「最期は自宅で迎えたい」認知症高齢者の在宅終末期について考える

こんにちは、理学療法士・介護福祉士の中村です。2015年5月の国別平均寿命ランキングで、日本の男性は世界第6位(80歳)、女性は第1位(87歳)という結果が発表されました。長寿大国日本が超高齢社会を迎えようとしている今、終末期とどのように向き合っていけばよいか、お話したいと思います。ご自分の最期を考えるきっかけとなり、また、残されるご家族に対しても思い巡らせるきっかけになればと思います。

最期を迎える場所に「自宅」を選ぶ人が過半数

2012年、全国の55歳以上を対象に行われた内閣府の調査によると、最期を迎えたい場所を「自宅」と回答した人は、約55%で過半数をこえたと報告されています。

参照元:内閣府「高齢者の健康に関する意識調査」(2012年)
参照元:内閣府「高齢者の健康に関する意識調査」(2012年)

同調査では、「自宅で介護して欲しい」という方も多く見受けられ、ますます在宅での療養が増えていくことを示唆しています。また、介護保険法や新オレンジプランから、認知症であっても、住み慣れた場所で生活・療養することや、最期を迎えることが望ましいと考えられています。在宅療養の必要性は今後さらに重視されていくのではないでしょうか。

被保険者が要介護状態となった場合においても、可能な限り、その居宅において、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるように配慮されなければならない
参照元:介護保険法第2条第4項より

認知症の人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域の良い環境で自分らしく暮らし続けることができる社会の実現を目指す
参照元:厚生労働省新オレンジプランより

重要になってくる家族への支援

今後、終末期に対する考えが浸透し、自分の意思を予め伝えたのち認知症になる方が多くなるのではと予想されます。しかし、家族への予後予測説明が不十分であると、起こりうる変化に対し、家族はその都度突発的に対応しなければなりません。その結果、心身の負担が大きくなり、家族の介護疲れも考えられます。

また、リビングウィル(※)が一般的に浸透していないことで、ケアの方向性について家族はどうして良いか分からず、看取り後も達成感を得られずに「これで良かったのだろうか」と悩み続けることもあります。

■リビングウィルとは…
自分らしく生を全うし、自然な死を求めたいという希望を明示した生前発効の遺言書

地域で行える支援

地域包括支援センターや介護支援事業所等の相談機関を活用し、ケアの方向性や終末期について相談することをおすすめします。また、介護保険のような公的サービスだけではなく、ボランティア団体などの非公的サービスを組み合わせたサービスの活用も、視野に入れておく必要があります。

医療関係者が行える支援

認知症高齢者本人の身体機能低下につれて、外出が困難となります。そのため外来受診が少なくなり、医療機関側で身体機能や病状を把握することが困難となります。かかりつけ医が訪問診療を行っていないケースも多く、安心した在宅療養を送るためにはまだまだハードルが高い現状があります。

そこで、24時間体制の訪問看護の利用も検討することをおすすめいたします。その際は、療養や看取りの方法や意向を医療関係者と予め相談し、訪問看護利用中も常日頃から意思疎通を図っておくことをお勧めします。

容態急変時や一時的な入院、入所を行うことで、認知症高齢者の苦痛や家族の介護疲れの軽減が図れる事もあります。これらに対応するためには、何でも相談ができる「かかりつけ医」ならぬ「かかりつけ相談処」を見つけておくことも大切です。

その他利用できるサービスについて

心理的負担を軽減する目的として「認知症の人と家族の会」など、ピアサポートを利用することも良いでしょう。相談先が多岐にわたると新たな視点が生まれてくることもありますし、同じ立場にある方との交流は心の支えともなることも多いです。

関係者毎の役割を学ぶ

最近は認知症ケアに特化した施設(グループホームや認知症病棟等)が増えております。人間らしく終末を迎えるために、終末期リハビリテーションが必要だと筆者は考えます。しかし、実際の介護サービスでは、職員が全て介助してしまうのも見られます。上げ膳下げ膳ばかりが介護ではなく、高齢者が持つ現存機能をできるだけ活かした介助が必要です。これらは認知症高齢者本人だけではなく、家族、医療福祉関係者、それぞれの間でどのような終末期を望むのか、またその介護方法についてのスタンスを共有し理解する必要があります。

高度認知症においては意思疎通が非常に困難なことが多いですが、認知症高齢者ひとりひとりに人格があり、尊厳を守る事が求められます。終末期であるからこそ、サービス提供者側は認知症高齢者の尊厳を重視していくことが求められます。

相談関係者
身体的なケアに医療の比重が高まってくることも想定し、かかりつけ医との連携、また急な状況変化に伴う家族及び本人からの相談に対応できるような体制、関係機関との連携が必要です。

