運転をやめてもらうために家族がやっておきたい4つのこと

こんにちは。アルツハイマー型認知症(要介護2)の義父を介護している中嶋保恵です。今回は認知症と車の運転の話です。我が家のように電車はない、路線バスも一日数本、おまけにバス停までは数キロの坂道という田舎暮らしでは、車は生活必需品です。認知症と診断され、運転免許証を隠したり返納しても、そのこと自体忘れて徘徊運転したり、家族のいない間に運転し事故を起こしてしまう方がたくさんいらっしゃいます。そこで、車の運転を卒業するという喪失感やダメージを軽減する4つのポイントを紹介します。

前回記事:「認知症かな?」と思ったらまず、信頼できる医師を探そう

生活支援サービスを気軽に利用できることを伝え、生活に対する不安を取り除く

車が必需品の方にとって、車がない生活はイメージできません。「移動手段がなくなってしまう」「行きたい場所に行けない」と不安でいっぱいになってしまいます。このような場合は、生活支援サービス(※)を提案してみてください。地域の配食サービスや食材配達、外出支援や声かけなどさまざまなサービスがあります。信頼できる周囲の人から「こんないい方法があるよ。低料金で利用できるよ」と誘ってもらうのも効果ありです。車がなくても生活できる明るいイメージを持てるようにし、不安を一つ一つ取り除いていきましょう。

参照元:厚生労働省ホームページ内 生活支援サービスの充実と高齢者の社会参加
参照元:厚生労働省ホームページ内 生活支援サービスの充実と高齢者の社会参加
※生活支援サービス…NPO・民間企業・住民主体等が提供する、高齢者が住み慣れた地域で暮らしていくためのサービス

運転手以外の役割を見つけ、喪失感を軽減させる

男性の多くは、「車の運転ができない=家族のためにできることがない」と考えてしまいます。中には「もう死んだも同然」と悲観する方までいます。女性は炊事・掃除・洗濯を、男性は仕事・お出かけ時の運転手を何十年と担っていることが多いからです。

マズロー5大欲求
アメリカの心理学者アブハム・マズロー欲求5段階説によると、人間は5段階の欲求をもち、上図一番下の「生理的欲求」の次に「安全欲求」が現れ、続いて「社会的欲求」が現れます。

「社会的欲求」というのは、自分が社会に必要とされている、果たせる社会的役割があるという感覚を指します。情緒的な人間関係・他者に受け入れられているという感覚もそうです。この「社会的欲求」を感じられないと、孤独感や鬱状態をもたらすことがあるため、注意が必要です。

「新聞を取りに行く係」「天気予報を報告する係」等、日々行っている違う役割にスポットを当てたり、認知症の進行状況に応じて、新たな役割をお願いしてみましょう。運転手という役割が担えなくなったことから気をそらさせ、プライドを保てるよう家族で支援していくことが重要です。

「あなたがいればそれでいい」と存在そのものを認め、安心感を与える

感謝画像
運転手としての役割が果たせないことで、自分の存在自体が消えてしまうような不安を感じる場合があります。自らの存在を誰かに認めてもらうことで、この不安を減らすことができます。マズローのいう「尊厳・承認欲求」です。他者から承認されることは、安心感をもたらします。また、自分自身を認めることにもつながり、精神的な安定をもたらします。

例えば、日々の細やかな会話の中に「ありがとう」「助かったわ」と感謝の気持ちを伝えたり、「さすがですね」「あなただからこんなことができるのですね」「すごいね」等さりげなく称賛したりするのもよいでしょう。相手の表情が緩むような言葉が見つかると、ここぞというときに、心を通じ合わせる魔法の言葉にもなりますよ。

運転をやめる選択が自分でできるよう、家族でサポートする

家族画像
うちの場合は、義父と2人きりの時に、「お父さん、ちょっと相談があるのだけれど…」と話を切り出します。これは宇宙から引き戻す魔法の言葉なんですけどね。こう切り出すと、スーッと元の父に戻り、本音で色々な思いを語り始めます。

「ちょっと相談があるのだけれど…新聞に自転車事故の損害賠償が1000万円と載っていました。お父さんがどんなに気を付けていても、もし交通事故をおこしたらそんな大金払えますかね…?もし相手が亡くなったら、お父さんだけの問題ではなくなりますね。私も孫息子もその罪を背負って償い続けていかなくてはならなくなってしまいますね…」とポツリポツリと困り果てたように話しかけます。

しばらくすると義父は「わしもそれは心配しよった。孫息子にまでそんな思いをさせるわけにはいかんなあ。思いもよらんことが起こるかもしれんし、運転をやめることを考えんといかんな…」と返ってきます。

認知症?と感じた時から何年も繰り返した会話です。運転を諦められるような気持ちにしていく。大事なのは強制的に運転をやめさせられたという絶望感を抱かせないことです。いつかくるその日に備えて、「運転をやめる」と自ら選択できるよう、精神的なサポートをしながら、一緒に心の準備をすることが大事です。

我が家の運転卒業プラン~環境編~

心の準備

義父は15年前、地域で民生委員やお寺の世話、家庭で孫の送迎係や妻の運転手、そして仕事の農業と、多くの役割を担っていました。認知症かな?と感じた時から、運転卒業のダメージを少しでも減らせるよう、義父が達成感(少しでも)が得られる役割を見つけて、移行していくことにしました。

地域・家族が協力して役割を見つけていく

社会的役割を担えるよう、地域の方に協力を依頼し、お寺の世話役などに参加させてもらいました。ミスが目立つようになり、自分から「辞めよう」というまで、長く続けることができました。自宅では、運転以外の役割を果たしてくれることに感謝し、義父の存在を認めていることを伝えてました。

出来なくなった役割を見るのではなく、続けることのできる役割にスポットをあてることもしました。「鶏の世話係」「風呂焚き係」「農業の先生」等、以前から担ってきた役割さえも、いずれは果たせなくなる日がきます。いつも次の役割を何にしようかと考えています。時には、出来ることプラスちょっと考えたり工夫がいることも役割としてお願いすることで、充実感+脳の活性化を図ることも出来ます。

現在

要介護2の現在は「お仏飯係」「結露拭き係」「洗濯物取り入れ係」などをお願いしています。自分の家を認識できなくなってきた今、「なんであんたの家の仕事を俺がせなか!」と言い返すこともありますが、これからも出来ることや笑顔になれることを見つけていきたいなと思います。

さいごに

「運転を止めよう」「卒業しても大丈夫」と自己選択できる環境をつくることが大事です。認知症の人は自分の物忘れを自覚し、できなくなることや失うことの不安を抱えています。どうなってもみんながサポートするから大丈夫という家族や地域の支えこそが、ポイントではないかと思います。

なーんて思いつつも、いつも優しく穏やかに向き合えるはずもなく、時に腹を立てたり、喧嘩をしたり、うまくいかないこともたくさんあります。嫁の私は福祉専門職でも家族ですから…と言い訳しておきますね(笑)

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中嶋 保恵

中嶋 保恵

山間部で介護職や介護支援専門員として従事し20数年。たくさんの認知症の方と過ごしてきた。家では要介護4の認知症の義父を介護。愉快な、時として大変な毎日を送っている。専門職としてこうすればいいとわかっていても、笑顔で優しくできないこともある嫁の私。そんな毎日の中から見つけた認知症介護の細やかなヒントがどなたかの参考になれば幸いです。社会福祉士。精神保健福祉士。主任介護支援専門員。認知症ケア専門士。

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