介護福祉士1年目の川上陽那です。介護現場で働いていたり、家族介護をしていたりすると、本当にどうしようもできない状況になる時ってありませんか??教科書通りに、周りからのアドバイス通りに動いてみても、上手くいかない。わたしは普段、特別養護老人ホームで働いていて、そんな状況に結構ぶち当たります。
前回の記事:認知症になっても大丈夫!!!って教えてくれたポジティブばあちゃんの話
叫び続けるばあちゃんに「耐える」しかできない
うちの特養に入居されている、脳血管性認知症を持つ要介護5のばあちゃんの話。いつも、机をバンバン叩いて、「ぎゃーーー!!」って叫び続ける、ばあちゃん。
「どうしたんですか?大丈夫ですか?」
投げかけてみても、教科書通りの「傾聴」をしてみても、全く止まらず、エスカレートすることも少なからずありました。
「ああもうどうしたらいいの!?!?!?!?!?!?
私じゃどうしょもできないよーーーーーーーーーー!!!!!! 」
ってなった時、今までは耐えて耐えて耐えまくる。たまに、逃げる。どうしようもできない自分に腹がたつのと同時に、自分を押し殺して我慢することしかできてませんでした。日に日に何も出来ない自分が情けなくなってきて、
「プロとしてどうなの?!」「いやいやかっこ悪くない?!」
と自問自答するようになりました。
たった一言の挨拶で、症状がピタリと止まった
毎日、不甲斐なさをどうにかしたくて、何か変えられることはないかな~って思いながら働いていました。そしたらある日、びっくりする発見をしました。
それは何かというと、“挨拶をすると穏やかに戻る瞬間がある”ということ。日々接している中で、不穏とよばれる症状がでている時でも、挨拶をすると、ふっと我に返る時があるなぁと気づいたんです。
ある日も、ばあちゃんは机をバンバンたたきながら、叫んでいました。
「わ~今日も叫んでるなあ~。どうしようか~」なんて思いながらも、普段は仕事に入る最初の時にしか挨拶をしていなかったのを、その日はばあちゃんが叫んでいる途中に、あえていつものように挨拶をしてみました。
「◯◯さん、こんにちは~」
そうすると、すごいんです。今まで叫んでいたばあちゃんが不思議と我に返ったように、わたしの顔をみて「あら、こんにちは~。」って返してくれるんです。
「本来の姿に戻ってるやんけーー!!!」
と、叫びたくなるくらいの感動でした。
しかも!(ここからが本題です!)
こちらから「◯◯さん、どうしたんですか?」って聞くまでもなく、はっきりと、「今自分がどうして欲しいのか」を言葉で教えてくれたんです。
「あのー、ちょっと私ね、トイレに行きたいの…」
ちょっと恥ずかしそうに、小声で。認知症の症状がなくなる瞬間をみました。
「ああ、ばあちゃんこんなことが言いたかったんだ!」
と腑に落ちた瞬間でした。
本来のその人が戻る瞬間を見逃さない
そのばあちゃんが正常な状態に戻るのは、20秒~5分くらいの短い間です。けれど、それ以来私は、ばあちゃんの気分が乱れるたびに挨拶をして、「本当は何が言いたいの?」とたずねています。もちろん、失敗することもありますが、「実はお寿司が食べたいの・・・」なんて本音をこぼしてもらえる度に、心の中でガッツポーズをしています。
他の認知症を持つ利用者さんでも、似たようなケースが見られます。きっかけは挨拶だったり、こちらの他愛無い冗談だったり、色々です。ふとした瞬間に、正常な状態に戻る認知症の人は結構多いと感じています。
認知症という病気の世界に、こちらが入ろうとしても、うまくいかないことは多いです。突然スイッチが入って、興奮状態にある時には、どうしても話が通じなかったりします。
でも、「本来の自分に戻る瞬間」が分かれば、その時になにがしたいのか、なにを伝えたいのか、聞き出すことができる。
ってことをわたしはこの時、体感しました。
「本来の自分に戻る瞬間」って、たぶん我々介護者側が気がついていないだけで、いっぱいあるのかもしれない。そんな瞬間を意識してつくって、見逃さず、声を聞き続けていきたいなぁと思います。だって、じいちゃんばあちゃんのために聞いた声が、結局、介護者である自分のためになるんだもん。
※トップの写真は、私を育ててくれた大好きなばあちゃんと私です。(本文とは関係ありません)
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川上 陽那

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