現役介護福祉士が「嫉妬する」映画『つむぐもの』とは?犬童一利監督インタビュー

つむぐもの インタビュー

3月19日(土)より有楽町スバル座を皮切りに公開が始まる映画『つむぐもの』が、介護業界で注目されています。日本の介護現場の厳しい現状をリアルに鋭く切り取りながらも、介護を通して生まれる「人」と「人」としてのつながりを描いた本作。今回は、「この映画を観て、自分の中の介護観に衝撃が走った」という現役介護福祉士の川上陽那さんと、映画監督の犬童一利さんに、本作を通して描かれる、介護現場の理想と現実、介護職の本質的な価値について語っていただきました!

【プロフィール紹介】
監督:犬童一利
1986年生まれ。大学卒業後、会社勤めを経て映画の道へ。2010年、短編『フリーバイバイ』がSHORT FILM FESTA NIPPON2010に入選。2014年、ゲイの大学生の葛藤を描いた『カミングアウト』で長編デビュー。国際レズビアン&ゲイ映画祭で上映され、大きな話題を呼ぶ。最新作は芸能界で日本一の姉妹を目指す少女たちを描いた『早乙女4姉妹』(2015年)。

川上 陽那さん正面
1995年生まれ。介護福祉士1年目の20歳。幼い頃からじいちゃんばあちゃんと一緒に暮らす。栃木の介護福祉士養成校を卒業後、東京都内の特別養護老人ホームに就職。介護福祉士としての現場の声を少しでも外の人へ伝えるべくブログ「hyeaaaaaaaah!!!!わたしが 旅する介護福祉士に、なるまで。」を運営しながら、認知症ONLINEでも記事を執筆中。

作品紹介、あらすじ

『つむぐもの』チラシ表面(越前和紙)
福井県、越前。倒れても人の手は借りたくないがんこ職人で、半身麻痺になった剛生(石倉三郎)と、韓国からやってきたおちこぼれ介護士ヨナ(キム・コッピ)が出会う。初めは「おい韓国人!」「クソジジイ!」とお互いを呼び合い、最悪の関係だったふたり。しかし、ヨナの常識にとらわれない、破天荒な介護は、固く閉ざされた剛生の心をだんだんと開いていく――。

本作は、これまで数々の北野武作品等で圧倒的な存在感を放ってきた石倉三郎の初主演映画。また、共演のキム・コッピは映画『息もできない』で多数の映画賞を受賞し、国内外で注目を集める映画女優。他、新人介護士役にはNHK連続テレビ小説「あさが来た」でレギュラー出演中の吉岡里帆、今年4月公開の映画『ちはやふる』にメインキャストとして出演する森永悠希など、注目俳優が脇を固めます。

「介護の理想と現実の狭間でもがく私みたい」

川上 陽那さん正面

まず映画を観て、今の介護現場がとてもリアルに描かれていてビックリしました。特に、物語の舞台になっている特別養護老人ホーム「なごみ」の介護風景。私も今特養で働いているんですけど、あるある…っていうシーンが沢山ありました。

犬童監督正面
実際に介護職として働いている人にそう言ってもらえると嬉しいです。中でも特に印象深かったシーンってありましたか?
川上 陽那さん正面

例えば、主人公のヨナが日本の介護現場を初めて目にする、物語序盤のシーンです。「福祉は、“ふだんの、くらしを、しあわせ”にするもの」と理想を語る新人介護士の涼香に対して、ヨナは「でも、おばあちゃん笑ってないよ」と素直な感想を漏らしますよね。あ、これ私が初めて介護施設で実習したときと同じ印象だ!って思ったんです。

「つむぐもの」サブ7

犬童監督正面
川上さんも介護現場で同じ違和感を感じたことがあったんですね。
川上 陽那さん正面

はい。介護現場で働く職員の人たちの笑顔や声かけはやたら明るいんですけど、向き合っているお年寄りはめっちゃ無表情で。その無表情の理由を探ろうとしているようにも見えなくて。映画を観ながら、当時の違和感がどんどん蘇ってきたんです。私も、現場で働いてもうすぐ1年になるんですけど、やっぱり日々の業務に追われてしまいがちなところがあって。新人介護士の涼香が抱く理想と現実のギャップや葛藤よくわかります。

時間に追われた瞬間にケアの質が落ちる経験をしたし、その瞬間すごくストレスを感じました。心が時間や日々の業務にとらわれている限り、この仕事を思い切り楽しめない。当然相手にも伝わるわけで、その結果お年寄りも笑顔になれないんですよね。

犬童監督正面
この映画を作るにあたって、たくさんの介護施設を取材しました。そこで、介護に熱い志を持って働き始めた人が数年現場で揉まれるうちに、日々のルーチン業務に忙殺されていってしまう現状を目の当たりにしたんですよね。

自分なりに一生懸命に働いているんだけれど、無意識の行動に「やってあげている感」が出てしまっていて、お年寄りからは信頼されず、空回ってしまう…そんなギャップの間でもがく、介護福祉士の葛藤を表現出来ればと思いました。
川上 陽那さん正面

