認知症看護認定看護師の市村幸美です。認知症の方のケアについて、提供する側が必要だと感じるケアでも、ご本人から同意を得られない場合があります。筆者個人の考えとしては、ご本人の同意が得られないケアは、基本的に行うべきではないと考えています。しかし、安全・安楽が脅かされる、命の危険に関わるなど、行わなければならない場面が出てきます。今回はこのような場面のときの対応についてお伝えします。
利用者の同意が得られないケアの具体例
認知症看護認定看護師として、さまざまな処置に立ち会い、同意が得られない場面を数多く見てきました。よく見られるのが、下記5つのケアの際です。
- 検査(採血・レントゲンなど)
- 処置(創部処置・浣腸・喀痰吸引など)
- 入浴(洗体、洗髪など)
- 排泄ケア(トイレ誘導、オムツ交換など)
- 介護サービスの利用(デイサービス・訪問介護など)
同意が得られない理由を認知症の症状から考えてみる
何をされるのかわからない
認知症をもつ方の場合、この「何をされるか分からない」という理由が1番多いと思います。認知症の中期になってくると言葉の理解が難しくなるため、説明を受けてもその内容が分からず受け入れられないということが考えられます。
納得できない
2番目に多いのが、「言われていることは分かるけど必要性がわからない」という理由です。認知症初期の方に比較的多いように感じます。検査や治療、介護サービスの利用などの場面でよくみられますが、この場合は自分の身体状態について理解できない場合が考えられます。
他者に対する不信感
認知症が進行してくると、自分が以前と違うということに気付いてきます。そのような時期は、他者に自分の失敗を見られたくない、自分を病気扱いされたくないという想いや騙されるのではないかという強い不安を持っています。
同意を得られる説明をする
同意が得られないことの理由が推測できると対応も楽になってきますが、できたらその前の段階で最初から同意してもらえるようなケアを目指したいものです。
- 分かりやすい言葉ではっきりと伝える
- 同意を得られやすいスタッフと断られやすいスタッフを観察すると、経験や専門知識よりも「伝え方」のスキルの差があると感じます。基本的なことですが伝え方のポイントをまとめます。
- 専門用語を使わない
- 「○○しようと思いますがよろしいですか?」と同意をとる
- 目をみてはっきりと伝える
- だらだら説明せず短い文章で伝える
- 相手の不安や恐怖感を見逃さない
- ケアを行うことで得られるメリットを伝える
- 「相手にメリットがある」「やらなければ健康を害する可能性がある」と、分かりやすく伝える努力を精一杯して下さい。言葉によるコミュニケーションが難しいような認知症の方でも、一生懸命伝えると時間がかかっても必ず分かってくれます。「ケアの向こう側にある安楽」を全力で伝えてみましょう。
- 認知症でも必ず説明と同意を
- 言うまでもありませんが、「認知症だからどうせ忘れるし、嫌がるのなら力尽くでやってしまおう!」なんていうのは絶対にNGです。どのような場面でも、相手がどんなに重度の認知症であっても「説明と同意」を省略してはいけません。以前書いた「なぜ認知症を持つ人は嫌な思いをしたことはよく覚えているのか?」や「虐待ではない?日常茶飯事で起きている介護職員のケアとは」についての内容とも少し重なる内容があるので読んでいただけると嬉しいです。
さいごに…諦めるのもあり!
ちなみに私の場合ですが、今すぐに必要ではない検査や介護サービス、入浴やトイレ誘導程度であれば、チームと相談して諦めます。無理強いして行うより、記憶に残らないくらい即座に諦めて違う方法で再トライするほうが上手くいくことが多いですよ。ケア提供者も介護を受ける側もどちらもストレスのない介護を目指していきたいですね。


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