介護に役立つアセスメントの重要性と音楽の力を実感した話

ご高齢者や、認知症が進んだかたにも楽しんでいただける音楽会、「音楽の花束」を主催しておりますGOTOです。高齢者施設で仕事を始めてから、音楽をきっかけに人間関係が改善され、ケアの内容も変わっていく様子を日々目の当たりにしています。今回は、アセスメントの重要性と音楽の大きな力を実感した一例をお話いたします。

頑固な男性利用者様との出会い

デイサービスに入ってすぐの頃、当時のスタッフから「あのご利用者さまはとても気性が荒く、すぐに怒るからあまり関わらない方がいい」と言われました。その方は、体格が立派で口数が少なく、リハビリの時間は座ったまま腕組みをして眠っておられ、少し怖いような印象を受けます。

スタッフがゴムバンドなどの用具を渡すと、「俺はやらない」と放り投げてしまいます。お手洗いへの誘導もうまくいかず、いつも臭いが気になるような感じでした。

「『アロハオエ』をやってくれ」

スタッフとの会話もほとんどなく、1日中むっつりと過ごされ、「非常に頑固」という印象を受ける方でした。しかし、GOTOが最初に音楽レクリエーションを行った日にしっかりと目を合わせて拍手をし、はっきりとした声で「『アロハオエ』をやってくれ」と言ってくださいました。おや、と思いました。

好んで塗られているのは女性の絵

気をつけて観察するとこの方は、午前中の脳トレの時間にとてもたくさんの「塗り絵」をしておられました。女性の絵を好んでおられ、スタッフは「少しエッチな気持ちで選んでいるのだろう」と考え、豊満な女性の絵を用意して提供しているようでした。

そこで、「塗り絵がお好きなのですね、綺麗な色です」と話しかけたところ、「婦人服の布地を扱う仕事をしていたから、色には詳しいんだ。綺麗だろう」と応えてくださったのです。びっくりして社長に話すと、その方のなさっていた仕事について教えてくださり、「情報提供シート」を見てから接するとそうした背景がわかるということも勉強しました。

介護職のかたには笑われそうですが、アセスメント(※)の重要性を実感した出来事でした。

アセスメントとは、一般的には環境分野において使用される用語であるが、介護福祉の分野では、介護過程の第一段階において、利用者が何を求めているのか正しく知ること、そしてそれが生活全般の中のどんな状況から生じているかを確認すること。援助活動を行う前に行われる評価。利用者の問題の分析から援助活動の決定までの事をさし、援助活動に先立って行われる一連の手続きをいう。
引用元:介護保険・介護福祉用語辞典

その後、竹久夢二や中原淳一の塗り絵をご提案しながら、少しずつスタッフとお話しができるようになっていきました。なぜ「アロハオエ」をリクエストされたのかを伺うと、「ハワイにはよくゴルフに行ったんだが、とても楽しい思い出として残っている」と話してくださいました。大きなパンケーキが美味しかったこと、空が綺麗だったこと、一年に何度も出かけて、それが楽しみで働いたことなどを、笑顔で話してくださるようになりました。

「裕次郎は俺の同級生だよ」

塗り絵以外の時間はむっつりと腕組みをされ、特に変化も感じられないあるとき、音楽レクリエーションで石原裕次郎さんの曲を演奏しました。すると、その方がフロアのみなさまに聞こえるような大きな声で、「裕次郎は俺の同級生だよ」とおっしゃいました。

その瞬間、フロアにいた全員がふっと顔を見合わせ、「裕次郎」「ヨット」「ハワイ」など、その方についての理解がぱっと繋がったような気がしました。そのあとは若い頃の石原裕次郎さんとご自分たちの青春時代、タクシーが初乗りいくらだったか、お蕎麦が一杯いくらだったかなどという話しまで上がり、フロアが一気に活気づきました。そしてこれをきっかけにこの方は、周囲のご利用者さまたちとの会話がそれまでよりも自然にできるようになっていきました。

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ほかのご利用者さまたちと、挨拶はもちろんちょっとした会話がスムーズになると、リハビリの時間も「一緒にやりましょう」「上手にできておられますね」などと皆さんが声をかけるようになり、自然に輪に入れるようになりました。スタッフからのお手洗いの誘導やお着替えの促しにも、「うん、行くよ」とすんなり応えてくださるようになりました。

広がる笑顔の輪

そのうち、GOTOに完成した塗り絵をプレゼントしてくださるようになりました。楽譜を挟んでいるクリアファイルの表紙に絵を入れ、演奏するときにみなさんに見えるようにしましたら、演奏の度に座席からGOTOに目で合図をされ、絵を指してOKサインを出され、とても嬉しそうにレクリエーションに参加されるようになりました。

みなさんもそれに気づいて「綺麗ね」「いいわね」という声が掛かるようになり、次第にほかのスタッフやご利用者さまにも絵のプレゼントが広がり、その方にもますます笑顔が増えました。

この頃にはリハビリにも抵抗なく参加されるようになりました。とても楽しそうで、むしろ「積極的」と言ってもよいほどで、むっつりとして用具を放り投げていた当初とは、別人のようです。送迎の車でご一緒した時には「俺も会社で人を使っていたからわかる。社長っていうのはたいへんだ。でも煙草はやめたほうがいいって言っときな」と社長を気遣ってくださるようにもなっていました。

別れは突然に…一期一会の大切さを学ぶ

ある日突然、この方は施設のご利用をお止めになりました。奥様のお加減が悪くなり、ショートステイに移られたのです。高齢者施設ではこうした突然のお別れが多く、GOTOもこのとき「一期一会」という言葉を改めて噛み締めました。ご利用者さまと出会ってからの一日一日を、「明日はない」という思いで精一杯させていただかなければならないのだということを教えられました。

この方とのエピソードには、もうひとつびっくりすることがありました。ちょうどこの頃入ったスタッフが、この方の以前通っておられた施設にいて、「その当時入浴は決してなさらないし、着替えなど一切拒んでおられいくらお誘いしても取り付く島もなく、皆が困っていました」と教えてくれました。入浴、お着替えについての変化は勿論、最後は社長の身体を気遣ってくださったことを思うと、感無量です。

さいごに

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その方の生きてきた環境をアセスメントで知り、音楽がその方の気持ちをほぐし、会話の糸口を見せてくれる。その結果スタッフもご利用者さまも含めて互いの理解が深まり、「ここにいると楽しい」と言っていただけるようになる。ケアの質が高まり笑顔が増える、そんな体験を一例でも増やしていくため、もっともっと音楽の力を磨いていきたいと思います。

GOTOの高齢者施設での取り組みはまだまだ手探り。
次回もどうぞお付き合いくださいませ。

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後藤 京子(GOTO)
「音楽の花束」代表。星美学園短期大学講師。東京音楽大学卒、同大学第2副科オルガン専攻修了、邦楽演奏コース長唄三味線専攻修了。1986年日本ピアノコンクール全国大会第3位、受賞記念演奏会出演、1987年読売新人演奏会出演。NHK邦楽技能者育成会に学ぶ。短大西洋音楽史講師、小学校音楽科教諭を経て2004年より「音楽の花束」のプロデュース活動を始める。2015年きらめき認知症シスター(きらめき認知症トレーナー協会認定)取得。カトリック東京カテドラル関口教会オルガニスト。デイサービス「空の花 高井戸」取締役副社長。>>公式サイトへのリンクはこちら「音楽の花束」
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