介護者も知っておきたい高次脳機能障害の基礎知識

by 中村洋文中村洋文 80286views

現在、福祉系専門学校での講師、及びクリニックでの理学療法士として活動しております中村と申します。今回お話したいのは、高次脳機能障害と認知症の違いについてです。高次脳機能障害と認知症は症状が似ており、とても間違えやすいです。違いを押さえておくことで、それぞれの専門家の早期介入につながり適切な対応が可能になりますため、私の経験をふまえてご説明いたします。

はじめに(脳の機能と高次脳機能障害について)

まず、高次脳機能障害を理解するためには脳の基本的な機能を理解する必要があります。人間の脳は主に下記の6つの機能があります。

  1. 視覚:目で見た物を認識する
  2. 聴覚:様々な音を耳を通じて認識する
  3. 嗅覚:様々な匂いを鼻を通じて認識する
  4. 体性感覚:熱い・冷たい・硬い・柔らかい等を認識する
  5. 運動:四肢や体幹、顔を動かす
  6. 高次脳機能:認知、感情、言語等を支配する

脳はこれら6つの機能をフル活用して①~④は外部からの情報を処理する役割で、まとめて「知覚機能」とも呼ばれます。⑤・⑥は知覚機能を基に働く機能です。すべての脳機能において、①~④のインプットと⑤・⑥のアウトプットが正常に機能することで私たちの動きが成り立っているのです。

高次脳機能障害とは、脳に損傷などがあることによって、インプット→アウトプットが正常に機能しない状態を表します。例として歯磨きの動作を使ってご説明いたします。

  • 脳が正常な場合

目の前にある歯磨き粉を歯ブラシに適切な力でチューブを握り、適量をブラシの毛先へ出す事ができます。脳は知覚機能と運動機能を活用して目的の動作を達成させます。
正常1

  • 高次脳機能障害の場合

目的を達成するための動作をうまく取れないため、歯ブラシを使わずに歯磨き粉のチューブで歯を磨いてしまうこともあります。
異常1

高次脳機能障害の原因と症状

高次脳機能障害は脳の損傷によって、機能に問題が生じた状態です。高次脳機能障害は、脳腫瘍、脳炎、脳血管障害、アルコール症などさまざまな疾患が原因となり発生します。

高次脳機能障害の症状は、以下が代表的な症状です。

精神系

  • 精神的に疲れやすい(易疲労性)
  • キレやすい(脱抑制、易怒性)
  • 集中力がない(注意障害)

行動系

  • 物事を自分から始められない(発動性の低下)
  • 物事を計画して実行することができない(遂行機能障害)
  • ある状況のもとで正しい行動がとれない(失行)

その他

  • 物事を決められない(判断力の低下)
  • 言葉を理解・表現できない(失語症)
  • 身近な物や身体を認識できない(失認)
  • 時間と場所の感覚がない(見当識障害)

脳の損傷した箇所によって出現する症状が変わってきます。
画像1

画像引用:公益社団法人東京都医師会 資料1(2016/02/23アクセス)

高次脳機能障害と認知症の違い

認知症も脳の機能に障害がある状態ですので、高次脳機能障害の1つと言えます。高次脳機能障害は早期のリハビリによって障害を受けた部分が回復する可能性がありますが、認知症は(人によって速度の差はありますが)徐々に機能が低下していく点が違いです。

高次脳機能障害の特徴
非進行性で、適切な診断による早期リハビリで、障害を受けた部分が回復する可能性がある。
認知症の特徴
人により速度の差はあるが、認知機能が徐々に低下していく。

高次脳機能障害の治療法

高次脳機能障害には様々な症状が現れます。その症状に合わせた対応方法があるため、「この方法で全てを賄える」というのは存在しません。しかし、それぞれの症状に共通しているのは早期のリハビリテーションの介入により症状の緩和、改善が見込める事があります。

病院
最近は高次脳機能障害科など高次脳機能障害に特化した診療科が増えておりますが、お近くの医療機関になければ脳神経外科及び精神科、神経内科などの受診でも診断が可能です。「認知症だから~」等と一括りにしてしまい、介入が遅れてしまうと改善までもが遅れてしまうこととなりかねません。

高次脳機能障害は疾患や傷害が原因のため、脳画像の撮影・診断、もしくは症状が発症するまえに頭をぶつけたようなことがないか、是非確認してみてください。

当事者・家族の事例紹介

高次脳機能障害は一部の動作がうまくいかないケースが大半なため、通常は正常に見えることが多く、まわりの理解を得られずにお互いに苦しむ、悩むことがあります。

自分の部屋がわからずに家の中を「徘徊」のようにウロウロしてしまう、突然ひとが変わったように暴力を振るってしまう、逆に全く動けなくなってしまうなどがあります。

筆者が相談を受けた事例を2つ紹介いたします。

事例1(40代前半女性の場合)

近くに住む家族の父親から「娘が突然、暴言を吐いたり、服を何度も脱ごうとする」という相談を受けました。父親は豹変した娘を理解することができず、力づくで押さえて対処していました。

そこで、私が勤めていた病院で検査をしてみたところ、脳に損傷があることがわかりました。後日、仕事帰りに同僚と飲んだ時に、酔っぱらって階段で頭部を強打していたことが判明しました。
画像2
作業療法士によるリハビリ治療を受けて、暴言や服を脱ぐ行為は落ち着いたそうです。当時から約10年経ちましたが、現在は障害者支援センターを利用し、社会復帰に向けて頑張っていらっしゃるようです

事例2(50代後半男性の場合)

筆者の身内に脳出血が原因で高次脳機能障害を発症した方がいます。運動機能の後遺症もなく、認知症の簡易検査のHDS-R(長谷川式簡易知能評価スケール)や記銘力検査などでも得点は高かったのですが、カタカナだけ認識ができなくなっていました。脳出血によってカタカナを認識する箇所だけに障害が発生したのです。
リハビリ男性
約半年、言語聴覚士とカタカナを1から学習するリハビリを行い、順調に回復することができました。入院中に奥さんが持ち物にカタカナで名前を書いていたのですが、カタカナを理解できなくなってしまったため、当初は「認知症を発症してしまった」と勘違いをしていたようです。

印象的だったのは「カタカナという記憶はあるが、カタカナの文字を見てもそれが何なのかわからなかった」「象形文字を見ているようだった」と話していたことでした。

普段の様子をよく観察しよう

「みる」には4つの意味があります。
見る / 観る / 診る / 看る
高次脳機能障害は疾患や傷害が原因ですので、比較的わかりやすいのですが、状況によっては認知症と誤解してしまうことがあります。普段の様子をしっかりと「みる」ことを心掛けて、判断に迷う場合は脳の検査を受けてもらうようにしてください。早期に発見し、専門家によるリハビリによって回復する可能性を高めることができます。

関連記事:高次脳機能障害で現れる記憶障害と認知症の記憶障害の違い

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中村洋文

中村洋文

鹿児島県沖永良部島出身 介護福祉士 / 理学療法士 / 実務者研修教員/その他 病院、知的障害者施設、デイサービス管理者、介護老人保健施設、特別養護老人ホーム等の医療・福祉施設にて勤務。現場だけではなく、行政側の立場としても市役所勤務の中で介護保険にも携わる。介護保険認定審査委員も歴任。現在、福祉系専門学校での講師及び居宅介護支援事業所、訪問看護等の介護保険事業を手掛ける会社の共同代表として活動中。介護医療現場、また行政側の様々な経験をもとに認知症高齢者本人とその家族の想いを教育現場や全国各地での講演会等で発信しています。
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