こんにちは。クラウンアンバサダーの金本麻理子です。クラウニングをしていると、シリアスな場面に遭遇したり、ネガテイブな感情をもった方に出会うことがあります。人間は深刻な問題に直面したとき、閉鎖的な態度をとったり、視野が狭くなってしまうため、段通り接することが困難になります。
そんな場面に出会ったとき、クラウンはどうするのか?それでは早速お話させていただきますね。
最初は驚きからか、顔を背けられてしまった
去年の夏、長野県にある高齢者施設を訪れた時のことでした。私は赤鼻のクラウン姿となり、並んでいたお部屋のひとつひとつを訪問していました。ふと、扉の開いた個室を覗いたら、ベッドから顔だけをだして、天井を見ているおばあちゃんがいました。
暗がりの中、1人で居たおばあちゃんと無性に話がしたくて、「こんにちは」と声をかけながらゆっくりと部屋の中に入っていきました。ベッドの中にいるおばあちゃんは、天井を見たまま表情を歪ませ、少し身体を動かすだけでも辛そうにしていました。
クラウン姿の私をみつけると、顔を背けて、「いいから、いいから、あたし何もできないから。」と言いました。突然の変な人?の訪問に驚きも大きかったと思います。
寝たきりのおばあちゃんとお葬式の話で盛り上がる!
私はベッドサイドで、そのままニコニコとしながらじっとしていました。特になにもせず、ただじっとおばあちゃんの横に居ることにしました。すると、おばあちゃんが少しずつ話しはじめてくれたんです。

床に入ってはいるけれど、想像していたよりも強くてしっかりした声でした。そして、最初の時とは少し違って、段々と表情に赤味がさしていったようでした。そのおばあちゃんの言葉を聞いてクラウンの私が言いました。

おばあちゃんは私をみながら「そうかい、そうかい」と頷いてくれました。それから二人でお葬式の時に流してもらう曲で盛り上がり、一緒に笑いました。お互い好きな曲を流して、祭壇には好きな花を飾って、とびきり美人の自分の写真を飾りましょう!って。
普通に考えたら、寝たきりのおばあちゃんとお葬式の話をするなんてって思われるかもしれませんが、私たちはお葬式の場面とは思えない程、次々とアイデアが湧いてきて声も高らかになっていったんです。
しばらくお話した後、おばあちゃんはゆっくりと呼吸をし、「はい、ありがとうね」と言い、がっちり握手しました。「楽しかったー。ばいばい!」と、ベッドから手をだし笑顔で見送ってくれたおばあちゃんの顔が、今でも目に浮かびます。部屋に入ったときには怪訝そうにしていたおばあちゃんでしたが、最後は笑顔で顔を緩ませてくれました。
人は死ぬ寸前まで生きている
前回記事で紹介したアメリカの医師パッチが、映画「パッチ・アダムス」の中で語っていた言葉があります。
「死を遠ざけるのではなくて、生を高める」
“死”について語るのを遠ざけるのではなく、時にはユーモアを交え一緒に笑いながら語れるのも、クラウンならではの姿だと思います。
クラウンには、“こども心”“遊び心”が詰まっています。シリアスな場面に直面した時、ネガテイブな場面に出会った時こそ、“こども心”を使い、深刻な状況を他に転換することもできるのです。こどものように好奇心旺盛で、ワクワクした気持ちや創造性、想像力を使って。
クラウンが傍らに居ることで、自分の想いを語ってみる。いっしょに未来を描いてみる。クラウンと出会った方が生きていて良かったと思える瞬間を、これからも創っていきたいです。
撮影:細川隆行
前回記事:無表情のご老人に変化が!パッチ・アダムスのコミュニケーション方法


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