特別養護老人ホームで働いている、介護福祉士1年目の川上陽那です。今日は「認知症って何だろう」と、考えるきっかけを与えてくれたばあちゃんの話です。介護福祉士の養成校に通っていた時、座学の教科書に書いてある言葉だけじゃなんにも想像ができなくて、すごく苦しみました。しまいには、全く関係のない本を読みだして、教室から追い出されたこともありました(笑)みなさんは「認知症って何?」って聞かれたとき答えられますか?
※普段はYさんですが、愛情を込めて「ばあちゃん」と記載しています。
実はちょっと苦手だったばあちゃん
何か一緒にしようと話しかけると、時々、いや、結構な頻度で、「あんたは誰だ!?あんたは誰だ!?」って言ったり、視線をそらせなくするほどのものすごい強烈な目力で「なんだお前は!!!ばかばか!!大馬鹿!!」って叫ぶばあちゃんがいました。
――――えっ、ちょっとどうしよう。あんた誰?って言われても…他人だし。えー、だけどこのばちゃんは本気だぞ。目をそらす訳にはいかないし…――――
という感じで、目をそらせず何も言えずで、毎回にらめっこの状態でした。言ってしまえば「THE苦手なばあちゃん!」みたいな存在でした。。。
こうなったら最後の手段!いさぎよく名乗ってみる!
にらめっこしても何も解決しないし、だんだんと耐えられなくなってきたある日、「わたしは川上陽那です!」って名乗ってみました。でも名乗っただけじゃ届いていない雰囲気だったので、たまたま名前の漢字が一緒っていう共通点に目をつけた私は、「Yさんと同じ、陽って書いて、はるって読みます!」指で空書きをしたんです。
―――わたしとあなたは同じ漢字なんですよ?ちょっと親近感湧きませんか?―――
って想いを、ちょっとびびりながらも、ひたすら伝えました。そうすると、ばあちゃんはちょっと驚いた顔して、
「はるって読むの。珍しいねえ。はるなちゃん。いい名前だねえ。」
と、言ってくれたんです。その瞬間心の中で「よっしゃ!!」とガッツポーズしたと同時に、「そういえば毎回自己紹介していなかったなぁ」って思いました。認知症の人は直近の記憶が残りにくいから、ばあちゃんにとって私はいつも初対面だったんです。つまり、「あんた誰だ!?」って聞くのは当然のこと、ということに気づいたんです。
それからは、「あんた誰だ!?」って言われたら、その度に自己紹介をするようにしました。もちろん名前の漢字が一緒ってことを必ず付け加えて。そうすると80パーセントの確率で私のことを認識し、受け入れてもらえるんです。残りの20パーセントは「そんなのはどうでもいい、知らない知らない、覚えられない」って言われちゃいますけどね。。。泣笑
認知症という病気のせいにしたくない!
先日あったことなんですけど、ばあちゃんが隣の席の入居者とその家族に向かって、「あんたは誰だ!?どこから来たんだ!?」と叫びながら言っていたんです。今までの私だったら、
―――きゃーどうしよう。家族に向かって言っちゃってる。とにかく止めて、家族に謝らないと―――
と、ご家族に迷惑をかけてしまっているって思いが優先して、ばあちゃんを悪者にしていたと思うんです。もしかしたら、「ニンチショウダカラシカタナインデス」とか言っちゃってたかもしれない。
でも、ちゃんと目をそらさずに向き合えばわかってくれることを知っていたので、その光景を見た瞬間、すぐにばあちゃんと叫ばれてる2人(入居者と家族)の間に入りました。そして、「このお二人は、親子なんですよ!よく見たら似てません?」ってばあちゃんに向かって言ったんです。そしたら一瞬間をおいてから、ばあちゃんは目を少し開いて、ニコッとしながらこう言ってくれたんです。
「親子!そうだねえ。似てるねえ!!」
現場でしか学べない現実
この出来事を通して、「認知症ってそもそも何だろう?」って考えるようになりました。認知症の症状が出てきたり悪化したりするのは、その人がいる環境のせいかもしれない、ずっと治らないっていうのも嘘かもしれないって。私は身をもって経験しないと、なにもかもが腑に落ちないんです。それに教科書だけじゃ全然分からないし…。
介護福祉士という専門職であるものの、認知症セミナーとか、認知症研修とか、講座とか資格とかにはなかなか体が動かなくて…。そういう何かを通したものから学べない私は、ひたすら現場での1on1を通じて体感するしかないと。
これからも、現場で、自分の目で見て身体で体験したことを、伝えていきたいなあと。思った出来事でした。そしてこれからも「認知症って何だろう」の答えを探していこうと思います!
※写真のおばあちゃんは映画「つむぐもの」鑑賞後に出会った方です。
インタビュー記事:現役介護福祉士が「嫉妬する」映画『つむぐもの』とは?犬童一利監督インタビュー

川上 陽那

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