「いつまで独居が可能でしょうか?」
「もう独居は無理でしょうか?」
ケアマネジャーをしていて、たびたびこういった質問を受けました。独居限界の見極めに困惑する家族と、「家がいい」「他所には絶対行かん」と、自宅から離れることを頑なに拒む高齢者。(認知症に限ったことではないですね)
一人暮らしの気ままさと危険は、隣り合わせです。そこで、独居限界の見極めのポイントと、その限界をちょっとだけ先送りにできる方法を数回にわたってご紹介します。第1回は独居限界の見極めのポイントについてです。
独居の限界サイン
よく見受けられる症例と、そこに潜む危険性についてお話します。
火の不始末
鍋焦がしや、仏壇のろうそくの火の消し忘れがまず挙げられます。また、こたつのスイッチの切り忘れ、ストーブの消し忘れ、掘りごたつの中で、練炭が不完全燃焼し、一酸化炭素中毒になりかけたこともありました。これらは物忘れ、短期記憶障害が原因のため、認知症と診断後、比較的早い段階からでも起こります。
徘徊
徘徊には原因があります。家にいても「家に帰りたい」とそわそわして出て行く方や、夕方になって1人では「寂しい」から、馴染みの人に会いに行く、一生懸命働いていた頃の自分の「居場所」を探すなどです。そのため、徘徊コースや時刻が同じ場合も少なくありません。
デイサービスや安全な場所ならよいのですが、屋外には危険がいっぱい。段差が見えていても、認識できず転んだり、車が見えていても、危険を認知できず道路を横断したりと、命に関わる危険がそこらじゅうに散らばっています。
異食
認知症が進行すると、食べ物とそうでないものを認識できなくなり、口に入れてしまうことがあります。炊飯器の中にご飯も味噌汁もおかずも全部混ぜてよそったり、食べたことを忘れて何度も食べたり、明らかに腐っているものを食べたりします。ついにはゴキブリ団子やペンキ、ハンドクリーム等思いもよらぬ物を口に入れてしまいます。
異食による下痢やおう吐は、脱水症状を引き起こします。そして、独居のために発見が遅れたり、訴えができないために重症化したりと、命の危険につながることもあります。
自傷・他傷(易怒性、威嚇)


こんなすれ違いがイライラの原因となり、目の前にあった包丁を持って、本人は「何か作ろう」と思ったとしても、周囲から見たら「包丁を持って、威嚇した」ということもありました。
また、危険な物の認識ができなくなり、道具も上手く扱えないため、ケガが増えます。感情を抑えきれなくなったり、自分でもわけがわからなくなって、暴れたりすることもでてきます。本人や周囲がケガをしかねない問題です。
義父の場合は、不穏+空腹が重なると、スプーンを振り上げて「威嚇」します。早く食べさせてほしいのに、いつまで作っているんだとご立腹なんです。家族も介護職者も人間。時にはパーフェクトな対応ができないこともあり、上手くいかないこともありますね。
その他、命に関わる危険が迫っている場合
被毒妄想が出て薬を飲まないために、健康が維持できない、危険認知ができないために、近くの水路の中を這って回ったり、高い所の認識がなく、飛び降りようとすることもあります。
ご本人の安全確保が最優先
認知症の進行度合いや生活環境は、ひとりひとり違います。共通して言えるのは、独居限界の見極めは「命の安全が確保できるか否か」を基準として判断することです。そのため、さまざまなパターン(認知症が進んでしまった、病気で独居が難しい等)を想定し、早い段階で自己決定しておくことをおすすめします。
独居継続に最低限必要なポイントは、以下のとおりです。
- 有効策はひとりひとり異なるため、生活習慣や成育歴を参考に安全な対策をとる
- ご近所には事前に見守り等の協力のお願いをする
- いざという時に保護できる体制を準備しておく
- 限界のサインである「命に関わるほど、安全が確保できなくなったとき」を見逃さないこと
さいごに
ご本人の意思を優先することは大事ですが、命の危険が迫っているとなれば話は別です。何よりもまず優先すべきは、ご本人の命の安全が確保できるかどうかだと考えています。地域包括ケアが推進されているとはいえ、浸透しているとは言いがたいのが現実です。今回挙げたような命の危険が迫っている場合は、ご家族や主治医、ケアマネジャーと相談し、独居を続けるのか、同居や施設入居や専門病院への入院を検討するのか判断することが必要です。

中嶋 保恵

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