職員の声かけが「頻尿」にさせていた?!

職員の声掛けが「頻尿」にさせていた?!

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【問いかけの言葉が頻尿の原因?】

職員は「頻尿」の利用者への対応に困っていた。
特に夜間の「頻尿」に悩まされていた。

夜間、部屋から出てくるので
職員が「トイレですか?」ときくと
本人は「はい」と答える。
ところが、何度も連れて行くのでほとんど排泄されないという。

さて、これは本当に尿意を伴う「頻尿」なのかしら?

「トイレですか?」ではなく
「どうされましたか?」と聞けば
また違う答えが返ってきたかも。

もしそうだとしたら
「頻尿」を引き起こしていたのは
職員の「問いかけ」なのかもね。

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職員が「頻尿」ととらえた出来事

 今回の話は実話でして、事例検討をした時には大きな気づきになりました。この利用者は、他の利用者に比べるとトイレに行く頻度は多いようです。実際に排尿があれば、トイレ介助もやり甲斐を感じるけれど、トイレに連れて行ってほとんど排尿がないと、ついついイライラしてしまうので困っていたのだそうです。

 具体的な状況を確認すると、夜間に訴えが多く、昼間は訴えが少ないということでした。そこで、職員に昼間と夜間のそれぞれの場面でのやりとりを聞くと、違いが見つかったのです。

昼は「どうされましたか?」、夜は「トイレですか?」

 どうやら昼間は、イスから立ち上がり歩き出した利用者に対して、「どうされましたか?」と声をかけていたようです。すると、利用者からは「トイレに行く」「ちょっとぶらぶら歩く」「外の景色が見たい」といった返事がありました。

 一方、夜間帯に部屋から出てきた利用者を発見した職員は、「トイレですか?」と声をかけ、利用者が「トイレです」と返事をして、トイレに連れて行っているということでした。夜間であっても、必ずしもトイレとは限らないのに、「トイレに違いない」という目線で、声をかけていたようなのです。

それって本当に「頻尿」?利用者の本音は・・・

 これだと、職員が利用者から「トイレに行きたい」という返事を引き出していると見ることもできます。事実、夜間帯に、利用者が部屋から出てきた時に、「どうされましたか?」と声をかけてみると、「トイレに行きたい」と言う他にも、「喉が渇いて飲み物が欲しい」「眠れない」という返事もあったということですから、特に夜間も「頻尿」があったというわけではないようです。利用者は、「トイレですか?」と聞かれて、ついつい「そうです」と答えてしまっていたのかもしれません。

安易な「ラベリング」がコミュニケーションのすれ違いを生む

 皆さんは、「ラベリング」という言葉を聞いたことがあるでしょうか? ある事柄をみて、「これは○○である」と分類することを指すのですが、ここでは「頻尿」がまさにそれに当たります。実際に他の人と比較して、トイレに排泄にいく回数が多いことを「頻尿」と言いますから、間違っているわけではありません。ただ、この場面での問題は、ラベリングの逆転現象にあります。

 「頻尿」というラベリングがあると、利用者が「トイレに行きたい」と発言していなくても、イスから立ち上がったり、部屋から出てきたりするだけで、職員の中に「あ、またトイレだな」というとらえ方が湧いてくるようになります。その結果、「トイレですか?」と閉じた質問(はい・いいえでしか答えられない質問)を無意識にしてしまうということが起きがちです。

 また、職員の「トイレですか?」という質問に、利用者が答えたとすると、他の誰かに状況報告をする場面で、まるで本人から「トイレに行きたい」と訴えてきたかのような誤解を招く表現に言い換えることも起きてしまい、「やっぱりあの人は頻尿なんだな」という認識が強化されてしまいます。

何が起きているかは、聞いてみないと分からない

 繰り返しになりますが、ラベリングがあると決めつけたコミュニケーションになりがちです。ワンパターンな展開の会話が繰り返されているとしたら、要注意なのです。「またか…」とらえている自分に気づいたら、ひと呼吸おいて、「どうされましたか?」と声をかけてみるようにしましょう。いつもとはまた違った展開の会話になり、ラベリングから解放され、いままで気づけなかったケアの手がかりが見つけられるかもしれません。

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裵 鎬洙
コーチ 認知症ケアスーパーバイザー コミュニケーショントレーニングネットワーク(CTN)講師 介護支援専門員実務研修・専門研修講師 【略歴】 1973年生まれ。兵庫県在住。大学卒業後、訪問入浴サービスを手がける民間会社に入社。その後は介護施設で相談業務に従事。コミュニケーショントレーニングネットワーク(CTN)にてコーチングやコミュニケーションの各種トレーニングに参加し、関わる人の内面の「あり方」が ”人”や”場”に与える影響の大きさを実感。介護に携わる様々な立場の人に、知識や技術だけでなく「あり方」の⼤切さを発見する研修やコーチングセッションを提供。著書『理由を探る認知症ケア~関わり方が180度変わる本~』。介護福祉士、介護支援専門員、主任介護支援専門員。
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