こんにちは。グループホームで働いています、石川深雪です。早速ですが、介護の仕事って重労働ですよね。身体の大きい人を抱えたりする介助は、介護者の足腰などに負担がかかります。わたしの同僚でも、腰を痛めて介護の世界から去っていた人が何人かいます。
ですが、ほんの少しあることを気にするだけで、介護の負担ってとっても軽くなるのです。今日はそのことについてお話したいと思います。
教科書に載っているボディメカニクスの基礎
まずはおさらいです。介護に携わる仕事をしている方なら、一度は聞いたことがある、身体の機能的な使い方です。知識として持っていても実践できていない場合もあるので、一度確認をしてみてください。
ボディメカニクスとは
そもそも、ボディメカニクスとは何なのでしょうか。介護されているご家族の方もいらっしゃると思いますため、簡単に説明させていただきますね。
ボディメカニクスとは…
神経系や骨格系、筋系などの力学的相互関係を取り入れた技術のことである。医療や介護分野においてはボディメカニクスを取り入れることで無駄な力を使わず、看護者や介護者の負担を軽減する手法が導入されている。引用元:看護用語辞典ナースpedia(2016/07/18アクセス)
6つのポイント
実践するにあたり、6つのポイントがあります。
- 支持基底面を広くとり、重心を低くする
- 足幅を前後左右に広げて、腰を落とし、安定した介助の姿勢をとる
- 介護者と要介護者の重心を近づける
- 重心が近いことで、とっさの行動にも対応でき、介助をスムーズに行うことができる
- 重心の移動をスムーズに行う
- 持ち上げようとせずに、水平に動かすイメージをもつ
- 小さくまとめる
- 面積が広くなると力が分散してしまうため、手を胸の前に組んでいただいたり、足を曲げていただく
- てこの原理を利用する
- 持ち上げるのではなく、支点を作り自分の体重をかける
- 大きな筋群を利用する
- 指や手だけではなく、大胸筋や腹直筋などを使う
介護現場でよく見る介助の差
介護の現場で働いていると、次のような場合に遭遇します。
- 男性が介助できない重たい人を女性が介助できる
- 同じ人を同性介助する時でも、大変そうに介助する人と、らくらく介助する人がいる
わたしの職場に、背が高く足の長いおじいさんがいました。うまくバランスが取れず、歩くときはふらふらと千鳥足になってしまうため、男性職員ふたりが両脇を抱えて歩くのがやっとでした。しかし、わたしはひとりで横に付き添い、歩行介助ができていました。
こういった差はなぜできてくるのでしょうか?実は、職員の力の差、経験の差だけではないのです。
人は不安や危険を感じると力んでしまう
実は、わたしは頸椎ヘルニアで右手にあまり力が入りません。また、高齢で小柄な女性スタッフが、男性スタッフよりも軽々と介助している場面も見かけます。このことからも、力だけではないということが分かるかと思います。
力んでしまう場面
介護とはちょっと離れてしまうのですが、海やプールで溺れてしまったときの状況と似ています。海で溺れた際、空を見上げるよう仰向けになり、力を抜いて浮いていることが重要と言われています。
しかし、いざ溺れてしまったとなるとパニックに陥り暴れてしまうため、訓練を積んだプロのライフセイバーでさえも、救助には危険が伴うと言われています。
「この人重たくて大変なんだよなー」「この人大声出すから介助しにくいんだよなー」そんなふうに思いながら介助にあたろうとすると、無意識のうちに介護者の身体に力が入ってしまいます。
「嫌だな」「うまくいかなかったらどうしよう」という、不安や緊張を抱えた状態です。この状態で相手に触れるとその感情は伝わって、相手も緊張し、不安になり力が入ってしまいます。
「力まない介護」をする方法
要介護者が不安や危険を感じる介助を行うと、介護者自身の負担として返ってきてしまうため、どうすればよいか。
それは「相手を大切に大切に思うこと」です。
とは言っても、介護者も人間ですから好き嫌いの感情や、介助の得手不得手はあります。相手のことを大好きになれと言われても、難しいことだってあります。そこで、少し視点を変えてイメージしてみてください。
「これ(この人)はとても高価で非常に壊れやすいものである」例えば、何百万もする繊細なガラス細工を運ぶとします。どうやって触りますか?きっとそっと優しく触れるでしょう。触れている手に思いっきり力を込めることはないと思います。支えられるギリギリの力で包み込むように持つ。そうして持ち上げたり運ぶときには手や腕ではなく、腹、下半身に力が入っていると思います。
これをイメージしながら、職員同士で寝ている人を起こす練習をしてみるとよいと思います。
介護者の身体も大事です
相手の立場にたって、どうして欲しいのかを考えることはもちろん大事ですが、さまざまな工夫をこらすことも大事だなと思います。楽したいという欲求ではなく、介護者も要介護者もお互いが気持ちよく過ごせる空間を作るためには…と考えるようにしています。
あなたの身体を痛めず、相手にも心地よい状態でいていただく。そのためには力だけでなく、あなたの気持ちも大切だということをぜひ覚えていてください。そして、うまくいかないなと思ったら、視点を変えたり周りに意見を求めたりすることも忘れないでくださいね。
前回記事:すぐできる!認知症の人とコミュニケーションを取るときの4つのポイント


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