認知症の症状悪化の原因は「介護者の心の不安定」

by 石川深雪石川深雪 31813views

はじめまして。グループホームで介護職として働いています、石川深雪と申します。介護の仕事に携わって約15年。これまで多くの認知症の利用者さんと関わってきました。そんな中、つくづく感じるのは、まわりの環境次第で認知症の症状の出方は全く変わるということです。軽度重度問わず、その変化の違いに驚く瞬間をいくつも経験してきました。

それは問題行動?それとも個性?

拒否、徘徊、暴力、暴言、抑うつ…。認知症の周辺症状(BPSD)として表れるこうした症状は、元々介護の世界で「問題行動」と呼ばれてきた歴史があります。

私が今勤めているグループホームも、開設して間もない頃、こうした症状の出る利用者さんが何人もいらっしゃいました。夜中に大声を出して暴れる人、被害妄想が強く、他人を信用できずにトラブルを引き起こす人…等々です。

当時、私たち職員の目には、「認知症だから、問題行動を起こす人なのだ」と映っていました。

しかし今思えば、あれは問題行動なんかではなかった。その人が本来持っていた個性を、私たちが「問題」に変えて、引き起こしていたのです。

職員同士がギスギスすれば、利用者もギスギスする

振り返れば、当時の職員同士の人間関係はひどいものでした。

「仕事の効率を上げたい」職員と、「まずはお年寄りとの関わりが大切」な職員。それぞれの意識の差、価値観の差が、対立を招きました。お互い歩み寄ることができず、職員間の会話はトゲトゲしくなり、利用者さんのいる前でほかの職員の愚痴をこぼす…。職場の環境はどんどん悪化していきました。

職員間に大きな溝ができていると、当然ケアにも影響が出てきます。利用者のお年寄りは、敏感にその状況を受け取って、問題行動と呼ばれる症状は、よりいっそう強く出ました。その結果、「こんなに重度の人ばかりの施設で働けない」と辞めていった職員もいました。

環境の変化が、お年寄りの表情を一変させた

開所後半年が過ぎたころ、環境がガラリと一変します。職員の半数が入れ替わり、職場の雰囲気が大きく変わったのです。立ち上げから携わり、同じ意識を持つ職員を中心として、活気づいてきました。そうすると、すぐにお年寄りにも変化があらわれたのです。

非常に神経質で被害妄想が強く、居室に閉じこもっていた女性がとてもにこやかになり、居室から出て過ごされる時間が多くなりました。レクリエーションにも積極的に参加されています。

不安が強く寂しがり屋で、夜中でも職員や娘さんの名前を呼んでいた女性。当時は「不眠」ということで睡眠導入剤も処方されていましたが、今では服薬はせずに夜間もよく眠られています。ホーム全体に、それまでとは比べ物にならない位、穏やかな時間が流れるようになりました。

「認知症の症状悪化の原因は、病気じゃなくて私たち介護者だったんだ。」周りの環境が与える認知症ご本人への影響を痛感した経験でした。

認知症の人にとっての「よい環境」とは

辞典を引くと、「環境」=「まわりを取り巻く周囲の状態や世界」とあります。これを介護視点から見て、具体的に置き換えてみるとどうなりますか?

  • 建物のつくり
  • 毎日の食事
  • 周囲の人間関係
  • 職員からの声がけ
  • 日々の活動性
  • 体調の管理
  • 医療との関わり

ほかにもたくさんの要素がありますが、中でも「介護者の心の安定」は、全ての土台となります。介護者本人が大きなストレスを抱え、疲れ切っている状態では、認知症の人の心に優しく寄り添うことは難しくなってきます。土台が不安定なまま、表面だけ無理をしては疲労がたまっていつか壊れてしまいます。実際、わたしがそうでした。

頑張っている人ほど、認知症の人に対してイライラしてしまう自分を心の中で責めたり、人の目を気にしてストレスを溜めたりしているケースもよく目にします。

人手不足の施設も多いでしょう。腰痛に悩まされながら仕事を続けている人もいるでしょう。「お年寄りのために」と思う気持ちもよくわかります。

でも、認知症の人の笑顔を支えているのは、介護者のあなたの心からの笑顔であるということを忘れないでください。介護者の安定した状態から「安心」が生まれ、その中でこそお年寄りの笑顔が輝くのだと思います。

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石川深雪
大学卒業後、15年間介護職として勤務。そのうち10年間はグループホームに勤務し、認知症介護の魅力にひきこまれる。3年前、人間関係のストレスからうつ状態になり、その後回復。それらの経験から、「介護の仕事をする人のサポートをしたい」「認知症介護の魅力を発信したい」と強く思うようになり、2017年1月に独立。現在はLINE@を利用しての仕事の悩み相談や、メルマガブログにより介護に関する情報を発信中。今後はセミナー講師としても活動していく。[保有資格]介護福祉士、社会福祉士、保育士、認知症介護実践者研修修了
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