なぜ周辺症状(BPSD)は起きてしまうのか?脳機能から見る認知症ケア

介護福祉士・理学療法士の中村です。今回は私が実践している、脳機能の側面から考える介護方法についてお話させていただきます。認知症高齢者に対する接し方のひとつとして、皆様の介護のヒントになればと思います。

周辺症状が起こる原因を考える

ご家族や介護職員の皆様は、認知機能障害が原因で起こる周辺症状(BPSD)の対応に苦慮されることが多いのではと考えています。周辺症状の原因は、大きく分けると以下5つが考えられます。

脳の器質的障害
脳血管障害等が脳に直接的ダメージを与えることで起きる、記憶障害・見当識障害・判断力低下・認知機能低下
身体的要因
感染症、脱水、薬物の副作用、代謝異常等
心理的要因
心理的な不安定性、ストレス、孤独・不安・疎外感等
環境的要因
初めての場所、閉鎖的な場所
不適切なケア
苦痛や屈辱的・暴力的なケア、不安を伴うケア

周辺症状が起こるきっかけは?

脳には扁桃体という機関が存在します。大脳辺縁系(だいのうへんえんけい)と呼ばれるものの一部で、情動的な記憶を蓄積すると言われています。周辺症状(BPSD)は、認知症高齢者が示す介護拒否や怒り(興奮)などが扁桃体に刻み込まれ蓄積し、不適切なケアやストレスがきっかけで、引き起こされるものだと考えられます。

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扁桃体は感情の元となる場所であり、喜怒哀楽を生み出します。悲しみ、怒り、恐怖などが扁桃体に積み重なっていればいるほど、爆発した時のエネルギーは大きいものとなります。

前頭葉が障害を受けている場合

前頭葉という部位は、思考、理性、意欲、運動、判断などを司っています。脳の萎縮や脳血管障害などにより前頭葉の機能に障害を受けると、前頭葉の持つ働きが行えなくなります。社会のルールが分からなくなったり(万引きを常習的に行う等)、食行動に異常がみられる(紙やタオルを口にする等)場合は、前頭葉に障害を受けていることも考えられます。

前頭側頭型認知症の症状について詳しく知りたい方はこちら

周辺症状の進行を防ぐ、遅らせるポイント

認知症高齢者のそれまでの「生き方」を知り、アプローチを行うことが、周辺症状(BPSD)の進行を防いだり遅らせる大切なポイントであると考えます。

出身地にまつわった接し方を心がけているか?

施設の新規入所や居室変更の際、認知症高齢者の症状が酷くなるといった経験はありませんか?これはリロケーションダメージと呼ばれるもので、標準語で話そうと努力することや、環境変化により脳に大きなストレスがかかることが起因になります。我々も、初めて訪れる場所では、自然と標準語で話そうと努力しますよね。

結婚などで出生地から離れたり、出生地の訛りが出ないようにする人の場合、脳が多くのエネルギーを必要とするためにストレスがかかり易いのです。

方言を話している人が標準語で話すことは脳の働きが大きい

私は、全国の施設等の研修会で講師として呼ばれるのですが、初めて出会う高齢者に対し、その地方での方言を2、3個ほど用いて会話をします。方言を聞いた安心からか、職員が知らないようなお話を聞くことができます。

安心感を与えたり脳へのストレスを軽減させるには、レクリエーションや普段の会話、また施設内でのBGMなどに出身地にゆかりのある物語や民謡、方言などを使用するとよいかと思います。

欲求が満たされた生活を送っているか?

アメリカの心理学者、アブラハム・マズローは人間の基本的欲求階層5段階説を述べています。その中でも「安全の欲求」「所属の欲求」「承認欲求」の3つのうち1つでも欠けていると、人間は不安・緊張を感じると言われています。過去と現在の生活状況を良く把握し、できる限り欲求が満たされるように支援するのも必要だと思われます。

認知症高齢者と接する際に、「否定はしない」と良く言われます。これは、他者からの承認を必要とする、認知症高齢者の心理学的特性でもあります。「褒めること」を基本とし、認知症高齢者の訴えを良く傾聴してください。褒められることで、脳内では「ドーパミン」という快楽ホルモンが放出されます。ドーパミンが放出されることにより、活動性や意欲の向上にも繋がります。ドーパミンの量が多過ぎると統合失調症(躁病)などの原因になるとも言われていますが、褒める程度で放出されるドーパミン量ではそのような事はありません。

抑圧的な態度で接していないか?

前頭葉の障害などにより、認知症高齢者は善悪の判断がつきにくく、一般的に考えて悪いことだったとしても、本人はいったて当たり前のように行動することがあります。

例えば、目の前の利用者の食事を勝手に食べるなどの行為は、皆さんも良く目にするのではないでしょうか。これは、人間の基本的欲求に沿って行動しているだけなのです。それを他者から抑圧(注意される)されると、認知症高齢者の脳はパニックとなります。私たちも眠りたいときに眠りますが、それを注意されているのと同じなのです。

私たちが「今のは悪いことですよ、ダメです」と注意しても善悪の判断はつきません。その行為をしてしまった認知症高齢者の行動を「盗食」と考えるよりも、まだ食べられるのだという「意思表示」だと捉えてください。

認知症高齢者が欲しいものは「説得よりも共感」です。仮に本当にお腹が空いていた場合は、その方の疾病や食事摂取状況等にもよりますが、新たに食事を提供することも視野に入れても良いのではないかと思います。 

人間は、快感を得ている時や精神活動が活発な時にはお腹は減りません。好きな人から告白されている時や褒められている時、お腹が空いていますか?実はこのような時にも、上記で述べたドーパミンが放出されているのです。食べたにも関わらず、食べたいという「意思表示」を示している場合、食事の提供を検討するだけではなく「快楽」の提供も行うと良いでしょう。

まとめ

脳は様々なホルモンを放出したり、記憶や感情を蓄積したりと多種多様な働きをしています。脳の働きに興味を持っていただき、うまく活用することができたら、認知症高齢者の介護はもっと楽しくなるかと思います。もちろん、私たち介護者以前に認知症高齢者本人も楽しく過ごせるのではないかと思います。

認知症の症状について詳しく知りたい方はこちら

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中村洋文

中村洋文

鹿児島県沖永良部島出身 介護福祉士 / 理学療法士 / 実務者研修教員/その他 病院、知的障害者施設、デイサービス管理者、介護老人保健施設、特別養護老人ホーム等の医療・福祉施設にて勤務。現場だけではなく、行政側の立場としても市役所勤務の中で介護保険にも携わる。介護保険認定審査委員も歴任。現在、福祉系専門学校での講師及び居宅介護支援事業所、訪問看護等の介護保険事業を手掛ける会社の共同代表として活動中。介護医療現場、また行政側の様々な経験をもとに認知症高齢者本人とその家族の想いを教育現場や全国各地での講演会等で発信しています。

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