認知機能を改善する学習療法とは|基礎知識、方法、効果まとめ

学習療法とは、簡単な計算問題や文章の音読など教材を利用して、認知症高齢者とスタッフがコミュニケーションを取りながら行う非薬物療法です。東北大学の川島隆太教授の研究で、簡単な問題を解いているとき、脳の前頭前野がもっとも活性化することが実証されています。難しい問題をひたすら考え解いていくのではなく、楽しくコミュニケーションを取りながら簡単な問題を解くことが学習療法の特徴です。

学習療法で活性化する前頭前野とは?

前頭前野は前頭連合野とも呼ばれ、思考や創造性を担う脳の司令塔であると考えられています。また、老化に伴う機能低下が早く起こる部位の一つでもあります。日常生活を送るにあたり、前頭前野が担っている主な働きは以下の7つです。
脳画像

  1. 考える
  2. コミュニケーションをとる
  3. 意識を集中させ、意思決定をする
  4. 感情や行動を制御する
  5. 記憶をコントロールする
  6. 注意力を分散し危険回避する
  7. 意欲を出す

学習療法は前頭前野を活性化させ、認知機能の維持・改善を図ることを目的としています。

認知機能改善に適している理由とは?

読み書きや簡単な計算が脳のトレーニングとなり、作動記憶(ワーキングメモリー)(※)を鍛えることができます。作動記憶を鍛えることにより、さまざまな情報を記憶した上で、物事を対処することができるようになります。さらに、その他の能力(暗記力・計算力等)も一緒に伸びやすいことが確かめられているため、認知機能の改善に適しています。

画像引用元:公文学習療法センターHPより
画像引用元:公文学習療法センターHPより

■作動記憶とは
短期記憶の一種。例えば、買い物などお手伝いを頼まれた際に、一旦記憶し、それを改めてメモする場面で使われる記憶力のこと。なお、覚えた記憶はその場面が終われば忘れられてしまう。

学習療法の種類

教材を用いた計算問題と文章の読み書き、すうじ盤を用いた駒並べがあります。計算問題は6つのレベル、文章の読み書きとすうじ盤は3つのレベルから選びます。

計算問題

画像引用元:公文学習療法センターHPより
画像引用元:公文学習療法センターHPより
レベル1 10までの数の読み書き
レベル2 たし算(たし算の合計が10まで)
レベル3 たし算の暗算(利用する最大数字が5まで)
レベル4 たし算の暗算(利用する最大数字が9まで)
レベル5 たし算とひき算の筆算
レベル6 九九やかけ算の筆算

文章の読み書き

画像引用元:公文学習療法センターHPより
画像引用元:公文学習療法センターHPより
レベル1 簡単な単語からことわざ、童謡の音読
レベル2 会話文、昭和時代の暮らし・道具・仕事・できごとなどの音読と見写し書き
レベル3 やさしい文学作品の音読、読み取り、漢字ことばの書き

すうじ盤

画像引用元:公文学習療法センターHPより
画像引用元:公文学習療法センターHPより
レベル1 1~30の駒を並べる
レベル2 1~50の駒を並べる
レベル3 1~100の駒を並べる

※認知症高齢者に対しては、主にレベル1か2を用いる。

学習療法の方法

1.実施する利用者2名を選ぶ
認知機能の度合いや、同レベルの学習回答を得られる方ですとコミュニケーションが取りやすくなります(重度の認知症の方の場合は1対1で行う)
2.教材を用意する
利用者のレベルに合った、計算問題・文章の読み書きの問題集、すうじ盤を用意します
3.学習時間を設定する
学習時間は、各教科(計算問題・文章の読み書き・すうじ盤)5~10分を目安に、始まりの挨拶から終わりの退席まで30分以内になるよう調整します
4.回答用紙を渡す
日付・名前・時間は必ず利用者に記載いただいてください
5.回答結果を言う
利用者が問題を説いたらその場で採点をし、大きく「100点」と書くところを本人に見せ、達成感を感じさせます
6.学習結果のフィードバックを行う
「今日はいつもより早く解けましたね」「間違いが1つもないなんてすごいですね」など、褒めることを心がけます
7.コミュニケーションの時間を設ける
学習教材を通して、「小学校ではどの教科が好きでしたか?」「勉強は得意でしたか?」等、利用者が話しやすいように質問して会話を楽しみます

学習療法を行うときの注意点

できる限り継続して行う
短時間でもよいので、毎日継続して行うことにより、より高い効果が得られます
重度の認知症の方でない限り、必ず2人の利用者で行う
学習療法にはコミュニケーションの時間も含まれてます。2人で一緒に学習し、お互いに感想を言い合うことで、より前頭前野が活性化します
レベルの合った教材を選ぶ
脳の前頭前野が活性化するのは簡単な問題をスラスラ解いているときのため、難しい教材だと効果が期待できません。また、問題が解けないことで利用者が苦手意識を持ち、次回以降参加しにくくなる可能性があります
答えが間違っていた場合はすぐ採点しない
回答を見直してもらい、正解するまで繰り返します。間違っていても怒ったり、「なんでわからないのですか?」など言わないよう注意してください。学習療法に対して、怒られるイメージを持ち、自分自身を否定されたと受け止められてしまいます

学習療法で得られる効果

学習療法を行う利用者はもちろんのこと、介護スタッフへも効果があります。

認知症高齢者への効果

前頭前野の活性化
前頭前野にかかわる能力が回復し、話す言葉が明瞭になる
精神状態の安定
継続的に褒められることで、自身の存在を認められていることが認識でき、精神状態の安定が図れる
認知機能の改善
学習療法を実施した認知症高齢者は実施していない人に比べて、MMSE(認知症の簡易判定検査)の点数が維持もしく向上している

参照元:公文学習療法センターHPより
参照元:公文学習療法センターHPより

介護スタッフへの効果

信頼関係の構築
コミュニケーションの時間を取ることにより、その人の過去や思いを知ることができ、尊敬の念が自然と芽生えてきます。また、介護スタッフが興味をもって話を聞いてくれていると認識することで、信頼関係がより強固なものになります。
観察力・報告力の向上
利用者と向き合う時間を作ることにより、観察力がつき、気付きをケアに生かすことができます。また、学習療法を日報に起こし、ケア提供者全員で共有することにより、利用者の人なりを理解しやすくなります。

学習療法関連本

学習療法をより深く知りたい方に、学習療法で利用する問題集や学習療法関連本をご紹介いたします。



さいごに

学習療法によって、幻覚・幻聴などの周辺症状がおさまったり、夜の徘徊がなくなったという声もあります。楽しくコミュニケーションを取りながら行うことにより、日々のケアにつながり、認知症高齢者の方とよりよい関係を築いていけるのではないでしょうか。今後、全国各地の施設や事業所、ご家庭の中にも浸透していくことがことが予想される非薬物療法です!

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認知症ONLINE 編集部

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