劇中で、ベテラン介護職のようこが利用者のお年寄りに抵抗されて思わず手を上げてしまう時に叫んだ「介護は綺麗事だけじゃ全員を救えないのよ!」という台詞も印象的でした。それも分かるなぁ、って。

犬童監督正面
一人ひとりの個別ケアばかりでは、全員をケア出来ない、という考え方も伝えたかったんですよね。理想を持って働きたい自分と現状とのギャップに苦しんでいる介護職の方って本当に多いと思います。

「介護の仕事の醍醐味を突きつけられた気がした」

「つむぐもの」サブ3

川上 陽那さん正面

ヨナの剛生への接し方って、世の中の常識的な介護の枠からは大分はみ出ているんですよね。半身麻痺があるにもかかわらず、和紙作り教室の講師として地域の人の前に立たせたり、「ずっと家にいると暇だから」と旅行に連れ出したり。

犬童監督正面
一般の介護施設でやったら、怒られるだけで済まないやつですね。
川上 陽那さん正面

でも、一つひとつの行動には全部、剛生本人の視点からみた理由がある。これまで剛生がずっと大切にしてきた和紙作りなら楽しめるんじゃないか、とか。だから、ヨナと剛生は本来、介護者と被介護者と呼ばれる関係なのに、“お世話している/されている”という感じがしませんでした。

ヨナは、食事をうまく口に運べない、とか、夜中にトイレに行けずに漏らしてしまった、とか、困っている人が目の前にいたら、呼吸するみたいに当たり前に手を差し伸べているんですよね。とても自然な光景で、それが介護の本質だよなぁ、と思ったんです。

犬童監督正面
介護の知識も経験もないヨナの言動から、介護の可能性を感じたわけですね。
川上 陽那さん正面

はい。介護の仕事の醍醐味を突きつけられた感じがしました。あんなに頑固だった剛生の心を開いていったヨナの姿を観て、めちゃくちゃかっこいい!!って思ったし、介護福祉士として相当悔しさを感じました。

私がなぜ介護福祉士の仕事に魅力を感じているかというと、単なる介護者と介護される側を超えた先に、人と人との関係性を築くことができるからで。それがたのしくて介護の仕事をやってるんだなって。ヨナに大切なことに気付かされました。

犬童監督正面
介護現場の取材をする中で、ある介護福祉士の方から「介護の仕事ってオムツ替えとか食事介助とか生活介助をイメージする人が多いけど、それは業務にすぎない。その人が最期までその人らしく人生を楽しめるようにお手伝いをすることが介護の本質」と教えてもらいました。正直、最初は綺麗事にしか思えなかったんですよね。

でも、沢山の介護職員の方の話を聞いたり、実際の介護現場で働かせてもらったりするうちに、人と人との関わりがあるからこそ介護の価値が発揮できるんだな、と気づきました。介護福祉士という肩書はもちろん、国境も言葉も年齢も、関係ないんだな、と。
川上 陽那さん正面

そうなんですよ。介護に一番大事なことって、特別なことじゃないんですよね。映画を観て、もう一生カイゴとかフクシとかって言葉を使いたくなくなりましたもん。使わないと伝わらないっていう現状が悔しい。(笑)

介護の現場に疲弊している人にこそ観てほしい

「つむぐもの」メイン.

川上 陽那さん正面

私、この映画を観た後、自分の中の介護観がちょっと変わりました。

犬童監督正面
そうなんですか。ちなみに、どのあたりが変わりましたか?
川上 陽那さん正面

単純に、目の前で今を生きているお年寄りともっともっと本気で向き合いつづけよう!と思えたんです。「今をどう楽しんで一緒に生きるか?」を考えて働いたら現場で笑いが増えて、いい雰囲気が作れるようになりました。

あと、業務を回すことに一生懸命なベテラン職員に、「深呼吸してくださいよ~」みたいな呑気なことも言えるようになりました。(笑)もうとことん、 目指せ!ヨナ!!!ですね。

犬童監督正面
目指せヨナ(笑)、いいですね。今、虐待とか殺人とか、連日そんなニュースを目にしますけど、介護の現場ってそんなに暗い側面ばかりじゃないことはもっと知られるべきだと思っています。

この作品を通して、これからの日本にはやはり人と人との“心のふれあい”が欠かせないということ、介護にはそれが実現できる可能性があることが伝われば嬉しいです。今、介護現場で疲弊してしまっている人や、辛いと感じている人にこそ、観て欲しいですね。

川上 陽那さん正面

ほんと、介護福祉士としての初心を思い出させてくれる映画です。もう一回観にいきます。今日はありがとうございました!

映画「つむぐもの」2016年3月19日有楽町スバル座ほか、全国順次ロードショー
「つむぐもの」公式サイト
「つむぐもの」公式Facebookページ

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認知症ONLINE 編集部

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