「尿便意がない」は間違い?介護者が知っておきたい排泄介助の基礎知識

by 中村洋文中村洋文 41252views

こんにちは。理学療法士の中村です。介護現場で、「あの方は尿意(便意)がない」という言葉をよく耳にします。カンファレンス(※)や、介護現場実習を終えた学生たちのレポートにも、「尿便意がない」という記載が多々あります。本当に尿便意がないのでしょうか。生理学的にみた尿便意のメカニズム、そして適切な排泄介助についてお話いたします。

※自律神経障害が発生するレビー小体型認知症は除く

カンファレンス…医師やケアマネージャー、介護福祉士などが集まる会議。施設利用者や介護サービス利用者の状態・課題・問題点を検討し合う場

尿便意についての基礎知識

まずはじめに、人間はどのようにして尿便意を感じるのか、図を用いて説明いたします。

画像引用元:NERDS ON QUADS(2016/03/11アクセス)
画像引用元:NERDS ON QUADS(2016/03/11アクセス)

排泄中枢※尿便意を脳へ伝えるところ
S2~S4
尿便意を感じる量
尿:150ml~200mlから感じる
便:150ml程の便が直腸内壁を刺激し感じる
回数
尿:4~8回/1日
便:1~2回/1日
膀胱容量
300ml~500ml(成人)
排泄までにかかる時間
通常24~72時間

尿便意は、排泄中枢であるS2~S4(上図参照)に損傷や障害がない限り、感じることができます。つまり、「尿便意がない」のではなく「尿便意を訴えられない」ケースが多々あるのではと考えられます。この違いを理解しておくことは、介助を行うにあたってとても重要です。

尿便意を訴えられない理由って?

尿便意を訴えられない理由は認知症高齢者によってさまざまですが、主に「恥ずかしくて言えない」「トイレの場所を認識できていない」があります。では、どのように対応すれば尿便意を訴えてもらえるようになるのでしょうか。

恥ずかしくて言えない場合

認知症高齢者との信頼関係を築くことで改善できます。話を聞いたり触れあったりし、認知症高齢者に安心感を与え、「この人なら恥ずかしい話を言っても受け入れてくれる」と思ってもらえるようなケアを心がけましょう。認知症だからといって感情まで忘れてしまうわけではありません。

トイレの場所を認識できていない場合

トイレマークの表示位置を見直してみましょう。年齢を重ね視野が狭くなることで、上下左右が見えづらくなります。トイレへの誘導介助の際、トイレの場所が把握できているのか、トイレマークが見えているのか、確認してみてはいかがでしょうか。トイレの場所を認識できるようになれば、排泄自立へとつながります。

尿便意を感じる環境を把握する

人間は、副交感神経(リラックス)や交感神経(興奮)の働きによって排泄を行います。例えば、赤ちゃんをお風呂に入れているとき、おしっこをしてしまうことがありますよね。これは副交感神経の働きによるものなのです。

交感神経
身体を動かしている時など、興奮時に働く神経

交感神経

副交感神経
お茶を飲んでホッとしたり寝ている時など、リラックス時に働く神経

副交感神経

副交感神経や交感神経が働く環境下では排泄しやすくなるため、認知症の高齢者が食堂でお茶を飲みながらリラックス(副交感神経)したり、散歩やレクリエーションで身体を動かしたり(交感神経)する際、「何かサインを発してはいないか」と観察する必要があります。副交感神経や交感神経が働いている状態なのか適切に見極めると、排泄介助やトイレへの誘導がスムーズに進むのではないでしょうか。

オムツを使用することで生じる弊害

尿便意がないことで、オムツを使用するケースが多々あるのではと思います。しかし、オムツを使うことによって、以下のような弊害が生じてしまうのです。

小児様退行(赤ちゃん返り)

オムツ使用初期は、認知症の有無にかかわらず強い羞恥心を抱かせます。オムツ交換のたびに恥ずかしさや、屈辱的な思いに耐えなければなりません。

人間の心理的機能として、羞恥心などの心理負担が強くなればなるほど、できる限り精神を正常に保たせようと「防衛機制」を働かせます。そして、赤ちゃん返りと呼ばれる「小児様退行」を進行させます。赤ちゃんのように、お母さんにみてもらいたいという気持ちが起こるとどうなるでしょうか。コールボタンを何度も押したり、職員を何度も呼び止める高齢者はいませんか?

皮膚障害

オムツかぶれの他に、火傷のような症状を発症することもあります。便と尿が混ざることで、尿中のアンモニアが化学作用により強いアルカリ性に変化します。これは皮脂を取り除き、皮膚が持つバリア機能を奪い、皮膚をただれさせてしまいます。

火傷を負ってその場にじっとしていることはできませんよね。オムツかぶれや皮膚ただれが徘徊の原因なのかもしれません。尿便意は訴えられなくても、生理学的に皮膚感覚は残っているのです。

排泄自立に向けてのポイント

排泄介助
オムツの使用は最後の手段と考え、できる限り排泄自立にもっていけるよう、介助することを薦めます。以下、排泄自立にむけてのポイントです。

水分摂取について
年齢・体重・肝機能障害有無にもよりますが、1.5リットル~2.0リットルが摂取目安量です
食生活について
栄養バランスの良い、できる限り常食にこだわり、噛むことによる脳の活性化と食物繊維の摂取を心がけるようにしてください
生活リズムについて
定時睡眠・定時起床・定時排泄(トイレへの誘導)と、それぞれ時刻設定を行い、規則的な生活リズムを形成しましょう
運動について
交感神経を働かせたり、内臓の動きを活発にさせることで排泄効果が期待できます。無理のない範囲でレクリエーション等行うようにしましょう
利尿剤・下剤について
自然排泄の妨げとなるため、安易な服薬は避けるように注意してください
排泄時の姿勢について
直立姿勢では直腸角は鋭角となり、排便に相当な力を必要とするため、座位での排泄介助を心がけましょう(下図参照)両足を足台に乗せて股関節を深く曲げることも効果的です

直腸角

さいごに

失禁が多い認知症高齢者は、「尿便意がない」のではなく、「尿便意を訴えることができない」のだと理解することがまず重要です。介護士の強みは、認知症高齢者の生活をみている事だと思います。普段からの様子を観察し、何らかのサインを見逃さないことが介護士に求められているのではと考えています。そして、尿便意を訴えてもらい排泄自立を促すことが、自尊心を傷つけないケアへ繋がっていくのではないでしょうか。

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中村洋文

中村洋文

鹿児島県沖永良部島出身 介護福祉士 / 理学療法士 / 実務者研修教員/その他 病院、知的障害者施設、デイサービス管理者、介護老人保健施設、特別養護老人ホーム等の医療・福祉施設にて勤務。現場だけではなく、行政側の立場としても市役所勤務の中で介護保険にも携わる。介護保険認定審査委員も歴任。現在、福祉系専門学校での講師及び居宅介護支援事業所、訪問看護等の介護保険事業を手掛ける会社の共同代表として活動中。介護医療現場、また行政側の様々な経験をもとに認知症高齢者本人とその家族の想いを教育現場や全国各地での講演会等で発信しています。
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