にしたことはないでしょうか?実はこれスピーチロックって言うんですよ。今回は、認知症の方がいる多くの家庭や施設で、知らず知らずのうちに当たり前になってしまっているであろう「スピーチロック」について、お話しします。
「スピーチロック」とは?
はじめに、スピーチロックについてご説明します。スピーチロックとは、言葉で相手の心身の動きを封じ込めてしまうこと(※)を言います。
以下、介護現場でみられる光景です。



反論したくなる気持ちは、介護現場で働いている私自身、よーく分かります。しかし、このスピーチロックには明確な基準がなく、時間に追われる介護現場では軽視されがちです。それどころか、スピーチロックを問題視すらしていない介護現場が多くあるのが実情です。
認知症ケアの事例から考えてみる
ここで、皆さんに見ていただきたい事例がございます。
Aさんの朝
Aさんには認知症の症状があります。半年前に特別養護老人ホームに入所しましたが、なかなか施設の生活に馴染めませんでした。


(とっさに挨拶しちゃったけど、ここはどこ?なんでここにいるの?なんでこの人は私の名前知っているの?)


(お腹が空いているような気がするけど、お財布持っていないもの…。)


(息子のBはまだ中学生のはずなのに、おかしいわ…。でも、とにかく行ってみようかしら。)
食堂へ案内されると、7~8人の施設利用者がテーブルについて食事をしていました。

Aさんが席に着くと、目の前に食事の載ったお盆が置かれました。

(これを食べるのね。でも私、お金持っていないわ…。)

Aさんは少し怖くなって、とりあえず食事をすることにしました。

食事を早々に終えたAさんは、落ち着かないようすで歩き始めました。


認知症の方を理解するということ
どうでしたか?それぞれ思ったことがあるかと思います。私は、この事例を読むまで、「認知症の視点なんて言われなくとも、常に理解しようとしてるし、気持ちに寄り添って介護してるわ!」と、思っていました。あくまで、認知症であるAさんの内的世界ではありますが、もっと認知症の方自身の世界に近づく努力が必要、ということが理解できたかと思います。
ただ、施設のスタッフの対応は、Aさんの視点に立って寄り添っているとは言い難いです。しかし、スピーチロックに焦点を当てて考えてみると、非常に素晴らしい対応をしているなと評価できる部分もあります。はじめに、「スピーチロックすら問題視していない介護現場が多くあるのが実情」と説明しましたが、この施設のスタッフからは、そのような言動が見受けられません。
「見当識障害」があり、つい先週も施設外まで徘徊、大捜索となったことがあったにも関わらず、「Aさん、ちょっと待って!」「いいから、いいから。ここに座っていてくださいね」といったスピーチロックはせず、歩き出したAさんに対し、スタッフはにこにこしながら付き添って歩いています。
不正解はあっても正解はない
きっと多くの介護現場では、付き添って歩くという対応はできていません。ご家庭でもきっと難しいでしょう。スピーチロックは、「言葉で相手の心身の動きを封じ込めてしまうこと」により、認知症の方がどこへ行こうとしていたのか、なにをしようとしていたのか、それらを知る絶好のチャンスを逃してしまうことになります。
スピーチロックすることで、認知症の方の行動や発言の原因となる、意味や目的が見えなくなります。それどころか、見当識障害をはじめとした中核症状に加えて、多くの目に見えないストレスや不安により、BPSDを出現させる引き金になってしまうでしょう。
確実な正解を導き出すことは難しいかもしれません。ただし私自身、介護に不正解はあっても正解はないと思っています。スピーチロックの現場には、きっと答えやヒントが落ちています。そう思うと認知症介護ももっと楽しくなると思いませんか?
「親にしてもらいたい介護をしよう」
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

杉山謙介

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