ちょっとの工夫で聞こえてくる「やりたくない」に隠された「やりたい」の声

ご高齢者や認知症が進んだかたにも楽しんでいただける、音楽会「音楽の花束」を主催しておりますGOTOです。

「音楽を楽しむ」ことは、簡単なようで案外難しいことでもあります。施設におられる方々は望んだ時だけでなく、「レクリエーション」「イベント」として音楽を「与えられて」しまいがちです。一歩間違うと「聴かされる」「やらされる」という気持ちになりかねません。そうなってしまっては音楽を楽しむどころか、気持ちを逆なでしたり、気分を害する事になってしまいます。

今回は楽器の扱いを例に上げて、気持ちよく音楽を楽しんでいただけるよう、「音楽の花束」で行っている取り組みについてお話いたします。

アプローチを変えて誘ってみる

ご一緒に楽しみましょうという場面で、たくさんの楽器が入っている箱をお見せし「どれでもお使いください」と言うと、「わたしはしない」と手を出さないかたがおられます。しかし少しアプローチを変えてお誘いすると、こうしたかたでも楽器を楽しんでいただけることがあります。

選択肢を絞って聞く
楽器を2つか3つお見せして「どちらがよろしいでしょう」と聞くと、「じゃあ、こっち」と選んでくださったりします。選択肢が多すぎることで、考えることが面倒になってしまい「やらない」と言ってしまうこともあるようです。
楽器を順番にまわしてもらう
ひとつの楽器を順番にまわしながら演奏しますと、「みんなもやっているから」と自然に参加いただけます。恥ずかしさやためらいがある場合、施設職員さんなど日頃から接している方にお手伝いいただきます。身近で安心できる方からのお誘いはリラックスでき、恥ずかしさやためらいを減らすことができます。
楽器を試しに鳴らしてもらう
机の上にたくさんの楽器を並べて、「どんな音が出るのか」からスタートするときもあります。音の出し方などをご一緒に試しながら、あれこれ面白がって鳴らしていただいているうちに、その日の気持ちに合ったひとつを選んでいただくことができます。そのままお好きな歌に合わせて自由に鳴らしていただくと、とても楽しんでくださいます。

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午後の眠気覚ましには太鼓

楽器を使わず、しっとりした音楽で心穏やかな時間を過ごしていただく、これも音楽の絶大なる効果で、大切な時間です。しかし、老人ホームでゆったりと過ごされているみなさんの午後の眠気覚ましといった場面で、あえて大きな音の出る太鼓を使って元気な歌を歌うこともあります。

ある施設で、音楽の時間でも背中を丸めて傾眠されることが多い男性に、「○○さん、太鼓をお願いします」と言うと、「ほいきた」と姿勢を正し、大きな音で太鼓を打ち鳴らしてくださることがありました。耳が遠くなっておられることもあり、歌の時間にも消極的だったかたですが、大きな音と振動を伴う太鼓はしっかりと認識することができ、楽しんでいらっしゃいました。

職員のかたからも、「元気に活動されていてよかった」「今晩はきっとよくお休みになれるでしょう」というお声が聞かれていました。

楽器に興味がある方にはたくさん触れてもらう

別の施設では、楽器を準備するときにそばで見るのがお好きなかたがおられました。鞄から出てくる楽器をひとつひとつ目で追い「ああ、いろんなものがあるね」と楽しそうにおっしゃる。そして手に取って音を出すときには少し恥ずかしそうに、そして嬉しそうにして、楽器を返すときには拝むような仕草をなさいました。

片付けも最後まで見守って、鞄に入れ終わると「たくさん持ってきてくれてありがとうね」と必ず声をかけてくださっていました。傾眠や、黙って音楽を聴くことも多かったかたですが、楽器にとても関心を示して楽しんでくださった一例です。

体験コーナーを設ける

「音楽の花束コンサート」でも、演奏家には可能な限り参加者の近くで演奏したり、場合によっては直接音を出させていただくことで、演奏を聴くだけの「受身のコンサート」ではなく、演奏家と参加者双方が交流しあい、互いに楽しんでいただける工夫を積極的に行っています。

例えば篠笛、尺八の演奏家のコンサートで、参加者に笛や尺八を実際に吹いていただいたことがあります。音の出る方、でない方、それぞれにみなさんが楽しまれ、そのあとで聴く演奏家の音がいっそう貴重なすばらしいものに聴こえるような楽しい場面でした。

マリンバ奏者に、マレット(バチ)の持ち方を教えていただいたこともあります。2本のマレットを片手で持つ工夫をみなさんに試していただき、難しさと楽しさで会場が湧きました。こうした工夫を知ったあとは、音を聴くだけでなく目でも見ながら、新鮮な気持ちで演奏を楽しんでいただくことができます。

さいごに

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このようなちょっとした工夫をすることで、参加者の音楽への姿勢はぐっと変わります。「聴かされている」「やらされている」という受動的で消極的な気持ちではなく、「自分で選んだ」「楽しみたい」という能動的で積極的な気持ちに切り替えることができるのです。

「音楽」は人生をこの上なく豊かにすることができるものだと思います。GOTOは、ご高齢者に対して音楽がその力を充分に発揮できる場を増やしていきたいと心から願いながら活動しています。

GOTOの模索はまだまだ続きます。
次回もどうぞお付き合いくださいませ。

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後藤 京子(GOTO)
「音楽の花束」代表。星美学園短期大学講師。東京音楽大学卒、同大学第2副科オルガン専攻修了、邦楽演奏コース長唄三味線専攻修了。1986年日本ピアノコンクール全国大会第3位、受賞記念演奏会出演、1987年読売新人演奏会出演。NHK邦楽技能者育成会に学ぶ。短大西洋音楽史講師、小学校音楽科教諭を経て2004年より「音楽の花束」のプロデュース活動を始める。2015年きらめき認知症シスター(きらめき認知症トレーナー協会認定)取得。カトリック東京カテドラル関口教会オルガニスト。デイサービス「空の花 高井戸」取締役副社長。>>公式サイトへのリンクはこちら「音楽の花束」

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