介護従事者
食事、排泄、入浴、整容などの日常生活における基本的なケアが中心となりますが、褥瘡や拘縮の予防、保清等の清潔ケアが重要となります。わずかな変化も見逃さず、医療関係者との連携を常に行うことが求められます。
医療関係者
介護従事者と連携し、褥瘡や拘縮などの予防、また治療が必要となります。可能であれば24時間対応できる体制が望ましいです。家族は予後に不安を抱えていますので、家族に対するケアも必要となります。認知症高齢者の状況だけではなく、家族介護者の変化についても目を配ることが求められます。

在宅で看取りを行う場合の注意点

家庭内で死亡すると変死扱いになる場合があり、警察の現場検証と家族への聴取が行われます。必ずしも警察の検視が必要というわけではなく、問題ないと分かってはいても、形式上家族への聞き取り(捜査)が必要なためです。その後問題なければ、医師の死亡診断書記入となります。筆者の聞いた話では、ドライアイスを入れて保管するまでに10時間程かかったという話もありました。夏場だとゾッとするような出来事ですが、医師法第21条には死亡後24時間以内に医師による遺体の診察において、異状死(※)が認められる場合には警察に届けなければならないとあります。

■異状死とは…
犯罪に関わる死や、診療行為に関連した予期しない死亡及びその疑いがあるもの
引用資料:日本法医学会:異状死ガイドライン

悲しみに暮れる間もなく、警察からの聴取が行われるご家族の心情を察すると、何よりもスムーズに事が運ぶことが必要かと思います。容態急変時に救急隊へ連絡を行うか、往診が可能なかかりつけ医に連絡を行うのか、あらかじめ医療関係者と十分に話し合う必要があります。その結果、現場検証等におけるご家族の心労は軽減されるかと思います。

違法性阻却(いほうせいそきゃく)について認識する

認知症高齢者の看取りについて述べてきましたが、我々福祉医療に携わる者として違法性阻却という認識を改めて考えて頂きたいと考えます。

違法性阻却とは、違法と推定される行為について、特別の事情があるために違法性がないとすることです。つまり、他人の身体に針やメス、薬の投与などを行うと傷害罪、医師法及び薬事法の違反となることもありますが、特別な事情があるために、医療者や介護士が行った場合許されるということです。

認知症高齢者に対し、介護看護の不作為により褥瘡を発生させたり、拘縮を発生させたりすることが違法性阻却では無いのです。法的な根拠はありませんが、筆者はご遺体にも人権が存在する(存在して欲しい)と考えています。生のあるときに拘縮を発生させ、ご遺体が棺桶に入らない、死装束を着用させられない等といったことはあってはならないと思いませんか?

尊厳死について

日本では「尊厳死」について、様々な議論が行われています。尊厳死の法律が無いことで行われた裁判もございます。(川崎協同病院事件;横浜地裁判決 2005年3月25日)

本人の意思に基づき死期をただ延長させるだけの措置を断り、自らの意思において死を迎えることは、自己決定における最大の決定事項だと考えられます。どこで最期を迎えるか、「病院(施設)のベッドの上で」「自宅の畳の上で」などの希望があるかと思います。予め、自らの意思を示すことができたら良いでしょうが、認知症高齢者の場合は自分の意思を伝えることが非常に困難な状況であることがほとんどです。

さいごに

認知症高齢者の元気な頃の姿を思い出し、献身的に在宅介護されているご家族の姿に、本当に頭が下がります。

自宅で認知症高齢者を看取ることに、非常に多くの課題があります。多くの手段を我々が提供し、認知症高齢者本人やご家族に提案することが求められます。我々は多くの引き出しを持つことと他職種・多職種との連携が必要です。安心して認知症高齢者と家族が在宅で生活を送るために、また人生の終末、生の終焉が人間らしくあるためには我々が無知であってはなりません。

産まれた時は産科医師をはじめ、専門職に囲まれて母親は安心して生を授けます。認知症高齢者の生の終焉時にも同じく専門職によるサポートを受けながら、望む場所で安心して生を全うすることが大切なのではないかと筆者は考えています。

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中村洋文

中村洋文

鹿児島県沖永良部島出身 介護福祉士 / 理学療法士 / 実務者研修教員/その他 病院、知的障害者施設、デイサービス管理者、介護老人保健施設、特別養護老人ホーム等の医療・福祉施設にて勤務。現場だけではなく、行政側の立場としても市役所勤務の中で介護保険にも携わる。介護保険認定審査委員も歴任。現在、福祉系専門学校での講師及び居宅介護支援事業所、訪問看護等の介護保険事業を手掛ける会社の共同代表として活動中。介護医療現場、また行政側の様々な経験をもとに認知症高齢者本人とその家族の想いを教育現場や全国各地での講演会等で発信しています。
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