「忘れる」ことを忘れてしまう!?介護者に起こる現象とは?

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【物忘れが「ある」とみたり、「ない」とみたり】

その場を取り繕うように
つじつまのあわない会話が続く時には
「もの忘れがある人」としてみている。

一方で
同じことを何度も質問されて
「さっきも伝えたのに!」とイライラする時は
伝えたことは覚えているはず!と思っていて
「もの忘れがない人」としてみている。

なんとも不思議な現象。
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介護者が忘れてしまっている現状

介護者の関わりを見ていると、記憶力の低下があると知っているにも関わらず、「忘れる人」とみている時と、「忘れるはずがない人」とみている時があるようです。(確かに、内容によっては、覚えている時と覚えていない時がある人もいますが、今回のお話は、それとは違った観点のこととして捉えてみましょう)

例えば、介護者が困る場面があるとします

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昨日お風呂に入っていないのに、本人は入ったと言うのです

その言葉を、「お風呂に入りたくないから、ウソをついて、言い訳している」と介護者がとらえたのだとしたら、「本当は昨日お風呂に入っていないことを覚えている」ということが前提にあるということになります。そのため、利用者の記憶を修正し、こちらが期待する判断をうながすコミュニケーションが続いたりします。

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お風呂は週2回で、前回は3日前で昨日は入っていないから、今日は入りましょうよ

そういう場面を目の当たりにすると、「忘れる」ということを、介護者が忘れているのかな?と思ったりします。

わたしがケアの面白みを感じるとき

わたしはこのような場合、次のようなとらえ方をしてみます。

『本人は、昨日お風呂に入ったかどうかは覚えていないけど、いま、とにかく入りたくないので、入ろうと誘ってくる人になんと言えば納得してもらえるかと考えて、出てきた言葉が「昨日お風呂に入った」という言葉かも?』

「覚えているだろう」という前提ではなく、「忘れているかも?」を前提にしてみると、「そして、この発言がでてくる理由はなんだろう?」と想像力を働かせる余地が生まれます。「忘れている」という前提であれば、正しい記憶を「覚えてもらうこと」や「思い出してもらうこと」は、それほど重要ではありません。むしろ、過去の記憶をたよりにしないで、「いま、ここでお風呂に入ろうと思ってもらえるには、なにが必要か?」に照準を合わせるようにしています。

ここでもう一つ、わたしが大切にしている前提が、「いま」の状況にレンスポンス(反応・応答)する力は失われにくいということです。リビングでお風呂に誘ってダメだった人も、湯けむりのたつお風呂場でお風呂に誘うと、あっさりと入ってくれたことがありました。記憶を正すことよりも、「いま」の状況にピンと来る言葉、タイミング、環境の工夫を見つけ出すことの方に、わたしがケアの面白みを見いだしているからかもしれません。

“期待”が与える混乱と焦り

わたしたちには、「コミュニケーションが思い通りにいってほしい」という“期待”があります。その“期待”があるからこそ、“期待”にあわないと、納得できない思いがわいてきて、その結果を説明できる合理的な理由を探し始めます。そうした背景から、時と場合によって「あの人は忘れるから」「あの人は忘れるはずがないのに」と相反するとらえ方をするのかもしれません。

お風呂に誘って「入るわ」と期待通りの答えが返ってくる時には、混乱はおきないし、相手を「理解力がある人」とみているでしょう。しかし、「昨日入ったからいいわ」と期待通りではない答えが返ってきた時には、「えっ!」と混乱したり、焦ったりするだけでなく、相手を「理解力が乏しい人」と見ているかもしれません。

さいごに

自分の“期待”にあうかあわないかで、相手のとらえ方や物事のとらえ方が変わるとしたら、適切な関わりは見いだしにくくなります。その人に応じた適切な関わりを見いだすためにも、「目の前で客観的に起きていることはなんだ?」を見ることを意識しておきたいですね。

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裵 鎬洙
コーチ 認知症ケアスーパーバイザー コミュニケーショントレーニングネットワーク(CTN)講師 介護支援専門員実務研修・専門研修講師 【略歴】 1973年生まれ。兵庫県在住。大学卒業後、訪問入浴サービスを手がける民間会社に入社。その後は介護施設で相談業務に従事。コミュニケーショントレーニングネットワーク(CTN)にてコーチングやコミュニケーションの各種トレーニングに参加し、関わる人の内面の「あり方」が ”人”や”場”に与える影響の大きさを実感。介護に携わる様々な立場の人に、知識や技術だけでなく「あり方」の⼤切さを発見する研修やコーチングセッションを提供。著書『理由を探る認知症ケア~関わり方が180度変わる本~』。介護福祉士、介護支援専門員、主任介護支援専門員。
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